愚者は経験から学ぶ 賢者はFマリノスから学ぶ

はじめに

継続して優勝争いができるサッカーチームを作るにはどうするか?
この問いに対する最短ルートは、
「現在、継続して優勝争いをしているチームの歴史を学ぶ。自身のチームとの違いを理解する。そしてなぞる」
ことだと思います。
今回、1冊の本を読んで、備忘録的な意味も込めて書かれているメソッドを自分なりにまとめてみました。

読んだ本

2020年3月31日に出版された、横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史という本です。タイトルにあるように、Fマリノスの変遷が書かれています。過去5年で2度の優勝経験を持つチームの歴史に、チームを強くする方法が書いてあるのではと予想しました。

ロジカルな組織づくり

CFG(シティ・フットボール・グループ)の考えるチーム作りとは、頂点に「クラブが実現したい姿」や「フィロソフィー」があり、それに対してチームが目指すスタイルがぶら下がります。それをもとに、「そのためにはどういう選手が必要か」という「ニーズ」が決まります。

2014年当時の嘉悦朗社長は、本の中でこう述べています。

『選手に合うシステム』を考えるのではなく、『システムに合う選手』を適正に配置する。これはビジネスの世界と同じです。企業として求める成果を効率的に達成するために、あるべき組織をデザインする。次に組織を構成する個々の人材のスペックを明らかにしていくというプロセスにとてもよく似ています。
そのうえで社員の配置を検討し、社内に適材がいなければ外から採用する。あわせてそれぞれのポジションの後継者の発掘、育成を計画的に考える。(中略)これこそ私が探し求めていた『持続可能な成長の基盤』そのものだと確信しました。

横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史(藤井 雅彦)

Fマリノスとしては、当時の「攻守においてイニシアチブを握り、相手を圧倒して勝つ」というコンセプトをかみ砕き、ゲームモデル、攻撃・守備の在りたい姿を可能な限り定義する。それを実現するために監督に求める期待値を定義する。その後、CFGのネットワークから推薦してもらった候補者の中から、期待を実現しそうな監督を選んでいくというステップを踏みました。

変化への抵抗と対応

変革には大きな抵抗もありました。当時のことを利重 孝夫チーム統括本部長はこう語っています。

古き良きクラブの伝統や前例を壊す、覆すことに対する反発を受けながらも、一方でCFGから『いつまで生ぬるいことをやっているんだ』というプレッシャーをかけられる。(中略)私自身、これまで欧米のビジネスに関わってきたなかで、ある意味で外圧を使いながら日本の事業が次のステージに進む姿を見てきました。(中略)このプロジェクトは日本サッカー界における新たなモデルケースになりうると信じていました。だからこそ改革プロジェクトそのものがとん挫してはいけない。(中略)とにかく継続していくことで、クラブが成長・進化していく確率が間違いなく高まる。それがプライオリティの最上位でした。

横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史(藤井 雅彦)

その過程で、クラブを長く支えた功労者と別れることになりました。しかしそれは、選手がクラブの方向性を決めるのではなく、クラブがクラブの大事を決めるという基本的な在り方だったわけです。そしてこれが、本書では「クラブ史における大きなターニングポイントだった」と書かれています。

チーム統括本部

Fマリノスでは、いわゆる強化部のことをチーム統括本部と呼んでいます。この部署に、実績を持つスペシャリストを集めました。
小倉 勉スポーティングダイレクター(SD):オシム体制の千葉でコーチを務め、JFAでも日本代表や世代別代表を指導してきた経験を持つ。
昼田 宗昭アシスタントSD:千葉で強化部長を務め、ヴェルディ、アビスパなどでクラブ運営やチームの強化に携わってきた。
原 正宏チーム統括本部SD付マネージャ:千葉で通訳、強化部やテクニカルスタッフとして働く。ヴィッセル神戸では強化担当を務めた。
吉野 伸彦:ファジアーノ岡山で強化部長を務めており、J2の移籍市場に豊富な知識を持つ。

選手の補強方法

「ロジカルな組織づくり」で記載した「ニーズ」に合った人材を、他クラブとの競合を避け、コストを抑えて獲得しています。
違いの作れる日本代表級の選手を獲れれば良いが、それだとコストがかかってしまいます。それに、チームのスタイルに合わなければ意味がないし、コストパフォーマンスが悪い。不満分子になる可能性も高まります。
Jリーグで活躍している外国籍選手ならどうかというと、こちらは他クラブとのマネーゲームになってしまいます。
その点で、CFGのネットワークを駆使した外国籍選手の獲得はFマリノスだけの武器になっています。

具体的な補強方針は、3Dの観点から進められています。
縦軸に選手のクオリティとポテンシャル、横軸に獲得の確度。奥行としてスタイルへの適応度。この明確な指針を設けることで、補強の精度を高めています。

選手の査定方法

走行距離やスプリント回数をベースに、長所と短所を明らかにすることで工場と改善を図りやすくし、インセンティブ(出場率やゴール数など、契約時の設定ラインを越えたらボーナスが支払われる仕組み)を積極的に採用し、選手のモチベーションを高くしようと試みました。これにより、基本給を抑えることに成功しました。すると、チーム内の年俸バランスが整い、健全なチーム運営が行われるようになったとのこと。(2019年のトップチーム人件費は、Jリーグ中7~8位)

おわりに

Fマリノスは、CFG傘下に加わることで、半ば強行に変革が推し進められました。当時はかなりの反発があったようですが、結果、現在はほぼ毎年優勝争いをするクラブへと成長しました。
「Fマリノスがどういうチームでありたいのか」からスタートして、そのための監督を選ぶ。その前提があるから、監督の望む選手を躊躇なく獲得する。客観的に見たら普通のことですが、これまでのしきたりを否定し、改革を断行するのは並大抵のことではなかったんでしょうね。
FマリノスがCFG傘下に加わったのは、親会社である日産自動車に対してCFGが声をかけたのがきっかけとのこと。持つべきものは親会社ってことですね。(暴論)

他チームの変遷は読んでいて面白いものでした。結果に繋がっているだけに、説得力もあります。Fマリノス以外のチームについても調べてみたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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