「生成AIをビジネスに実装する」とはどういうことなのか?を考える(第7回:第7回:エンタープライズにおけるLLM導入戦略)
これまでのシリーズでは、生成AIがもたらす変革の本質から、実装の方向性、成長戦略、そして具体的な成功事例と課題まで見てきました。第7回となる今回は、エンタープライズ領域における生成AI実装の核心となる、「LLM選択の戦略」について深掘りしていきましょう。
LLM導入エンタープライズ実装における誤解と本質
生成AI導入を検討する際、多くの企業がChatGPTやGemini等のLLMの利用を検討することから始められるケースが多いのではないでしょうか?確かにこれらのサービスは現時点において優れた推論性能を持ち、導入の敷居も低いため、生成AIの可能性を探る最初のステップとしては理にかなっていると考えます。
しかし、エンタープライズでの本格的な実装において、「ChatGPT=生成AI導入」という単純な図式は、必ずしも正しい選択とは限りません。なぜなら、企業における生成AI活用では、業務プロセスの性質や扱うデータの特性によって、求められる要件が異なるからです。
LLM選択の戦略的フレームワーク
これは、私の考えですが、エンタープライズでのLLM選択において重要なのは、「推論の複雑性」と「データの機密性」という2つの軸です。下図の四象限は、推論の複雑性とデータの機密性を軸にしたLLM導入形態選定のフレームワークを示しています。
エンタープライズ領域においては、生成AIを適用するユースケースが4象限のどこに該当するかを把握し、そのニーズに最適な導入形態を選択することが重要です。
オープン型か?クローズド型か?
LLMの導入形態の選択に加えて、もう一つ重要な戦略的判断が必要となります。それは基盤モデルのオープン性に関する選択です。
現在のAIの主要プレーヤーは、クローズドAIの支持者とオープンソースAIの支持者の2つの主要なグループに分けられます。
クローズドAIの最大の支持者の1つはOpenAI自身であり、モデルのソースコードをリリースせず、アクセスのみを提供しています。
Metaなどのオープンソース AIの支持者は、クローズド AIは進歩を妨げ、オープンソース AIが正しい方向であると考えています。
クローズドモデルは、開発元の組織によって厳密に管理され、モデルの構造、学習プロセス、独自技術が保護されています。これにより、高速な開発サイクルと充実したサポート体制、そして商業利用における柔軟性という利点をもたらします。一方で、モデルの内部構造や学習データの詳細が不透明であり、企業固有のニーズへの適応には制限が生じる可能性があります。
対照的に、オープンモデルは、そのアーキテクチャ、パラメータ、さらには学習済みモデル自体が公開されており、他の研究者や開発者が利用し、学び、さらに発展させることができます。これにより、コミュニティによる継続的な改善や、バイアスの特定と改善、そしてスケーラビリティの最適化という利点があります。ただし、セキュリティやパフォーマンスの面では、個別の対応が必要となる場合があります。
実装における戦略的アプローチ
実際のエンタープライズ実装では、単一のソリューションですべてのニーズを満たすことは困難です。むしろ、各業務プロセスやユースケースの特性を見極め、適切なLLMを選択していく戦略的なアプローチが必要となります。
例えば、一般的な文書作成にはパブリックLLMを、専門的な技術文書の作成には特化型モデルを、機密性の高い顧客データ分析にはプライベート型を、というように、ユースケースの特性に応じて適切なソリューションを組み合わせていくことが重要です。さらに、オープン性の観点からも、一般的な業務効率化にはクローズドな商用モデルを、特定領域の専門的タスクにはオープンモデルをベースとした特化型モデルを、というように使い分けることで、より効果的な導入が可能となります。
まとめ:戦略的選択が成功を分ける
生成AIのエンタープライズ実装において、LLM選択は単なる技術的な判断ではありません。それは、組織のデジタル変革を成功に導くための戦略的な意思決定なのです。推論の複雑性とデータの機密性を軸とした導入形態の選択、そしてオープン性に関する判断を適切に行うことで、真に価値のある実装が可能となると考えています。