ドライバーとして億を稼ぐ!
「キノシタ君、これから予選アタックのテストするから、ストレートを観ていてごらん⤴︎」
長谷見昌弘さんにうながされ、1コーナー手前のスタンドで待った。僕はスカイラインGTR(グループA)のテストを担当。富士スピードウェイは日産の借り切りディだった。
そこに突っ込んできた1500馬力のニッサンR89Cは、1コーナー手前でもまだ加速している。予選ブーストで速度はおよそ380km/h。翼があればもう離陸している。いまだかつてその日以外で見たことのない狂気の速度だった。
だというのに、ブレーキングポイントは約150メートル。「もう止まれない〜」そう叫びながら目を伏せた直後、カーボンローターと予選用Qタイヤで武装したR89Cは、バリンバリンと独特の破裂音を響かせながら、1コーナーをあとにした。火炎放射器かのような炎を、引きずっていた。
「観た?」
「はい、狂ってます」
「ハハハ、そうか、狂っているのか」
アタックが終わった直後、駆け寄った僕に長谷見さんは柔和な表情を浮かべながら、さらにこう付け加えた。
「あれやると"億"もらえるからね」
ニヤッと笑みを浮かべた長谷見さんの、その言葉が記憶に刻まれている。
金のためにアクセルを踏む。金のために命をかける。誰もできないから大金がもらえる。僕がこれまで意識した中でのもっともプロフェッショナルドライバーらしい言葉だった。