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フォトトークレポート カラー写真の巨匠アーサー・マイヤーソンの「The Journey:写真との人生」

2022年11月5日(土)、旧軽井沢ホテル音羽ノ森にて、「軽井沢フォトフェスト」フォトトークの第2弾「カラー写真の巨匠アーサー・マイヤーソンの『The Journey:写真との人生』」が開催されました。アーサー氏はナイキやコカ・コーラなどの広告写真で数多くの賞を受賞し、美術館などにも作品が所蔵されているアメリカで著名な写真家のひとりです。

アーサー・マイヤーソン写真集『The Journey』の表紙

アメリカ以外の地域で、滞在した時間の長い国は日本と言うアーサー氏ですが、軽井沢に来たのは今回が初めて。浅間山の山麓や雲場池などを周って美しい紅葉の季節を楽しみ、「日本のほかの場所にはない、雰囲気と文化が非常に印象的」と語りました。

2015年に出会って以来、親交を深めてきた軽井沢フォトフェストのクリエイティブ・ディレクター野辺地ジョージ氏が通訳・司会を務め、アーサー氏が写真家として歩んできた道のりや、経験を通して学んだ制作方法についてレクチャーしていただきました。本記事ではそのトークの内容を一部ご紹介します。

プロフィール
アーサー・マイヤーソン(Arthur Meyerson
アメリカで最も優れた写真家のひとり。テキサス州出身の彼は1974年以来、世界中を旅しながら、広告、企業、雑誌、そしてファインアート向けの写真で数々の賞を受賞しています。『アドウィーク』誌の「サウスウェスト・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」を3度受賞し、『コミュニケーション・ワールド』誌の企業写真家トップ10に選ばれ、『アメリカン・フォト』誌のベスト広告写真家30人にも選ばれている。ニューヨーク・アートディレクターズ・クラブ、ヒューストン・アートディレクターズ・クラブ、ダラス・ソサエティ・オブ・ビジュアル・コミュニケーションズから金賞を、ナイキの広告キャンペーンで権威あるスティーブン・ケリー賞を受賞するなど、数々の賞を受賞。また、ニコンの「Legends Behind the Lens」リストに選出され、ヒューストン広告連盟から「その創造性と芸術への情熱がヒューストン市を認知させた」個人に与えられる「Only In Houston」賞の第1回受賞者としての栄誉を受けた。


モノクロが主流だった時代にカラー写真へ

アーサー氏が活躍をし始めた1970年代は、ちょうど「ニュー・カラー」と呼ばれるカラーの写真作品が登場し始めた頃。それまでは、写真作品といえばモノクロフィルムで撮られたものが主流で、カラーフィルムは主に広告や報道などで使われていました。

アーサー氏のキャリアもモノクロ写真から始まりましたが、やがてカラーに移行。そのきっかけのひとつに、カラー写真のパイオニアのひとりエルンスト・ハース(1921 -1986)の存在があります。エルンスト・ハースも最初はモノクロで撮影していましたが、コダクロームの登場により1950年代にカラー写真に移行し、才能を開花させました。カラー写真の父と呼ばれていた写真家です。

「エルンスト・ハースの代表的な写真集『THE CREATION(天地創造)』は見れば見るほど発見があり、心に響きます。彼とは1984年に日本でのフォトツアーで出会って共に旅をし、それ以来、彼は私の友人であり師匠となりました。彼の作品や他の偉大なカラーアーティストを研究することで、私も真剣にカラー写真に取り組んでみようと思ったんです」(以下、アーサー氏)

「カラーは、我々が見ているものが何であるかを定義することや、雰囲気やムードを出すのに役立つものでもあります。しかしカラー写真は白黒よりも難易度が高いメディアだと感じています。なぜならモノクロの引き算ではなく、カラーは足し算が必要だからです。写真に何かを加えて、それが必ずしもうまくいくとは限りません。写真は色や降り注ぐ光などさまざまな相互作用でフィックスするものだからです」

20年以上続いたコカ・コーラのコマーシャルフォト

Coke Delivery, Tromsø, Norway  ©️2022 Arthur Meyerson

アーサー氏の50年に及ぶ写真家人生のうち40年間は数々のクライアントワークを手掛けてきました。 『フォーチュン』誌が発表する全米上位500社のリスト「フォーチュン500」にランキングするような大企業のプロジェクトにいくつも参加。スポーツウェアのナイキやピューマ、アメリカ最大の貨物列車運営会社のひとつバーリントン・ノーザン・サンタフェ鉄道、米国最大の銅生産会社のひとつマグマ・カッパー社の広告などさまざまです。

なかでも20年以上続いたのはコカ・コーラ社。これほど長く続くのは、コマーシャルフォトの世界では非常に珍しいことで、現在ではなおさらだと言います。

Baths, Budapest ©️2022 Arthur Meyerson

2012年に発表された最初の写真集『The Color of Light』

長年、広告の世界に身を置いていたアーサー氏ですが、振り返ってみて自身の写真家人生を決定づけたのは、クライアントの要望に応える仕事ではなく、個人的な作品だったと言います。アーサー氏は当初から自分のための作品を制作していました。それが写真家としての成長につながると思ったからです。

現在はコマーシャルの世界から退き、写真の指導を行うフォトツアーや、自身の写真集や展覧会での作品発表をメインに活動。2012年には最初の写真集『The Color of Light』を発表しました。

