三軒茶屋でキャプテンストライダムについて考えた。
歩いてたら三軒茶屋に着いた。
在宅やらリモートやらでカラダは鈍りがちなので意を決して歩く癖をつけるようになった。それも歩けるところまで歩くという無制限開放モード。そう思ってこの日も歩いていたら三茶に到着してしまったってわけ。
ボクが30代前半に暮らした街で、東京に来て、はじめてまともに生活した街でもあるんですよ。その前に住んでいたのが恵比寿。いわゆる会社がアパート自体を社員寮的なノリで運営してたところに住んでいた。立地は恵比寿と広尾の間ぐらい・・ていうと皆さん、「むちゃくちゃいいじゃないすか!」と思われるだろう。だけどね、ひとが住むとこじゃなかった。まず狭い。四畳半スペースに無理やりバス、トイレスペースを作っているため、そもそも居住区域が殆どない。ベッド1台いれたらおしまい。ボクの場合、レコードとCDと、本棚いれたら身動きとれず、ベッドの上でずーっと生きていた。最初は「さっさと抜け出してやる」と思ったけど、途中で気がつくわけですよ。給料から家賃として天引きされるのは月々2万円。都内でコレはおいしいじゃないすか。しかもどうせ忙しいからほとんど家にいない。せいぜい休日は寝倒してるだけだし・・と開き直って何年も暮らしていた。建付が悪いのかわからないが、玄関のドアを開けると必ずガッシャーンと何かが落ちてくる。前の住人の忘れ物の洗面器が落ちてきたときはドリフのコントかと思いましたけど、これはこれでアリだなーと思った。
結局2年ぐらい住んでいたら会社から「あんなとこ何年も住むとこちゃうで。頼むから引っ越してくれ」と言われて三軒茶屋に引っ越した。家賃2万円生活の終焉である。毎日誰かしらと飲んでた気がする。駅前のホルモン屋の徳ちゃんとかまだやってんのかなあ。定食屋のこづちは日曜日の昼御飯。ここのしょうが焼きの分厚さには最初驚いたな(個人的にはココの炒飯が好き)・・と今回の本題は恵比寿ではない。
三軒茶屋は最初下馬のほうに部屋を見つけた。次に世田谷通りのマンション。そこを決めた理由は部屋を内見する前に共同郵便ポストに「ムーンライダース鈴木慶一」と名前を見つけたから。おそらく制作ルーム用とか、そんな感じだったんじゃないでしょうか。ボクはちょうどその部屋の真上に部屋を借りた。「会えるかもしれない」と思い、あえて窓を全開にして「青空百景」、「最後の晩餐」、「A.O.R」といったムーンライダースの名作を爆音で鳴らした。今、考えるとかなり迷惑な行動だよなあ。
ちょうど三茶に住んでいた時期、ボクはキャプテンストライダムというバンドを好きになる。松本隆が主宰するレーベル風街レコード所属の3ピースのロックバンド。初めて見たのは新宿ロフトのイベントかなんかだった気がする。まだアルバム「ブッコロリー」を発売する前。「肉屋の娘」、「マウンテン・ア・ゴーゴー」の2曲にヤラれた。ちょうどフジファブリックも上京してきてインディーズで活動し始めた時期ともかぶる。あくまで個人的な主観でしかないけど、この2つのバンドは他とは随分違っていた。萩尾望都や水木しげるの影響大な「影のない男」、ポップネスとメロウさと破滅の3同居ぶりにGREAT3の再来かもしんないと思った「あと半分」、ライブの定番曲「ヤルキレス」、「犬の生活」とまあ名曲揃い。おそらく知られざる日本のロック名盤リストなんてものがあるならランクインしないほうがおかしい名盤。「ゆでめん」「風街ろまん」と並べても遜色ないエネルギーに溢れてるアルバムですよ。40分以内に終わるってのもいいじゃないですか。
目玉ちょうだい 骨もちょうだい
犬に相談 肉屋の娘(ガール)
友人の二の腕あたりに喰らいついた
コーラを片手に 3分ですべて忘れるぜ
(肉屋の娘 作詞作曲 永友聖也)
コーラを片手に、てところが最高じゃないですが。二の腕あたりに喰らいつく発想のセンス。日常を吹っ飛ばす妄想力。そういえばフジファブリックにもそういう匂いはあったな。とにかくこの2つのバンドはよく観ていた。
その頃、ボクは音楽系フリーペーパーの編集をしていたので、要するに新人発掘も兼ねて日々ライブを見ていた。渋谷系はとっくに終わり、なんとなくR&B歌姫系シンガーとか、ヒップホップ系かなんかがヒットチャートの上位にいる時代。着うたも携帯小説もブームになる前、それでもまだ音楽業界は活況でたくさんのバンドが渋谷〜下北沢〜新宿あたりで青田買いされていた最後の時期だったんじゃないだろうか。
ボクはこの頃「グラップラー刃牙」を読んでいなかった。板垣恵介氏のことも知らなかったのでバンド名の由来をわかっていなかった。それでも強そうな名前と裏腹な、よれよれのTシャツと着古すぎなジーパンで汗だくで叫ぶように歌う永友聖也(vo,g)は妙に気になった。とにかく強そうなのか弱そうなのかなんだかよくわからない謎な雰囲気も含め気になりすぎたので当時新宿のレッドクロスでやってたボクのライブイベントに出演してもらった。
