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高校女子裸足道部(花屋未咲編)

割引あり

【はじめに】
 本作はインタビュー形式を取った特殊なホラー小説です。この世界では「裸足道」と呼ばれる華道や茶道のような芸道があり、高校生が部活で行ったり、プロの裸足道家も存在します。pixivやCi-enにて、この世界観をベースとした物語も展開中です。

Q:お名前と所属校を教えてもらえますか?

 ――はい! 高踏院女子高等学校裸足道部一年の花屋未咲です!

Q:顔色、すごく悪いけど大丈夫ですか? 油汗もすごいですが……

 ――えー。だって、四日前に火渡りしたばっかりですから。こうして立ってるだけでも足の裏が痛すぎて泣きそうですもん。あれからずっと熱も出続けてますし、痛みで夜も熟睡できないし、今も吐き気が酷くって。あ、インタビュー中に吐いちゃったらごめんなさい!

Q:火渡り大会でのご活躍、及び、二段取得おめでとうございます。

 ――ありがとうございます! 二段が取れたのは嬉しいんですけど……あ~、でも! でもでも! やっぱり悔しさの方が大きいです!! 優勝したかった! 全国大会行きたかったよ~!!!

 だって、全国大会に出れたら9月にまた火渡りできたんですよ! 次の火渡り、1月までお預けなんですもん! 優勝した城式さんがホント羨ましいです! いいな~、火渡り、いいな~!! あ~、メッッッッチャ悔しい――っ!!!

Q:あの……そういう感じなんですね。火渡り大会の映像を見てたら、すごく淡々と火渡りをされていたので。もっとストイックな感じの方かと思っていたんですが……。

 ――え(笑) 私はこんなノリですよ! そりゃだって、裸足道では所作の美しさも大事ですし~。私もみんなも澄まし顔で火渡りしてますけど、内心ではニッコニコですよ! 他の学校の子たちは分からないですけど、高踏院女子の裸足道部員はみんなニヤニヤしそうになるのを必死に我慢して火渡りしてますもん(笑)

Q:ええっ、ニヤニヤしちゃうんですか? なんで?

 ――なんでって、そりゃみんな裸足道に憧れて、裸足道の名門校たる高踏院女子に来てるんですから。足の裏、火傷したいに決まってるじゃないですか~! 火渡り大会も、もうずーっと待ち望んでました。一年生はみんな「あと3日だね!」とか「楽しみ!」とか「早く火渡りしたい!」って毎日のように言ってましたよ。

Q:裸足道に興味を持ったきっかけは?

 ――私、憧れの裸足道家がいるんです! 南河珠姫(みなみかわ・たまき)さんっていう現在五段の方で……あ、そうです! 史上最年少、17歳で四段に昇段してプロになった方です。南河さん、高踏院女子出身なんですよ。

 で、南河さん、当時、四段昇進記念演目で「四十七都道府県火渡り巡業」ってのをやってて。47日間連続で、各都道府県で火渡り公演するっていうもので、それの終盤で私の地元に来てくれたんですよ。で、私、小学生だったんですけど、雑誌の懸賞でたまたまチケットが当たって。……そうなんです! プロの裸足道家の公演チケットってめっちゃ入手困難じゃないですか! すっごいラッキーだったんですよ。

 それで、見に行ったんですけど、南河さん、連日火渡りしてたから……うん、回数までハッキリ覚えてますけど、ウチの県に来たのが42日目で、既に41回火渡りしてたんですよね。公演が始まった後、南河さんの足裏が会場のスクリーンに大写しにされたんですけど、その瞬間、会場がドカンと湧き上がって!

 だって、南河さんの足の裏ほんとカッコ良くって! もうドロッドロのグッチャグチャ! 足裏の皮はとうに焼けて全部剥がれ落ちてて、剥き出しの肉が赤くて黒くて膿もダラダラ垂れてて、本当に信じられないくらいおぞましい足の裏なんですけど、本人はずっと涼しい顔して座ってるんですよ。顔は真っ青だし、脂汗まみれなんですけど、表情は平然としたままで……すっごい衝撃でしたね。こんなにカッコイイ人が世の中にいるんだ! ……って。

 火渡りも本当に最高なんです! 四段の火渡りは一分以上かけて踏破しなきゃいけないんですけど、南河さん、ドロドロのグチャグチャの足の裏で、すごく静かに、ゆったりとした所作で足を運ぶんです。炎をじっくりと踏みにじって、足の裏をしっかりと焼き焦がしながら、最後までその所作が乱れないんですよ。激痛なんてもんじゃないと思うんですけど、なんであんなに美しく火渡りできるのか、ホント意味分かんないですよ。

 結局、一分どころか90秒くらいかけて踏破して、終わった後も静かにキリッとした素振りで正座してるんです。もちろん足の裏は大惨事ですよ! あんな足の裏でなんで平気で座ってられるのか、私、今でも分かんないですもん。ホント、メチャクチャかっこ良いんですよ~!!!

