ボーカロイドの深淵を覗こう #36
こんにちは。ボカロが好きです。ボカロはいいぞ
さて、「アンダーグラウンドボカロジャパン」「感性の反乱β」「POEMLOID」「VOCALOIDよれよれ曲リンク」「ボカイノセンス」の全曲周回を目指して感想を書いていくシリーズの36回目です。第一回はこちら。一覧はこちら。
クレジットについて、概要などに表記がなければ作詞作曲を投稿者本人が行ったとして表記します。絵や動画については概要欄/タグ/動画内にクレジットがある場合のみ表記します。
万が一ですが、クリエイター様御本人で自分の曲を紹介してほしくないということがありましたらご連絡ください。
それと、このシリーズはあくまで「レビュー」ではなく、「私が聞いた印象録」として受け取ってくださるとありがたいです。聞いてみて全然違う印象でも、各々が各々の内奥に起きた情動を信じてください。そして自分の感動(それは言葉としての「感想」でなくてよい)を大切にしてください。
それではいきます。
0351. VXXXXXXXXXXXXR / シカクドット
タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン / 感性の氾濫β
作詞・作曲:シカクドット
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/9/19
最近では「ポテトがSしか売ってない」や「ビャンビャン麺」で知られる、シカクドットさんのガバ。シカクドットさんってオーロラ色PってP名付いていたんですね。知りませんでした。
強く歪んだミクの声とともに強く鳴らされるリズムがドープです。正直なんと叫んでいるのか聞き取れなかったのですが、裏で流れるシンセの怪しげなメロディと相まってとてもミステリアスです。「VOCALOID F***ER」というブレイクの後盛り上がるのもかっこよく中毒性があります。
0352. crazy mind / キチガイP
タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:キチガイP
ボーカル:鏡音リン
投稿:2010/9/24
東方のBGMアレンジを投稿していた方のボカロ処女作です。東方のアレンジ名が「東方キチガイアレンジ」とのことでこのP名なのでしょうか。
うねるような歪んだ音とともに不安になる不気味なメロディとリンの声が特徴的です。タイトル的に「さよならを教えて」のイメージソングでしょうか。名前はもちろん知っていますがプレイできていない……履修したい。
「さよ教」の内容をちゃんと知らないので的はずれだったら申し訳ないのですが、「刺さる注射器 痛いよ でも僕の魂が救われました」のように薬物的な混沌が歌われています。不協和音や不安定なメロディが内容の躁鬱に合っていて、闇を如実に感じます。
0353. レインコート/憧憬/嫌悪/理解 / ヒッキーP
タグ:感性の氾濫β
作詞・作曲:ヒッキーP
風景撮影:ヒッキーP
イントロサンプリング:現在地夜
エンコード:ピロリロP
イラスト:ぱつ
ボーカル:鏡音リン
投稿:2010/9/24
雨の日の気怠げな陰鬱、抑圧されたフラストレーションを寂しさの中に感じる曲です。リンの「殺したい――!!」というシャウトから普段はひた隠しにしているような心の叫びを感じます。
歌い出しのぽつりぽつりというような譜割りも、心の声を絞り出しているような雰囲気が雨だれのように感じられ、雨がかき消してくれるうちに叫んでしまえとでもいうような、徐々に開放されていく内奥を感じます。
0354. すりーぷがーる / Mr.Pom
タグ:VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:Mr.Pom
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/9/26
朝の眠気がシンプルなインストとどことなく暗い雰囲気にマッチしています。あと5分……という朝の気怠げな雰囲気が「秒針ペースはやすぎるっ」など可愛くも率直に歌われています。
サビでは伸びやかで明るくなりつつも現実を直視する、朝らしいぶれた気持ちが「よれよれ」としています。
かわいさと現実の大変さを同時に感じ、みんなも頑張っているから頑張るか~~という気持ちにさせてくれます。
0355. 帰ってきたキャリー&ガーリー / nicol(たまごやきP)
タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:nicol(たまごやきP)
