「クッキングパパ」こそが、ボクにとってのグルメマンガの帝王なんだ。
カミングアウトしよう。
ボクはクッキングパパを読み続けている。長期間に渡り全巻コンプリート(当然)でいまだ買い続けているのは今やこのマンガのみ。モーニングで連載していたマンガで初めて読んだのもコレだった。
数あるグルメマンガでここまでロングラン連載なのは他にない。島耕作シリーズですら、途中部長になり再掲載されるようになるまでタイムラグがあった。「美味しんぼ」のヒットを受け、おそらく「グルメもの、うちでもやろうよ」なんて始まったこの作品がここまで続くモンスターになるなど誰が想像できたであろうか。
金丸産業に勤務する荒岩一味は料理好きのサラリーマン。料理が得意なことは長いこと隠された事実だったけど今や上司も同僚もみんな知ってる。またそれがマンガというジャンルでもはや絶滅寸前のホームコメディ最後の砦感がありボクはこの作品が大好きなのである。
気がつけば息子であるまことは大学入学のため沖縄に渡り、就職で大阪に。就職先はイベント企画会社だったが京都で小学生時代から付き合ってるさなえちゃん(ずーっと遠距離恋愛)とデートで入ったレストランの料理に魅せられ転職。父が選ばなかった料理の道を歩むことになる、ってもはや大河ドラマですよ。まことの親友、みつぐくんは荒岩の会社に入るしねえ。いつのまにがさなえちゃんとも一夜を共にするようになったまことは大人になったけど、沖縄の子、たしか宮古島出身のあゆみちゃんだ。彼女と途中どうにかなってしまうかと読み手としては心配したものですよ(ちなみにあゆみちゃんは無事地元で結婚)。まことはとにかくモテ度が高い。幼馴染のえっちゃん(実家は印刷工場)もいまだにまことに心を寄せている。みつぐくんとふんわり付き合ってるそぶりもあるが関係はキス止まり。
新聞記者である妻、虹子さんは石田ゆり子並みに変わらぬ風貌だし、赤ん坊だったみゆきはもう中学生。連載が始まった頃から換算すると主人公荒岩はとっくに定年だろうがそこは関係なし!物語の時間軸でよし。
荒岩の部下、田中も3児の父。田中と同系統の若者、エグチくんもそろそろ婚姻間近だろう。こういう登場人物の成長を味わえる作品ってボクは好き。田中の妻、旧姓木村夢子の実家、鹿児島のおばあちゃんって最近出てこないのが気になるけど寝たきりなんだろうかね。そういやエグチくん、元パチンコ狂のスーちゃんといつのまにか婚姻間近な関係になってしまったけど、あれはいつからそうなったんだっけ。なんか決定的なきっかけあったようなないような、、、そのへんのふんわり度がこの作品を長期連載に結びつけてるんだろうなあ。
そして忘れちゃいけないのが意外とヘヴィな出来事もさらりと描いちゃうのも魅力なんだってこと。
荒岩の元上司で定年退職後、蕎麦屋を始めたのが大平さんでボーリングが得意なむちゃくちゃいい人。その息子かずおくんが大学進学で熊本へ行き、知り合ったのが久美ちゃんである。だが卒業後、かずおくんは就職、ありがちなパターンで日々の忙しさで久美ちゃんとの付き合いをおざなりにし始め破局。久美ちゃんはあっさり別の男と結婚してしまう。普通ならここで終了じゃないですか。ところがそうじゃない方向へ物語は進んでいく。久美ちゃんに未練たらたらのかずおは学生時代の知り合いから久美ちゃんが離婚したことを聞き、熊本へ。会えるももちろんすぐに関係は戻らない。
ところがしばらく経って(その頃かずおは転勤で北海道)久美ちゃん、来ちゃうんですよね。関係修復。いや、驚いた。驚いたのは久美ちゃんの行動でも受け入れるかずおでもなく、この周辺キャラの諸々の顛末を執拗に描く作者の姿勢に。普通に考えればここまで描く必要なんてないじゃないですか。でも描く。大平かずおに限らず、周辺キャラでも丁寧に物語を描いていく。故に物語に厚みが生まれ、単なるホームコメディだった「クッキングパパ」にとんでもない厚みが生まれていく。バツイチの久美ちゃんを暖かく迎える大平夫妻とか、熊本の久美ちゃんパパの「娘をおねがいします」なんてシーンを丁寧に描く。ボクはこの姿勢こそがかつて国民的グルメマンガとされた「美味しんぼ」を越えた理由だと思う。妙なウンチクも思想もなく、ただ毎日の生活の中で生まれる小さな人間の営みを丁寧に描く。だってね、泣いたり笑ったりすることと同じぐらい大事なことだもんね。ものを食べるって行為は。
