きまぐれオレンジロードに捧ぐ。その③〜主題歌をめぐる仔細なおはなし。
ちばてつやの最新短編集「あしあと」がものすごくいい。
某大手書店に買いにいったらなかったんですよね。ネットで買うのはシャクだしその日のうちに手に入れようと啓文堂まで歩いていってようやく確保。いやァ、渋谷TSUTAYAは20時閉店なんですよ。なんて不便なジャパネスク。そしてこの夜、ボクは一気に「あしあと」読破。過ぎ去りし昭和への郷愁、なんて軽い言葉で片付けたくない、短いけれど内容の濃い作品たち。今やまったく変わってしまった現実の中で読むといちいち沁みる。
さてここ数日なぜかボクのnoteで昨年アップした記事「きまぐれオレンジロードに捧ぐ」その1がアクセス伸びている。なんでだろか。アニメのサントラがアナログで再発されたからか?でもタイミングとしてちょうどいいかもなので「その1」でもちらりと触れた件について書いておこうと思う。そう、アニメ「きまぐれオレンジロード」OPにまつわるちょっとしたトリビア。
「ミュージック・ボーイ」という曲がある。
NOBODYによる楽曲でザ・グッバイのシングル曲になりかけていたはずだ。だが、「自分たちのオリジナルで」ということでお蔵入り。そしてまったく別の形でこの楽曲は陽の目を見ることになる。あ、ザ・グッバイっていうのは今やギタリストとして著名な野村義男が在籍していたバンドでのちの男闘呼組やTOKIOみたくアイドルがバンドとしてデビューするフォーマットの元祖みたいなもの。もちろんジャニーズとしてはその前にもANKとかあるんですけどね。グッバイ、和製パワーポップバンドって括りで聞くとむちゃくちゃいいですよ。
そのグッバイがシングルとしてリリースしかけてた曲。それが「ミュージックボーイ」。何年か後、まったく形を変えて世に送り出されることになる。
それが「NIGHT OF SUMMER SIDE」。歌うのは池田政典。アニメ「きまぐれオレンジロード」第1期オープニングテーマだ。「たしかアニメの主題歌かになったんだよね。けっこう売れた曲だったんじゃないかな」
野村さん、確かにそう言ってた。
「ユーたち、ビートルズみたいにやったらいいじゃん。ジョンとポールみたいにさ」
ほんとにそう言われたのかはわからないが、近いことを言われたって話は聞いたことがある。いわゆるツートップ編成。かけあいのヴォーカル、それがザ・グッバイの魅力となった。作詞面で野村義男が、作曲面で曾我泰久が。実際「ビートルズみたいにやったらいいじゃん」がどこまで本人たちに刺さったのかわからないけど、ビートルズみたいに実験的な楽曲を試したり内容が濃いオリジナルアルバムを作ったり、アイドルから始まったザ・グッバイは見事アーティステックなバンドとして成長を遂げることになる。
「ミュージックボーイ」がシングル候補になったのはいつだったんだろうか。メンバー自作って意味では2枚目の「涙のティーンネイジ・ブルース」、「モダンボーイ狂想曲」と作曲はグッバイ名義ではある。だけど推測するに4枚目のシングル「YOU惑MAY惑」はビーチボーイズ・フォマットのロックンロール歌謡ナンバーでおそらくこのタイミングだったのかと。ちょうど作詞野村義男、作曲曾我泰久と(Paul Wlisonと共作)明記されてるし。記憶が曖昧で断言しづらいけど、おそらくそうじゃないかなあ。この話、ちょうど10年以上前に野村義男本人から教えてもらったんですけどね。
さて本題に戻る。アニメ「きまぐれオレンジロード」はひじょうに優れた作品だった。月曜の19時半。予告で流れるBGMも含め作品の世界観に寄り添った(今では当たり前ですが)当時としては先鋭的な姿勢で作られたアニメだと思ってる。
続く第2期OP「オレンジミステリー」は80年代風にアップデイトされたリヴァプール〜マージー・ビート色の強い楽曲だったし個人的好みとしては断然こっち。作曲はNOBODY。ヴォーカルトラックの雰囲気とか聞きようによってはエルヴィス・コステロとか感じたり。路線としては竹内まりや「マージービートで唄わせて」とかザ・グッバイの「マージービートで抱きしめたい」ですね。
そして中原めいこの「鏡の中のアクトレス」。
どれもJ-POPとして優秀かつキャッチーなナンバーばかりだ。エンディングは和田加奈子による「夏の蜃気楼」、中原めいこの「Dance in the Sweet Memories」と切なくもメロウなナンバー。ここまで音楽面に力を入れてたアニメって当時だと「めぞん一刻」、「みゆき」に「タッチ」あたりぐらいか。あ、EPICがぐいっと関わっていた「キャッツアイ」に「シティハンター」もあるか。
フジテレビがノイタミナって深夜アニメ枠を作ったとき、立ち上げしたプロデューサーに取材をさせていただいたことがある。
「ちょうど大幅な番組編成入替があって。僕が担当していた「こち亀」を終わらせなきゃいけなくなったんだ。視聴率も悪くなかったし、自分としては「サザエさん」〜「こち亀」の流れで日曜日のお茶の間の定番を作りたかったし、この流れは永遠に続くぐらいに思ってた。だけど決定はくつがえせない。代わりに深夜でもいいから枠をくれって言ったの。それが始まり」
