ロジャー・コーマンという男

NETFELIXの無料期間が終わるので(継続はしないけど)色々と物色してたら「コーマン帝国」というドキュメンタリーがあったので観た。
アメリカの伝説的映画プロデューサー「ロジャー・コーマン」の物語である。

ロジャー・コーマンは、映画監督であり名プロデューサーである。彼は投資した映画で損をしないことで有名だ。
自らエクスプロイテーション映画を大量生産しながら、海外のフェリー二や黒澤映画をプロデュースし、初期のジャック・ニコルソン、デニス・ホッパー、ピーター・フォンダなど多くの大俳優のキャリアを助け、F・コッポラ、マーティン・スコセッシ、ロン・ハワード、ジョナサン・デミほか大勢の名監督を発掘した男である。齢90歳を超えた現在も現役だ。

そして若い頃からハリウッドの映画製作(配給会社主導による映画製作)に疑問点を持ち、自ら低予算映画や搾取映画製作にこだわり続けた男だ。

普通、インディペンデント映画(いわゆる低予算映画)で成功した監督やプロデューサーは、次のキャリアとしてステップアップするために大手映画配給会社(スタジオ)と契約する。
メリットとして大規模な予算を使うことが可能になり、映画製作が(独立系映画に比べれば大幅に)スムーズに行える。プロモーションも容易になり、スタジオの後ろ盾がつくことで大規模な収益を狙える。

反面、映画の編集権の譲渡や脚本の改訂権、キャスティングもスタジオ側にあり、最終的にスタジオが製作をコントロールする。
ハリウッドのこの掟に逆らったのはロジャー・コーマンとジョージ・ルーカスだけだ。

ジョージ・ルーカスはスターウォーズの監督の報酬を蹴って商品化権を手にし、映画のヒットによって莫大な利益をあげ、ILMというスタジオを作った。ILMは特殊効果のほか、CGIやSFX、VFXを数多く手がけさらに収益を上げた。ルーカスはその収益と技術によって自ら作りたい映画をほぼ自費で作り、出来上がると完成品を20世紀フォックスに売った。

どんな駄作であっても人気シリーズの完成品だからフォックスは買うしかない。そこに口を挟む余地はなく、どんなに納得できない物語でも出来上がった映画を買うしかないんである。買わなければ他の配給会社が買うだけだ。
おまけにルーカスは名プロデューサーである。予算は無駄なく納期もきっちり管理する男だ。「レイダース失われたアーク」でスピルバーグに対し、日程を1日でもオーバーしたら君を降ろして俺が撮るといった最強の監督兼プロデューサーだ。

対するコーマンは監督としての才能はないが、扇情的な搾取映画を撮り続け、監督や俳優志望の若手を安く使い自分の思い通りの映画を作った。低予算で利益が上がる映画を大量生産したのである。

リハーサルなし、テイク1回なんてのは当たり前。
撮影許可も取らず、「ヘルスエンジェルス」では本物の暴走族とゲリラ撮影を行い、ドラッグ映画「TRIP」では当時LSDを愛用していたホッパーを起用してサイケ映画を作った。
(後にピーター・フォンダがこの2本から「イージーライダー」の企画を思いつき、コーマンに製作を依頼したがこれを断っている)

薄利多売のこの商法で自ら監督したおよそ50本の映画とプロデューサーとして手がけたおよそ400本の映画を世に送り出した。そして現在も量産し続けている。

この映画製作は後の多くの監督や俳優、プロデューサーに影響を与えた。5日で映画を作り、当時のグラインドハウス(日本でいう名画座のような複数本の低予算映画を上映する映画館)で月産ペースで製作し続けた。
ちなみに低予算、B級映画と言ってるけどアメリカでの低予算とはだいたい3〜5億円で、日本だと普通の映画予算(3億くらい)とほぼ同じである。大作と呼ばれる映画だってせいぜい10億程度。

町山智浩氏曰く、
「マッドマックス怒りのデスロード」3分間の予算で2時間映画を作ってるそうだ。日本映画が斜陽になるわけだ。日本の映画産業こそ「ロジャー・コーマン帝国」かもしれない。

アメリカでは「ジョーズ」や「スターウォーズ」のヒットによってハリウッドのスタジオが低予算映画やB級映画に目を向け、若手俳優や若手監督を抜擢するようになるまでロジャー・コーマンのスキマ産業的B級映画帝国は君臨し続けた。
かつてロジャーコーマンが製作した「バニシングインTURBO」。
後のタランティーノ作品「デスプルーフ」に影響を与えたこの作品で監督・主演をしたロン・ハワード(「バックドラフト」や「アポロ13」を監督)に対し、コーマンは予算追加要望を断りこう語っている。

「ロン、いいかこういうことだ。今回いい仕事をしてくれたら、私と関わらないで済む。」

ロジャー・コーマンは今でも映画を作っている。
そのやり方はルーカスと正反対で「質より量」であり、「ストーリーよりも芸術性よりも日程を守り予算内に仕上げること」であるが、ルーカスと同じく自らの映画を自由に作ることに最も成功した人間である。
そして才能ある人間を発掘しても束縛せず新たな人材をどんどん見つける「人材発掘」の天才である。

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