実用品としての万年筆の使用のススメ

2020年頃からと思うが、万年筆および万年筆用インクがリバイバル的に流行してきている。特にインクは非常に多くのオリジナルインクがリリースされている。私も当初は高価・面倒そう等の理由で敬遠していたが、コロナ禍のあたりに初めて購入し、その後も色々使用できないか試行錯誤をしてきた。初使用から数年経ち、2025年時点の私の現状を踏まえて、新規購入者へのアドバイスとしてまとめたい。

まず考えるべきこと

おそらく、このような記事を読む方は、いろいろな万年筆や万年筆インクに心惹かれ、早く購入して試してみたいとウズウズしていることと思う。しかし、はやる気持ちを抑えて、一度以下のようなことを考えてみてほしい。

自分の筆記する機会・分量を振り返ってみる

あなたはここ1週間でどれほどの文字を紙に筆記しただろうか?その場面はどういうものだったろうか?

振り返ってみると、学生であれば、鉛筆やシャーペンで板書をとったり、自習・宿題などをこなすことが多いため、筆記量が非常に多かった。(ただし、ICT教育の発展により、どれだけ筆記量が減っているかは把握していない) しかし、大学生くらいからはPCによるレポート作成や資料作成が増え、研究室では実験ノートの記載にボールペンを使用するくらいしか筆記することがなかったと記憶している。社会人になってからはなおさら筆記量が減った。基本的にPCで資料作成を行い、分量多く筆記するのはポンチ絵・スケッチによる説明や、手帳のスケジュール管理、考えの整理等に限られてきている。

また、万年筆はその構造上非常にデリケートであり、頻繁に持ち運んで外でメモするような使用方法は向かない。振動によりペン先からインクが飛び散らないよう、普通のシャーペンやボールペンに比べて慎重に持ち運ぶ必要がある。よく高級万年筆をペン差しに入れて持ち運ぶのは、単に傷つけたくないだけでなく、インク漏れを防ぎたいという意図もある(と思う)。

職業にもよるが、現代では、スマホやノートPCの普及により、普段の生活内で筆記する機会も、筆記する分量も非常に少なくなっている。その中で、あえて万年筆を購入して使用することは大いに結構であるが、現代の生活の中では、万年筆を使用してまで筆記する機会がなく、持て余してしまう可能性が大きいことは、現実として認識しておくべきである。

万年筆を購入したい動機を振り返ってみる

あなたが万年筆を購入するのは、万年筆特有の書き味を味わいたいからだろうか?それとも、多種多様なインクを使いこなしたいからだろうか?

特に後者の場合は、単純だが重要な事実を知っておくべきである。万年筆に一度インクを入れたら、基本的には使い切るまでは他のインクを入れられない、ということである。もちろんコンバーターを使用すれば、万年筆を洗ってインクを入れ替えることは可能である。しかし、万年筆を一度洗えば、万年筆が乾くまでは次のインクを入れられない。万年筆を複数本使用することで多数のインクを並列で使うことも可能である。だが、単純にかさばるため持ち運びが不便であるし、色ごとに書き味が異なることになり不満が募ることになる。

多種多様なインクを使用したいのであれば、万年筆よりも先につけペンやガラスペンを購入すべきである。つけペンであれば洗浄が楽であり、万年筆よりも多くのインクを使うことができる。幸い、オリジナルインクの爆発的増加に伴い、漫画用以外でも多くのつけペンやガラスペンが多数市場に流通している。万年筆に手を出すよりも、まずはそちらから試してみると良い。

万年筆特有の書き味を味わいたい人も、つけペンでペンポイントがついたものがいくつか出ている。(hocoroやiroutsushi等) 厳密にはペン構造が異なるため書き味が違うが、まずはここから試すべきである。

購入と使用のススメ

上記をふまえ、それでも万年筆の購入を検討する人には、以下のアドバイスを贈る。

まずは安価なものを1本使い倒す

幸いなことに、日本メーカー各社が安価な入門向け万年筆を取り揃えている。いわゆる鉄ペンであり、1万円以上のクラスに比べると硬い書き味ではある。しかし安価といえども実用上何も問題はないため、まずは気に入ったものを1本購入し、使い倒して慣れることを勧める。

以下、比較的手に入りやすいものを挙げる。ここに挙がっていなくとも、よほどの悪品でなければ特に問題はない。

  • preppy, PLAISIR (プラチナ万年筆)