アーサー・マイヤーソン写真集『The Color of Light』の表紙

生きることの純粋な情熱と、最も興味を持ったテーマやアイディアを扱った写真集です。この作品で自分の写真人生を振り返り、その過程でいくつかのことに気づくことができました」

「私が惹かれる写真は、光に関わる写真。光、色、瞬間を組み合わせることで、詩的であったり、グラフィカルであったり、暗示的、情報的、あるいはミステリアスな写真を生み出す。そして最高の写真は必ずしも答えを与えるものではなく、疑問を投げかけるものだと思います」

『The Color of Light』より
『The Color of Light』より

「どんなサプライズが待っているかわからないから、常にオープンな姿勢でいること」が大切だと伝えるアーサー氏。例えば、さまざまな国を旅して撮影をする際に、事前にその場所のリサーチをすることはほとんどないと言います。これを撮りたい、ではなく、行ってから可能性を感じて撮影するのが彼のやり方。

Morocco 2022 ©️2022 Arthur Meyerson

「リサーチしすぎると、例えば『日没でこれを撮りたい』などと決めつけてしまって、他にも可能性があるのに心や視線が閉ざされてしまう。事前に合理的な選択をするのではなく、何かに反応し、先入観のない、自然発生的なものを大切にしたい。実際にそこにあるものに対して、オープンでありたいと思うのです。

だからときには見つからないこともあります。釣りと同じで、たくさん魚が釣れる日もあれば、全然釣れないこともある。でもカメラを常に持って歩けば探す意識も高まります。観ること、そしてその時にカメラを持っていることが重要だと思うのです」

行きたくても行けなかった国、キューバへの想い

「Playground, Havana」©️2022 Arthur Meyerson

アーサー氏はコマーシャルの仕事の機会を中心にこれまで90か国以上、7大陸を旅してきましたが、行きたくても行けなかった国があります。そのひとつはキューバでした。

「12年ほど前にようやく入国のライセンスが取得できるようになりました。生きている間に行けるとは思ってもいませんでしたが、待ったかいがありました。以来、この国の進化を見守り、そこにある変化を見ることは、私にとってとても大切なこととなりました。キューバはまるでタイムカプセルに入ったかのような世界で、ここで歴史に残る写真を撮る可能性があるということも、認識していました」

その言葉通り、アーサー氏は2016年12月に歴史的な瞬間に出会うこととなります。

「たまたま写真ワークショップの指導でキューバに訪れていたとき、フィデル・カストロ前国家評議会議長の葬式があり、その場に立ち会うことができたのです。旅する中での撮影は、その時間に起こっていること、そこにいる人たち、文化、伝統、そういったものによっても変わってきます。

「Fidel Castro's Casson, Santiago de Cuba」©️2022 Arthur Meyerson

次にキューバを訪れるときには状況が変わってしまうかもしれない。2012年の最初の旅で見た子どもたちの遊び場は、1年もしないうちに訪れたときにはもうなくなっていました。私はあの子どもたちのことが気になって仕方ありません。今どこで遊んでいるのだろうかと。

「Playground」©️2022 Arthur Meyerson

キューバに行った写真家の多くは、人々がとてもフレンドリーなことに驚きます。よりオープンで親密で自由度の高い撮影の機会を与えてくれるのです。その被写体に対して、親しみと尊敬の念を持ち続けることが大切。それが次の写真家の道を切り開くのですから」

軽井沢フォトフェストに応募する人へメッセージ

今までの写真家の道のりで得た経験や作品制作の方法を惜しみなく教えてくれたアーサー氏から、最後に「軽井沢フォトフェスト」に作品応募を考えている皆さんにメッセージをいただきました。

「日本ではこういった写真家のチャンスの機会が減ってきていると聞き、素晴らしい企画なので全面的にサポートしたいと思いました。この軽井沢フォトフェストを通じて、新しい才能が発掘されるかもしれません。多くの人に見てもらうチャンスにつながることはとても大切なことだと思います。

軽井沢はどこを切りとっても絵になる場所。特に今のカメラの技術は本当に素晴らしいから、ただきれいな写真は撮れてしまうものです。自分の感性や個性を引き出すにはそれなりの努力と時間が必要です。自分が何を表現したいかを考えて、撮影する。決して簡単なことではないと思いますが、それが写真の楽しさのひとつです。

写真で大切な3つの「P」について覚えておくといいでしょう。ひとつは「Patience」(忍耐)。次に「Persistence」(粘り強さ)、そして「Passion」(情熱)です。ストリートフォトグラファーにとってはどれも同じくらい大切なものです。

そこにあるものを撮影するだけではなく、なぜそれに惹かれたのかを表現する。『感じたことを写真に表すこと』。それが作品を撮る上での目標のひとつではないかと思います」

アーサー氏の写真家人生を通して、写真を撮る人にとって大切なさまざまな言葉が聞けた今回のトークショー。軽井沢フォトフェストではこのような海外の写真家のトークが聴ける貴重な機会も会期中に企画しています。ぜひWebサイトやSNSなどをチェックしてお待ちください!

軽井沢フォトフェストの作品応募締め切りは、2023年1月31日まで。
※2月7日(火)まで延長しました※

ぜひ皆さんのご応募をお待ちしています! 応募はこちらから。

軽井沢フォトフェスト公式Webサイト
https://www.karuizawafotofest.jp/

軽井沢フォトフェスト イベントページ
https://www.karuizawafotofest.jp/schedule

軽井沢フォトフェスト公式note
https://note.com/kff/n/n6e0f0592f8d0


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