そもそも音について: 倍音と音色
前回のおさらい
この記事は前回の記事「そもそも音について: 周波数と音階」の続きである。
前回の重要な部分は以下の通り。
周波数をOO倍すると、音階ができる。
周波数を整数倍していくと、自然倍音列ができる。
周波数を一オクターブに収まる簡単な整数比とすると、純正律ができる。
純正律はハーモニーが最も美しくなるが、移調や転調をしたらとたんに美しくなくなる。
周波数を一定の数字 (2の12乗根) で掛けていくと平均律ができる。
音階の周波数の比率が一定なので移調や転調をしても問題ない。
ハーモニーの美しさは純正律には及ばない
基準音は普通440 Hzをラ (A4) とする。
他を基準音にすることもあるので注意
本記事では特に倍音と音色の関係について掘り下げる。
音が出るときに楽器に起きること
アコースティックギターを例に、音が出るまでのプロセスを説明する。(ギターは弾けるが腕前の方は筆者の曲にギターがほとんど含まれないことから推して知るべし・・・)
まず弦をピックで弾く。このとき、弦に一瞬ありとあらゆる周波数が混ざった「振動」が伝わる。しかし、弦の長さや重さで決まる周波数に適合する「振動」以外は、弦を行ったり来たりする間に打ち消し合って消えてしまう。結果的に弦に適合した周波数の「振動」だけが生き残り、弦を抑えているところ (サドル) からギターの表面板に伝わり、これが空気の圧力の波を作る。
弦に適合した周波数を決まった音階と同じになるように設計しておけば、その通りの音がなる。
この設計は、以下のような方法で実施する。
弦の長さあたりの重さ
弦を購入する段階で決まる。
重いほど振動が遅くなるので低い音が鳴る。
弦の長さ
指がネックのどこを抑えているかで調整する。
長いほど振動が遅くなるので低い音が鳴る。
弦を引っ張る力
チューニングと言う作業で演奏前に決める。
弱く引っ張るほど振動が遅くなるので低い音が鳴る。
一つの音だけが鳴るわけではない
さて、弦を弾くと、一番単純には下図一番上のような感じで弦が揺れる。しかし、「適合する音」は一つではない。下の図のように1/2の長さや1/3の長さといったように整数倍の長さの揺れ方も可能である。これらはそれぞれ周波数が2倍、3倍・・・に対応する。そう、つまり以前出てきた自然倍音列に対応する音が同時に発生することになる。この同時発生する自然倍音列を倍音と呼ぶ。
倍音が混ざると音色が変わる
では同時に倍音が発生するとき、音はどうなるだろうか。思い出してほしいのは、音は圧力の波であるので「重ね合わせが出来る」ということである。つまり、単純に足し算した形の圧力の波が発生する。
ここではコンピュータシミュレーションによってランダムに倍音を足してみていくつか並べてみる。
混ぜ具合によって波の形が変わることがわかる。ところで音色というのは波の形のことであった。つまり、音色を決めていたのは倍音の混ざり具合だったのだ。
シンセサイザーという楽器は (実際には色々複雑だが) この倍音を電子的に操作して色々な音色を作り出すことを原理としている。
どんな倍音が入っているかを調べる
では逆に、音をマイクで取り込んで、どんな倍音がどのくらい入っているか分かれば、シンセサイザーで似た音を作り出したり、あるいは他の楽器の音とぶつかっていないか調べることが出来て便利である。このように周波数ごとの大きさを表示するシステムや機械はスペクトルアナライザー (スペアナ) と呼ばれる。
スペクトルアナライザーの原理にはフーリエ変換という難しい数学を使う。理科系の大学へ行けば「内積として積分を無限範囲で取れば」「三角関数級数をベクトルとみなすと」「各整数周期の三角関数は直交基底とみなせるので」などと分けのわからないことを言われながら勉強する。要はうまいこと計算すればどの周波数の音がどのくらい入っているかわかるのだ。特にコンピュータはこの計算を瞬時にやってのけるので、我々はDAWでほぼリアルタイムでスペクトルアナライザーを見ながら音楽を作れる。
まとめ
今回の内容をまとめると以下のようになる。
通常楽器を鳴らすと同時に自然倍音列からなる倍音が発生する。
倍音が混ざると音色が変わる。逆に音色とは倍音の混ざり具合のことである。
倍音の混ざり具合はフーリエ変換という方法で調べることができる。原理は難しいが、コンピュータで簡単に出来る。
最後に
このシリーズは今回で一旦終わりとする。
空気が圧縮したり膨張したり出来るという、ただそれだけの原理から、これだけ豊かで複雑な音の世界が広がっている。この物理的な存在としての音の知識がなにかの役に立てば幸いである。