    • 最安価。個人的にデザインはあまり好みではないが、筆記自体はしやすい。

  • KAKUNO, LIGHTIVE, cocoon (パイロット)

    • パイロットはペン先の品質に定評があるらしい。LIGHTIVEは割と見た目が好み。

  • ハイエースネオ (セーラー万年筆)

    • 取扱店舗が少ない印象。

  • アルミ丸軸万年筆 (無印良品)

    • ペン先が中字しかなく、やや線が太い。見た目がスタイリッシュ。いわゆるヨーロッパタイプのインクカートリッジが使用可能で、ネットで安価に大量に手に入る。

黒のカートリッジ5本を使い切るまでの期間を見る

自分の筆記量を振り返ってほしいと最初に書いたが、実際の筆記量やインクの消費量は、実際に書いてみないとわからない。人によって使用頻度も、筆圧による線の太さも異なるためである。そこで、まずは黒のサービスインク1本を使い切るまでの日数、およびカートリッジ5本を使い切るまでの日数を数えることを強く勧める。いろいろなインクに手を出したくとも、一旦グッと我慢して、一体自分がどれくらい筆記し、その中で自分が万年筆にどれだけ慣れるものかを見つめてほしい。

また、万年筆といえば…として紹介されることが多いブルーブラックを使いたくなるところだが、個人的にはあまり勧めない。他人に渡す書類等、ブルーブラックを使えないような筆記で万年筆の使用を意図的に避けることとなり、実際の筆記量がわかりにくくなってしまうだけでなく、万年筆が使いづらいという印象を自分に強く与えてしまうためである。

ペン先は中字(M)を勧める

ペン先の太さはいくつかあり、細字(F)と中字(M)が特に多く普及している。どちらを買うか迷うと思うが、万年筆がどういうものかを知りたいならば、個人的には中字(M)の方を買うことを勧める。万年筆は、一般的に細くなるほどカリカリした書き味で、太くなるほどサラサラした書き味になる。鉛筆やシャーペン、ボールペンと大きく異なる書き味を楽しめるのは太字に近い方である。一方で、線が太くなるほど用途が限られ、実用上の出番が皆無に近い。極端な例だが、マッキーが普段の生活ではそれほど出番がないことを想像してほしい。ゆえに、手帳などで細かい文字を書く必要がないのであれば、中字(M)を購入し、中字の線で筆記できる用途に使用するほうが楽しめると思う。

インク瓶の購入は慎重に

先に述べた通り、驚くほど筆記量が少なくなっている中で、インク瓶を購入するとどうなるだろうか。まず使い切れない。多種多様なオリジナルインクを買い集めたらどうなるだろうか。ますます使い切れない。実はインクにも使用期限はあり、数年以内に1瓶使い切ることが推奨されている。つけペンで頻繁に色を使いわけるのでなければ、インク瓶を購入するのは自分が万年筆に慣れてからにすることを強く勧める。

なお、インク瓶で購入するのは、まずは黒・青(できるだけ濃いもの)・赤の3種までにしておくとよい。ボールペンが上記3色である理由は、この3色が需要が多いからである。学生時代、緑や黄色、ピンク、オレンジ、紫など、様々な色のボールペンでノートをデコったはいいものの、案の定持て余すことが多かった。同じように、様々な色のオリジナルインクを取り揃えて使おうとしても、まず使い切れない。繰り返しになるが、自分の筆記量とインク消費量を見極めてから購入したほうがよい。

最後に

あまり購入に前向きではない記事となっているが、ここまで色々書いた理由は、万年筆を好きになってほしいからである。万年筆はハマるとあっという間に高額な出費となってしまう上、自分が思ったよりも1/10、どころか1/100くらいしか筆記する機会がないため、つい持て余しがちであるためである。そのため「かっこいい」と万年筆に憧れて欲しくなり購入下はいいものの、「面倒くさい」「ダメにしてしまった」と使用を早々に諦めてしまいがちであると思う。そのように購入後に挫折しないよう、色々と脅かして書いている面はある。

個人的には、PC等のデジタルツールに頼りすぎず、ゆっくりと筆記することは人生において非常に重要であると思う。その筆記を行う上で、万年筆は使いこなせれば素晴らしい筆記用具であると思う。ぜひ、本記事の内容を念頭に起きつつ、幸せな万年筆ライフへの第一歩を踏み出してほしい。

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