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私的KAN論(仮)第10章 さよならだけどさよならじゃない

事実上のラストアルバム「23歳」が発売された後、アーティスト活動は順当すぎるほど精力的に進んでいました。まず触れておきたいのがKANよりも15歳以上年下のシンガーソングライター秦基博と作り上げた1曲です。2021年4月にリリースされた「カサナルキセキ」は同じコード進行のまったく別の曲2曲が重なるとどうなるか、というKANの提案から始まった文字通りの世代を超えたコラボレーション。2019年の暮れに焼き鳥屋にKANが秦を呼び出したところから始まってる。翌年からのコロナの影響もありお互いツアーが飛んだりしたこともあってかミュージシャン・シップによる一見面倒くさそうなこのコラボは逆に世相が功を奏し実現に向かっていった。KAN自身もラジオ番組で語っているようにポリスの「見つめていたい」、ワム!の「ラストクリスマス」、ホール&オーツの「Say it isn`t so」といったシンプルでスタイリッシュな楽曲作りを目指したことは楽曲を聴けばよくわかる。(FM COCOLO「KANと要のwabisabiナイト」より)。それこそKANが愛してやまなかった銀座スイスのオムライスやカツカレーといった日本の洋食に通じるポップ・センスに裏打ちされた極めてお洒落な1曲だと思う。そうそう、やはり洋食なんですよね。日本のポップスって。


それに関しては拙著「歌謡曲meetsシティ・ポップの時代」でも書かせていただいた。お醤油や鰹、昆布の出汁は和モノなエッセンスじゃないですか。もしかすると「こぶし」もそうかもしれない。これは僕の勝手な妄想レベルの考えですがビートルズが今だに日本で多くのファンを獲得して離さないのは初期に見られる独特の「こぶし」は関係あると思ってるんですよね。そこにデミグラスソースやケチャップ、数々のスパイス、香ばしくパン粉で揚げられたフライの数々、ふんわり焼き上げられたオムレツなどのレシピが融合して生まれたのが日本の洋食です。オムライスやカツカレー、ナポリタンって日本人に長らく愛され続けているメニューですよね。たっぷりのタバスコと粉チーズまみれのナポリタンにはメロウなブルースが存在するし、ポール・マッカトニーやスティーヴィー・ワンダーの「泣き」のメロディが存在しているように感じませんか。逆にカツカレーにはとことんポップネスがあります。ビートルズの「オブラディ・オブラダ」みたいな。洋食屋のカレーの匂いはそこにあるだけで胸が沸き立つグルーヴがありますから。それこそ「レディマドンナ」のピアノみたいに。

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