原曲:nm8359945(セルフリメイク/No.0221)
ボーカル:初音ミク/月読アイ
投稿:2010/9/28
自身の活動1周年に処女作をリメイクした作品です。リメイク前はこのシリーズのNo.0221として紹介しています。
リメイク元と比べ、音に深みが出て怪しげなミクの声や不気味さを感じる月読アイの朗読にとても良くあっています。イントロのサイレンのような音も曲の雰囲気にあっています。感想の単音のメロディラインも不安定さが逆に魅力的に感じます。「でかけていたと思ったらお留守番していたい」という電波な内容ですが、その不気味さが唯一無二です。
0356. Q.O.L. / なっとくP
タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン / VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:なっとくP
ボーカル:初音ミク / DelayLama
投稿:2010/9/28
テクノな雰囲気が未来感を加速させる曲です。PVはライフゲームというマスの状態から次の状態が決まる、擬似的に生命の増殖/絶滅/移動などを再現できるプログラムです。音楽×ライフゲームというと、大好きなやくしまるえつこさんの「わたしは人類」を思い出さずに入られませんが、こちらのほうがずっと早いです。
ライフゲーム、合成音声、プログラムの「命」という題材がすべてマッチしています。サウンドもDelayLamaのコーラスとテクノが良くあっていてとてもかっこいいです。歌詞は「末代まで全員殺す」という謎&過激な内容ですが、その不思議な掴みどころのない雰囲気も含めて好きです。
0357. シックスナイン / 丸三
タグ:VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:丸三
ボーカル:GUMI
投稿:2010/9/28
歌詞がなんとすべてモールス信号。歌もトンツーで歌われています。なんと言っているのかは調べられていません。誰か教えてください。
激しさとスタイリッシュさが両立されたようなサウンドがとてもかっこいいです。おそらく同じ歌詞の繰り返しですが、それ却って中毒性があります。1:16ごろからの歪んだ間奏が特にかっこよくて好きです。
0358. 電脳雲ヲ堕チル彼女ハ消エタ / AIR田F
タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:AIR田F
イラスト:リミ
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/9/29
おそらく逆再生を用いた初音ミクインスト曲。「機動歌姫ヴォーカリオン」のタグもついていますが、ロボットアニメのような壮大な世界観を感じます。シューゲイザーらしい浮遊感がイラストの通り空のような深さを湛えていて、深いサウンドに包み込まれるようです。3:13頃からのクライマックスの盛り上がりがとても好きです。
0359. とろけるプリン男爵 / 予言ボーイズ
タグ:VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:予言ボーイズ
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/10/2
序盤「冷蔵庫の中のプリン食べたい」と元気に始まり、サビの疾走感から若さというか「理想的なあの頃」というような雰囲気を感じて元気になります。特にサビが好きです。「聞こえないふりして夜走り抜けて 君を振り切った」という青春全開な雰囲気がとても良いです。
0360. 自殺寸前のストリートライブ / キチガイP
タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:キチガイP
ボーカル:鏡音リン
投稿:2010/10/3
「学生時代を思い出して歌詞を書きました」とのことで実体験かはわかりませんが、自殺未遂の様子をリアリティをもって歌われています。不安定なメロディラインとどこか泣いているようなか細いリンの声がその暗さを表現しています。
「僕は死ぬよ 死ぬのが怖い……」や「僕は強い人になってお前を殺す」のような逡巡する感情や恨みを実直に言葉にしています。「リンちゃんが弾き語りしてます」という説明もとても良いですね。人間に提供するのとは全く違う、ボーカロイドに思いを仮託するような独特の関係性でないと生まれない曲のように思います。こういった曲があるのもボカロの魅力のようにも思います。
今回はここまで!