大平かずおに限らず、田中くんと夢子さんの新婚旅行(東南アジアだった)もそうだし、種子島ちゃん(プロレス好きの女の子で荒岩の部下)と工藤くん夫妻もそう。あ、偏食だった梅田くん夫妻もそうだし、ほっとけばモブキャラになりそうなキャラクターも作者うえやまとちのペンによって、さまざまなエピソードが織り込まれ、大河ホームコメディと化してしまった。もはや橋田壽賀子の「渡る世間は鬼ばかり」か「クッキングパパ」かってレベル。期間だけでいえば「渡鬼」を軽く越えてしまってるし。すげえよ。
さて、クッキングパパといえば実践型のグルメマンガだ。初期のコーラで煮込む手羽先はなかなか食指が伸びなかったが、毎回公開されるレシピは回を追うごとにクオリティが高くなり、今やクックパッドかクッキングパパかってぐらいのクオリティ。ボクが個人的にオキニなのが魚肉ソーセージを使用した「懐かしのポテトサラダ」(ウスターソースをたらりで旨味倍増)、坦々麺もシンプルに美味しく出来た。あ、でも失敗したなあと思ったのが揚げたとんかつをのせたかつ蕎麦。とんかつを揚げるのに失敗、さらに蕎麦を茹で汁を用意する手際段階でもたつき最終的にはなんだかよくわからないものになった記憶がある。あれ、まだ学生の頃だった気がするな。あとブリの刺身かなんかをヅケにしてシンプルにご飯にのせてってやつ。あれも再現したのは学生時代だった。あと初期レシピで野菜も肉もまるごと煮込んじゃうカレー。実践してないけど旨そうだったなあ。今度やろうかな。
グルメマンガの祖とも言われ対決型の少年ジャンプ流がやけに懐かしい「包丁人味平」(牛次郎/ビッグ錠)、給食にいちゃもんつける定食屋の息子が主人公の「スーパー食いしん坊」(ビッグ錠)、秋元康プロデュースの「Oh!MYコンブ」、
小学生の定食屋の息子(母親がやけに若く描かれる)がグルメな大人に喧嘩を(料理で)売る「ミスター味っ子」など80年代にはいくつものグルメマンガが生まれ、そして消えていった。でもすっかり定着しましたよね、グルメマンガ。もちろん「孤独のグルメ」の影響も大きいと思うけど、ひとりめしとかコンビニめしとか女子のぼっち飯、とかさまざまなシチュエーションで描かれ、そしてそこそこヒットする世の中。SNSとかで共有もしやすいもんね。
でもこの定着の礎には「クッキングパパ」の存在って絶対的にあると思う。というか断言したい。リスペクト荒岩一味、いや荒岩一家。
時々思うのはいつまでこの作品は続けられるんだろうかということ。終わらないで欲しいなあ。荒岩が金丸を定年退職しても、虹子さんがニチフク新聞を退職しても(絶対嘱託とかでいそうな気がする)まことが結婚して子供が生まれても代々続いていって欲しい。
もはやサザエさん越えをするのはクッキングパパしかない。日曜の夕方6時半枠、九州限定でも再アニメ化でオンエアしたほうがいいよ。難しいようならNetFlixでいいじゃないですか。アジアを中心に大ヒットする可能性は十分にある。ほら中国とか東南アジア編もあるし。あと何気に荒岩はワールドワイドに(会社の出張で)ヨーロッパもニューヨークも行ってるしね。なんなら実写化でもいいじゃないですか。「全裸監督」の次は「クッキングパパ」で!と願ってみる。まあそれぐらい好きなんですよ。もうね、同意は求めない。俺は「クッキングパパ」ってマンガが大好き。それでいいじゃないですか。アハッ(©原秀則)
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