見出し画像

実験演目前夜

割引あり

【はじめに】
本作は「高校女子裸足道部」シリーズの短編です。本作の主人公はプロの裸足道家であり、演目の様子は描かれません。

『実験演目前夜』


 明日の演目を想像するだけで、体の震えが止まりません。「暗闇の火遊び」……裸足道委員会から、私――葉月静瑠(はづき・しずる)が命じられた実験演目の名前です。

 実験演目とは、裸足道の新たな可能性を探るための試験的な演目です。裸足道委員会は、より斬新で、より芸術的で、より過激な裸足道の演目を日夜考えています。その演目の安全性は私たちプロの裸足道家が実際に演じて確かめます。裸足道四段が挑む実験演目はそれでもまだ比較的安全な部類のものが多いですが、私たち五段の最上位のプロとなると安全性への配慮などほとんどありません。失敗すれば苦しみ抜いて死ぬしかない、そんな演目ばかりです。

 明日、私に課せられる「暗闇の火遊び」も、もちろんそうです。この演目は55度まで熱された鉄板の上で行われます。私は目隠しをされ、手枷を付けられて、そこから伸びた鎖で吊り上げられた状態で鉄板の上に立ちます。当たり前ですが、もちろん裸足です。立っているだけでも私の足裏は焼け爛れます。

 とはいえ、それだけではありません。鉄板の上に燃え盛る焚き火が一つ用意されます。目隠しをされた私は外部の指示だけを頼りに、その焚き火を10メートル先に描かれた青い丸印の中まで運ばねばならないのです。運ぶ方法は、もちろん素足で押すしかありません。焚き火ですから、当然、運んでるうちにバラバラになります。少しずつ散らばっていく火の付いた薪を、素足で集めて、押して、集めて、少しずつ運ぶしかありません。この作業を通して私の足の裏がどうなるか……それはお察しのとおりです。

 三十分以内に青い丸印の中へ運び終えれば成功です。失敗したら、またイチからやり直しです。でも、それだけではありません。実は鉄板の上には赤い丸印も書かれているのです。赤い丸に運んでしまうと失敗。これもやり直しです。私は目隠しをしていて、指示を頼りに進むしかないのですが……私を赤へ誘導しようと青へ誘導しようと、それは指示役の自由なのです。

 私は手枷と鎖で倒れることもできませんから、指示役がその気であれば、私が死ぬまで足裏を焼き尽くすことができるわけです。どうです。いいでしょう? 裸足道五段が挑む演目として、実にふさわしいと思いませんか。足の裏から立ち上る焦げた臭いと、悶絶するような足裏の激痛を想うと、頭がおかしくなりそうな恐怖に駆られます。

 でも、その恐怖にはドキドキの期待感が混じり合っています。だって、私は生きる芸術である裸足道家ですから。焼き尽くされた足の裏は私にとっては最高の芸術品。明日は私の足の裏が、この世でただ一つの珠玉の芸術に変わるかもしれないのです。だから、私は恐怖を味わい飲み込みながらも、ドロドロに焼け爛れた足裏を想い、明日の演目への期待を抱いているのです。

 皆さんに、この演目の素晴らしさをもう少しだけお伝えさせて下さい。演目の肝は、指示役が3人いることなんです。私には指示役を選ぶ権利があり、そして今、私の手元には、50人の裸足道ファンから取ったアンケート結果があります。この全5問のアンケートは私たち裸足道家に対する彼らの冷酷さを測るために行われました。


1. 裸足道の演目について

あなたは、裸足道の演目がどれだけ厳しくあるべきだと思いますか?

・できるだけ軽度で、怪我をしない範囲で …………0人
・中程度で、少しの火傷や痛みは許容範囲 …………5人
・非常に厳しく、深い火傷や大きな苦痛を与えるべき …………42人
・限界まで試練を与え、裸足道家が死ぬまで続けるべき …………3人

2. 失敗と罰則

プロの裸足道家が演目に失敗した場合、どうするべきと考えますか?

・演目を終了し、治療を行う…………2人
・演目は終了するが、失敗の罰を与える…………10人
・失敗したら、より条件を厳しくして再挑戦させる…………31人
・失敗した時は苦しみ抜いて死ぬべきだ …………7人

3. 苦痛と芸術

裸足道で受ける苦痛は芸術性の一部だと思いますか?

・苦痛は避けるべきで、芸術性は別のところに求めるべき…………0人
・ある程度の苦痛は芸術表現に必要…………9人
・苦痛こそが裸足道の芸術性を高める…………22人
・最大限の苦痛こそが裸足道の究極の芸術表現…………19人

4. 安全性について

裸足道家の安全性よりも、演目の厳しさを優先しますか?

・安全性が第一で、演目内容は怪我をしない範囲内で…………0人
・安全性は重要だが、演目の厳しさも損なわない…………10人
・演目の厳しさが優先で、安全性は二の次…………34人
・プロの裸足道家の安全性など一切考慮する必要はない…………6人

5. 裸足道家の最終的な目標

プロの裸足道家が演目で命を落とす可能性についてどう考えますか?

・裸足道家が死ぬのは絶対に避けるべき…………8人
・命を落とすリスクは仕方ないが、できる限り防ぐべき…………22人
・演目の一部として、死のリスクは許容範囲…………17人
・プロの裸足道家は全員苦しみ抜いて死ぬべきである…………3人**


 うふふ……。これを見てるだけでニヤニヤしちゃいます。これに答えてくれたファンの全員が、私たちプロの裸足道家は足の裏を焼かれて苦しみ抜けば良いと思っている……それが素直に嬉しいんです。私たちも全く同意見ですから。この50人の方が、当日、会場に見学に来て、私はこの50人から三人を選ぶのです。

 このアンケートをもらった一週間前から、私はずーっと考えています。指示役が適切な指示を出さない限り、演目をクリアすることは不可能です。つまり、私の命は指示役の選択次第。私の選択はこの演目の芸術の一部であり、シビアに評価されるでしょう。

 裸足道家が死んでも構わない、むしろ死ぬべきだと考えるコアなファンを仮にAランクとすれば、今回、Aランクは3人います。この3人を選べば、私の覚悟は高く評価されるでしょうが、間違いなく死にます。

 裸足道家には最大限の苦痛を与えるべきで、死んでも構わないが、必ず死ぬべきとは思わない……という人たちをBランクとすれば、7人います。彼らを選べば助かる可能性があります。「死んでも構わない」と思っていても、実際に目の前で私が死にかければ気が変わるかもしれません。私が死にかけるギリギリで、まともな指示を出してくれれば……私がその指示を信じて、それに従う余力が残っていれば、助かる可能性があります。

ここから先は

1,280字

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?