 だから、私、その時に強い衝撃を受けまして。私も裸足道家になりたい! 高校生になったら絶対に裸足道家になる! 南河さんと同じ高踏院女子で裸足道やる! って思ったんですよね。

 でも、高踏院女子って、ご存じの通り、超お嬢様高校じゃないですか。偏差値もすごい高いですし。なので、それから猛烈に勉強してなんとか合格して、さらに裸足道特待生としてなんとか滑り込んだんです。周りの女の子たちと生活レベルが違いすぎて、今でも戸惑うことはありますけどね(笑)

Q:裸足道の特待生があるの?

 ――はい、高踏院女子だと毎年4名募集してます。条件は裸足道部に入部・在籍することと、プロの裸足道家を目指すこと。代わりに入学料と授業料が公立高並にお安くなります! 高踏院は全寮制ですが、寮費や食費なども免除してもらえるので、裸足道特待生になれば、どんな子でも高踏院に入学できますね!

 特待生の選抜は小論文と面接で、裸足道に対する情熱と、高踏院女子にふさわしい品性が求められます。……えっ、私ですか? ……じょ、情熱は問題なかったんですけど、品性の方は……ま、まあ、必死に猫かぶってましたね……。本物のお嬢様たちと比べると付け焼き刃だったとは思うんですけど。エヘヘ。

 ただ、実は特待生になること自体はそんなに難しくないんですよ。良家の人たちは特待生の選抜を受けないので。え、理由ですか? 枠を私たち一般人に譲ってくれてるみたいですね。同級生の子は「裸足道を一緒にできる子が一人でも増えた方が嬉しいから」って言ってました。みんな、根が優しいんですよね。

 ただ、特待生であり続けるのはかなり厳しいです。最初の火渡り大会で初段取得、二年生の間に二段取得が最低条件で、これが果たせなければ退部、退学となります。同じ一年生の特待生で、初段取れなくて退学になっちゃった子が既に一人いて。仲間が一人減っちゃったの、寂しいですね……。

Q:高踏院の裸足道部はどんな雰囲気?

 ――部活中はめっちゃ厳しいですけど、終わった後は同級生も上級生もみんな和気藹々な感じですよ。性格の良い上品な子が多いですね。私たち特待生以外はみんな良家のお嬢様です(笑) 趣味を聞いたら、バイオリンとか茶道とか乗馬とか言われて。住んでる世界の違いを感じましたね~。だから、しっかりと教養を積んだ文武両道のお嬢様が、さらなる自己練磨のために裸足道を選んだ、というパターンが多いですね。

 だって、やっぱり裸足道家ってカッコイイじゃないですか。同性の私でも惚れちゃいそうになりますもん。だから、自分に厳しいお嬢様がさらなる高みを目指そうとしたら、自然と裸足道を選ぶことになるんだと思います。

 高踏院女子自体が自分に厳しい校風ってのもあって、高踏院に来てる子はだいたいストイックなんです。ウチの裸足道部は一年生が21人、二年生が20人の計41人です。でも学校自体が少数精鋭で一学年あたり80人しかいないんです。4人に1人が裸足道やってる女子高なんて他にないですよ(笑)

 良家のお嬢様が自分を厳しく鍛え上げるために裸足道を選んでるので、みんな、火渡り大会とかの試練は大大大好物ですね。予選一回戦の突破率はウチは毎回100%で、他の学校の子からは驚かれるんですけど、ウチだとみんな当たり前だと思ってます。

 だって、自分を鍛えるために裸足道部に入って、足の裏を火傷させるために火渡りに挑んでるんですよ。怖くて渡れないとか完歩できないとか、ちょっと意味分かんないなー、って。実は思ってます(笑) みんな上品なので口に出して言わないですけど、やっぱそう思ってるんじゃないかな~。でもまあ、人は人なんで。誰がどうであれ、私自身がしっかり足の裏を火傷できればそれでいいんです。

 あと、予選3回戦の後、本戦に落ちちゃった人は、ウチだと全員が異議申し立てをして、追加の火渡りに挑みますね。これに成功したら本戦に進めるんですけど、正直、本戦がどうとか以前の話なんです。単純に、もう一度、火渡りをして己を鍛えられるチャンスがあるんだから、そりゃ当然やるっしょ、って感じでやってます。だから、泣き喚いてる子とかもやりますよ。泣き喚いてたら本戦に出れる可能性はゼロですけど、足の裏はもっと火傷できるんですから。少しでも足の裏の火傷を深めよう、って感じでみんなやりますね。

Q:花屋さんは大会では11回も火渡りしていましたが、足の裏はどうなったんですか?

 ――あ、よかったら足の裏見ます? っていうか、ぜひ見て下さい。頑張った私の足の裏、見てあげて!

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