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量子コンピューターとはなにか

量子コンピューターについて語られる際、従来型コンピューターとは異なる原理を持つまったく新しい計算機であり、やがて従来型コンピューターに取って代わると説明されることがある。しかし、この認識は誤りである。

量子コンピューターという名称が混乱を招いている。本来なら「量子アルゴリズム積算機」や「量子推論装置」といった名称が適切である。なぜなら、量子コンピューターは従来型コンピューターがそれを活用してアルゴリズムを実行し、推論を行う装置であり、自律的に汎用計算をこなす従来型のコンピューターとは異なる性質を持つからである。

比喩的に言えば、量子コンピューターはそろばんに似ている。人間がそろばんを使って計算するように、従来型コンピューターが量子コンピューターを利用することで、特定の計算を効率的に行う。そろばんが単独では機能しないように、量子コンピューターも従来型コンピューターなしでは機能しない。

量子コンピューター(便宜上、この名称を使用する)は1981年にリチャード・P・ファインマンが「量子力学を利用すれば、古典コンピューターでは不可能な計算が可能になるかもしれない」と提唱したことに端を発する。しかし、この時点では理論も具体的な手法もなく、単なる直感的な発想に過ぎなかった。

その後、1994年にピーター・ショアが「ショアのアルゴリズム(Shor's Algorithm)」を発表したことで、量子コンピューターの可能性が具体的に示された。このアルゴリズムにより、従来型コンピューターでは困難とされていた大きな数の素因数分解を効率的に行えることが明らかになった。

ただし、量子コンピューターの理論や数式を理解するには高度な数学的知識が必要であり、「量子は0と1の間の曖昧な状態を持つため、計算が速い」といった単純な説明では本質を捉えられない。

現在、量子コンピューターは基礎研究の段階にあり、IBMは約1000量子ビットのプロセッサを実現しているものの、例えばショアのアルゴリズムを用いて従来型コンピューターを明確に凌駕するためには100万量子ビットが必要とも言われている。

さらに、量子コンピューターは従来型コンピューターのように万能ではなく、特定のアルゴリズムを開発し、それに適用する形でのみ機能する。現在開発されている代表的な量子アルゴリズムには、素因数分解のショアのアルゴリズム、検索のグローバーのアルゴリズム、連立方程式の解法に用いられるHHLアルゴリズムなどがある。

特に、暗号解読、最適化、量子シミュレーションの分野において、量子アルゴリズムの応用が進んでいる。

ケゾえもん