360 / 3277曲(総曲数前回+29):進捗10.99%
周回の中で特に気に入った曲をマイリストに入れておきます
日記:2022/09/13
また期間が空いてしまった! 忙しいのと体力がなさすぎるのがいけない。体力をつけるために運動をしなければならず、運動をするには時間がなければいけないという自家撞着。
マジカルミライも一段落つき、感想も書きたいと思っていましたが、マジカルミライからもだいぶ時間が空いてしまったし、マジカルミライで表現される初音ミクへの想いは別の個別記事を書いたので、そちらに任せます。
というわけで、書くこともないので、Kiite Cafeのプレイリストに書いていた椎乃味醂さんの「ヘテロドキシー」への感想・考察をこちらに移植します。Kiite Cafeのコメントの上限は1024文字なのですが限界ギリギリです。移植にあたり、文字数の都合で削った引用表記等を若干追加しました。
Kiite Cafeって何? という方がもしいらっしゃれば、こちらを御覧ください。
それでは……。
ヘテロドキシー / 椎乃味醂
【創造に対する所感。ニーチェの言葉を専ら借用するならば、永劫回帰の中で既存の価値に囚われず、例えば、利己的に、独占的に、到達点を設定し得る芸術活動は、能動的ニヒリズムの確保に、有用な試行として期待される。】
Th.アドルノは『不協和音 管理社会における音楽』において複製技術の確立した世界での消費音楽を考察・批判している。そこでは音楽が「いま」「ここ」にのみ存在するというアウラから解体され、【品質が持つ価値は消えた】物象化と聴衆の退化に陥れるとして消費音楽の批判を展開している(ただしベンヤミンなどによる議論がある点は留意しなけらばならない)。
一方美学について、ハイデガーは1936年からの講義でニーチェの「力への意志」を美学の観点から考察している。この講義においてニーチェの芸術見解を五つの命題に整理した。
一、芸術は、力への意志の最も透明かつ周知の形態である
二、芸術は、芸術家の側から把握されねばならない
三、(…)芸術は一切の存在するものの根本的生起である(…)
四、芸術は、ニヒリズムに対する卓抜せる反運動である
五、芸術は「真理」よりも価値あるものである(近岡,2009)
『ツァラトゥストラかく語りき』でニーチェはキリスト教への異端=【ヘテロドキシー】として「神は死んだ」(ニーチェ, pp17-18)と述べ救いを、「おのれ自身を、永遠を、回帰を、万物が永遠に同一であることを」(前同, p.555)と述べ生命の合目的性を全否定した。その絶対的な虚無主義においてとりわけ音楽が苦悩の超克に機能することは、ショーペンハウアーが『意志と表象としての世界』において「それ自体けっして直接的に表象せられ得ないところのある原型に対する模写なのである」(ショーペンハウアー, pp.206-207)として、アリストテレスが『詩学』で芸術の本質を「模倣」に帰しているように、音楽を意志の表象としての世界を最も模倣するものとしていることからも理解される。
音楽が消費物として飽和し【市場は破壊された】現代であっても、意志の表象としての【成果物以外の浸潤を排し】自らの信じる美学を絶対的に肯定することが「超人」への道なのかもしれない。
出典
椎乃味醂「ヘテロドキシー」,ニコニコ動画, 2021,2022年9月13日閲覧,
近岡資明「ハイデッガーのニーチェ解釈における美学との対峙」広島芸術学会,Annual Review of Hiroshima Society for Science of Arts,21・22巻,pp57-71
ニーチェ, 佐々木中・訳『ツァラトゥストラかく語りき』, 河出文庫, 2010
ショーペンハウアー, 西尾幹二・訳『意志と表象としての世界 Ⅱ』, 中公クラシックス, 2004
参考文献
Th.W.アドルノ, 三光長治・高辻知義・訳『不協和音 管理社会における音楽』, 平凡社, 1998
アリストテレス, 三浦洋・訳『詩学』, 光文社古典新訳文庫, 2019
高橋聡太「アウラ」,現代美術用語辞典v2.0, 2022年9月13日閲覧
大学で美学や宗教学、文化人類学をもっと勉強しておけばよかったと思う今日この頃です。最近はまた読書熱・哲学熱が高まっていて、原著や哲学書をなんなら大学の時より読んでるかもしれない。けど、仕事もあり疲れもありで読むための体力がない不甲斐なさ。しかも哲学書は総じて高い!! 需要と供給の均衡価格に虐められています。助けてくれ。
実はKiite Cafeのコメントでは同じく椎乃味醂さんの「死んでしまったんだ」についても考察まがいの感想を長文で書いてあります。そちらは次回。椎乃味醂さんはボカロPというより、思想家として好きです。
この考察は個人的なガバガバ駄文なのでご注意を! 哲学書もまともに読解できているのか謎です。もっと詳しい人がいたら教えてください。アドルノの音楽論は正直「ジャズのレコード絶許マン」の印象がつよいのですが、アウラ論について、絵画やらの創作AIの発達と汎情報共有社会へと現在進行系で突き進む現代では一考の余地があるようにも思います。この辺も考えがまとまれば書き残しておきたいです。
それでは!
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