永友くんの声が他とは違うなあと思っていた。銀杏の峯田和伸、サンボマスターの山口隆の中野〜高円寺コミュニティ特有のモテたくて・・な妄想力とエレカシ宮本のJ-POPフィールドでも通用する突破力を兼ね合わせた声。もしくは初期ジョン・レノンにも通じる思春期声とも言うべきか。そこに思いつきで殴り書きされたような妙に強いコトバが羅列されているわけじゃないですか。「俺、小2のときからカープファン」と歌うロックバンドは他にいなかった。こういうのを待ってたんだと思った。
メジャーデビュー後ももちろんキャプテンストライダムの作品はチェックしていた。特にボクが驚愕し、今でも名作アルバムだと思ってるのが「108DREAMS」。ジャニーズ系への歌詞の提供で知られる作詞家、久保田洋司とのコラボレーションによる「キミトベ」、「悲しみのシミかな」を含む名曲だらけのアルバム。なんで久保田洋司?と思う方が多いかもだけど、松本隆のレーベルからデビュー〜ソニーでメジャーデビューの流れからまったく不自然ではないとボクは思った。なぜなら久保田洋司という人ほど松本隆のDNAを色濃く受け継ぎ、いまだ自身のコトバを少年たちに託し、ヒットチャートの上位に送り込み続けている存在、実は他にいないよって。
久保田洋司と松本隆の関係性とその作品の特徴については、80年代中頃、このお二方がソニーマガジンズの「パチパチ」で対談してるんですよ。久保田が「はっぴいえんどの曲を聴きながら部屋を掃除してたら「寂しがり屋が店をたたんだ」って歌詞にすごく感動して」というと松本隆が「それは寂しがり屋じゃなくて紙芝居屋だね(笑)。でもそういう勘違いってすごく素敵だと思う。僕らもビートルズを聴いて英語の歌詞を勘違いしながら聴いてたと思うんだ」って対談のくだり。記憶をたよりにかいてるので曖昧だけど、やりとりは上記のようなニュアンスだった。久保田が勘違いした曲はおそらく「花いちもんめ」。この時期久保田はTHE東南西北というバンドのギター&ヴォーカルで松本に歌詞提供をされていた。C-C-Bの影にかくれてたけど風街フィーリングって意味ならばまさに松本隆「微熱少年」(小説版)直系のバンドだった。対談のやりとりからして、松本から久保田へ渡された風街バトンは(本人がどこまで意識してるかはわからないけど)濃密だったものに違いない。
それゆえキャプテンスタライダムの作品に久保田洋司投入、てのはボクにとって全然不自然なことではなかった。
キミとベッドの中で
Hey!Tonight the night
離れ離れでも手をつないでたい
(キミトベ/作詞 永友聖也/久保田洋司 作曲永友聖也)
悲しみの染みかなと枕カバー取り替える
君が残していった 最後の忘れ物か
真っ青に突き抜ける 空のせいで
背中まで切ない 手が届かない
(悲しみのシミかな /作詞 久保田洋司 作曲 永友聖也)
「悲しみのシミかな」の歌い出しを聴いて、すぐに思い出したのが松田聖子の「マリオネットの涙」。作詞は松本隆で作曲が久保田洋司のアルバム収録楽曲だけど名曲。ボクは久保田さんなりの松本隆へのオマージュだと思ってるんですけどね。キャプテンストライダムってバンドを通じての。まあ、いつものボクの思い込みの可能性大なんですけど。
そんなわけでボクは久しぶりに三軒茶屋にたどり着き、キャプテンストライダムのことを思い出したってわけ。
その頃、週に一回は通っていたお蕎麦屋さん「ほていや」を探して太子堂のほうへさらに歩いていく。途中、長崎ちゃんぽんや町中華のユーワク(YOU惑MAY惑WAKUWAKU by 野村義男)をセルフ遮断でようやっと目的地へ。このご時世なので20時エンドは仕方がない。でもお店の中はなんにも変わっていなかった。なんの気取りもない。蕎麦もラーメンも同居する、街の蕎麦屋の見本みたいなスタンス。まだ夕方前だったけど近所のお祖父ちゃん連中が日本酒でもう出来上がっている。
ボクはあの頃のように竹セットを迷わず注文した。カツ丼とお蕎麦の見本みたいなコラボレーション。うん、美味しい。揚げたてのとんかつとキャベツと玉ねぎ、それを煮てさっと卵でとじた、なんの気取りもないカツ丼。そしてお蕎麦。わかめの味噌汁もいい。ここまで15キロぐらい歩いてきたのでお腹が空いているのだ。これぐらいのヴォリュームでちょうどいい。
咲いたそばからゴミになる
真っ赤な花に手を伸ばそう
エレキギターのボリュームは
いつも最大にキープして待っていた
(キミトベ/ 作詞 永友聖也、久保田洋司 作曲 永友聖也)
キャプテンストライダムは2010年に活動を休止する。
ボクはその頃には三茶を離れ、新高円寺を経て、久我山に住んでいた。久々にキャプテンストライダムの曲をサブスクでチェックする。「ブッコロリー」が解禁されていないのは残念だけどボクにとっての名盤中の名盤「108DREAMS」はあるじゃないか。ボクは竹セットを食べ終えてほていやを後にする。ここまで歩いてきたけど、さすがに帰りは電車にしよう。電車に乗ると最寄駅まで15分少々。とりあえずボクはこの日キャプテンストライダムを聴きながら帰路についた。
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