そして大人の鑑賞にも耐えうるアニメ枠、ノイタミナが始まる。「作り手としては普通にドラマとかを観ている層が観たいアニメ。そういうものをやろうって思った。だから最初は「NANA」でいこうって思ったんだけどすでに他社がおさえている。時間もなかったし空いてるものでやろう。それが「はちみつとクローバー」であり「のだめカンタビーレ」なんです」この取材、たしかオリコンの取材だったと思う。「こちカメ」アニメ終了とノイタミナ立ち上げの密接な関連に驚いた記憶があるなあ。懐かしい。
大人も鑑賞できるアニメ、もしくは普段ドラマや映画を楽しんでる層も観たいアニメ。
今思うに「きまぐれオレンジロード」ってまさにそんなアニメだった。
アニメ版は1年間オンエアが続き、最終話は原作とは異なる形で終了している。原作でいうところの最終エピソード前、幼少の頃の鮎川まどかとタイムスリップして出会う話。もちろんアニメなりに改稿されているが、これはこれで味わい深い最終回だったと記憶している。
最後のエンディングテーマ、中原めいこの「Dance in the Sweet Memories」が余計切なく聞こえるんですよね。原作のラストシーンにはかなわないけどこの終わり方はアリだと今でも思う。
原作もアニメもラストシーンが完璧、って作品はなかなかない。この時代のものだと原作にとことん寄り添うことで成功した「めぞん一刻」ぐらいじゃないか。
ギルバート・オサリヴァンの「アローン・アゲイン」を(ほんの一瞬でも)オープニングテーマとして流したアニメ。あれは驚いたな。ちなみにボクがオサリヴァンを知ったのはチェッカーズなんです。月刊明星でそれぞれメンバーがフェイバリットALBUMを挙げる企画ページで鶴久政治がギルバート・オサリヴァンのベストALBUMをうれしそうにフックアップしていたのを見てなんとなくジャケ買いしてむちゃくちゃハマった。
アニメといえば「きまオレ」の場合、テレビアニメの前にプレアニメというか、ジャンプのイベントでしか見れないアニメが先にあったんですよね。主題歌が「もぎたての恋」でC/Wが「きまぐれ天使」。サントラもちゃんとあって、その中の「ビートで嫉妬」って曲で作者まつもと泉ご本人のドラムプレイが確認できる。
アニメ「きまオレ」のOVAや映画続編的なものがあるのは知っている。だけどボクは一切観ていないし、10数年前、それらを含めてDVD BOXで発売になったけど購入したのはテレビシリーズのみ。作品の出来がとか映画続編にまつわる色んな話は聞いている。だけど「オレンジロード」はあのラストで完結なんですよ。もちろんパラレルワールド的位置づけとしての短編が90年代に描かれたことは知ってるしボクも読んではいる。読めばわかるさ。やっぱ「物語が終わった」前提で描かれたものだってことは。それだけ作者であるまつもと泉先生の中で「オレンジロード」は大事な作品だったってことですよね。重要なのは春日恭介と鮎川まどかの付き合ってどうこうって結末じゃないし、檜山ひかるの行く末でもないんですよ。この3人が過ごした、かげがえのない日々のはじまりと終わり。そこで感じたものがすべてなんです。
たとえばあだち充の「タッチ」。上杉兄弟と浅倉南という3人ですが、読みようによっては最初から上杉達也と浅倉南の物語ともとれるわけです。なので「タッチ」と「きまオレ」は本質的に違う作品だとボクは思っていて。上杉達也の成長物語じゃないかなあと。「きまオレ」は春日恭介の成長物語じゃないですからね。お父さんは有名カメラマンだけど、「おれ、カメラマンになるよ。親父のあと継ぐよ」なんて描写はどこにもないし。
指をのばして 文字のない手紙
風にあずけたら 逢えるでしょう
(「夏の蜃気楼」作詞 湯川れい子 唄/和田加奈子)
アニメ「きまぐれオレンジロード」テレビシリーズに関してはそこをふまえた稀有な作品だと思う。そして物語を彩る音楽たち。まつもと先生の追悼イラスト集のタイトルにもなった「夏の蜃気楼」。和田加奈子が歌うミディアムテンポのメロウなナンバー。これ当時嫌いじゃなかったけど、好きでもなかった。だけどいまになってじわりと感じる。この楽曲が世界観すべてを物語ってるのかも。ボクの中ではあの時代のトレンディドラマよりも、よっぽど80年代って時代(特に中盤以降の)の匂いを反映している作品だと思ってるんですよ。
音楽といえば「きまぐれオレンジロード」オープニングシーンのインスパイア元ともなった杉真理のライブにボクはまつもとさんと一緒に行っている。終演後、まつもと先生を楽屋ご挨拶にお連れするためステージ裏を通ったとき、たまたまドラムセットや機材がまだ片付けされてなく本番そのままになっていた。
「すごい!いまこんな作りなんだね!」
まつもとさん、目を輝かせてすっごい見てたっけ。ほんとに音楽好きなひとなんだなあと思った。
そして杉さんとまつもとさんがこのとき初対面だったってことも意外だったけど、その場に立ち会えたことは今でも光栄に思ってます。そんなことなかなかないよ。
今はなき横浜BLITZ。あの夜の邂逅は忘れない。
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