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DXの教訓から学ぶAX時代の成功への道筋


AIブームの裏にある既視感

AIと聞くと、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか?多くの方が「業務の効率化」や「コスト削減」を真っ先に考えるのではないでしょうか。この反応は、実は2010年代から続いてきたデジタルトランスフォーメーション(DX)の経験から来ているものかもしれません。

ここで少し立ち止まって考えてみましょう。このDXの取り組みから、私たちは何を学べるのでしょうか?

実は興味深いデータがあります。KPMGが2023年に行った調査によると、米国企業の大多数の幹部が「デジタル投資から期待した成果が得られていない」と回答しています。BCGの調査でも、なんと70%ものデジタル変革プロジェクトが目標達成に失敗していることがわかっています。

「変革」と「デジタル化」の違いを見誤った過去

では、なぜこのような結果になってしまったのでしょうか?最大の原因は、多くの企業が「デジタル化」と「変革」を混同していたことにあります。

多くの企業では、既存のビジネスプロセスや業務フローを、そのまま単にデジタル技術で置き換えることに終始していました。
たとえば、紙の申請書をPDFに変えたり、対面での会議をオンライン会議に置き換えたり、手作業の計算をエクセルに移行したり、紙の帳簿をデジタルデータに置き換えたりすることです。

つまり、既存の業務をデジタル技術で効率化することばかりに目を向け、ビジネスの本質的な仕組みや価値提供の方法を革新するという本質的な変革の機会を見逃してしまっていたのです。

AIがもたらす二つの可能性:効率化と価値創造

そして今、私たちはAIという新たな技術革新の波に直面しています。
AIトランスフォーメーション(AX)という言葉を使い始めていますが、これはまさにDXの二の舞を演じる危険性をはらんでいます。
つまり、「AIによる変革」という本来の意味を見失い、単なる「AI化」に終始してしまう可能性があるのです。

効率化に焦点を当てることは確かに大切です。しかし、1時間かかっている作業を10分に短縮してコストを下げることはできても、それだけでは新たな収益は生まれません。
効率化のみを追究し既存ビジネスの自動化とコスト削減のみに注力する取り組みだけでは成長に限界があります。

AIの真の価値は「価値創出」、つまり、今までできなかったことを可能にする力によって、提供価値を向上させることにあります。
効率化が「既存の作業をより少ない時間で行う」という線形的な改善であるのに対し、価値創出は「これまでできなかったことを可能にする」という非線形的な成長を実現できます。

実際、BCGの調査では、生産性向上(効率化)も含めた包括的に本質的な変革に成功した企業は、そうでない企業と比べて1.8倍も高い収益成長を達成しているそうです。

AI時代の変革を成功に導く3つの要素

では、具体的にどのように変革を進めていけばよいのでしょうか。DXの経験から得られた教訓を基に、重要な3つの要素をご紹介します。

経営トップ主導の全社的な取り組みへ

まず重要なのが、経営トップの関わり方です。
DXの時代は主にIT部門任せになりがちでしたが、AI時代では経営者自身が戦略づくりに深く関わっていく必要があります。Ciscoの調査によると、AIの成功には「戦略」「インフラ」「データ」「ガバナンス」「人材」「文化」という6つの要素が必要だとされています。これらをバランスよく整えていくには、経営トップのリーダーシップが欠かせません。

段階的な導入による確実な成果の積み重ね

次に、既存のシステムとの組み合わせ方です。多くの企業では、長年使ってきたシステムや業務の進め方が複雑に絡み合っています。DXの経験から、一度に大きく変えるのではなく、まずは取り組みやすい業務の効率化から始め、次に自社の強みを活かせる領域でAIを活用し、そしてビジネスの仕組み自体を見直していくという段階的なアプローチが効果的です。

1. まずは取り組みやすい業務の効率化から始める
2. 次に、自社の強みを活かせる領域でAIを活用する
3. そして、ビジネスの仕組み自体を見直す

全社的な人材育成への投資

そして、人材育成も見逃せないポイントです。BCGの調査によると、AIで成果を上げている企業の21%が、従業員の4分の1以上にAIの研修を提供しているそうです。経営層自身もスキルアップが必要で、60%の経営層がAIについてもっと学ぶ必要があると感じているとのことです。

AI時代の競争優位性を築くために

PwCが世界中のCEOに行った調査では、70%のCEOが「AIは企業のあり方を大きく変える」と考えており、52%が「AIを使って新しい収益源を作ること」を最重要課題として挙げています。

特に意識しないといけないが、AIの2つの使い方です。
1つは「自動化」の側面、これは既存の業務を効率的に行うことです。
もう1つは「拡張」の側面、これは人間の能力を広げ、新しい価値を生み出すことを目指します。

たとえば、営業活動におけるAIの活用を考えてみましょう。単なる自動化であれば、報告書作成や顧客データの整理を自動で行うことに留まります。
しかし、AIの真価を活かした取り組みでは、顧客の行動パターンを深く理解し、最適なタイミングで最適な提案ができるようになるなど、これまでにない価値を生み出すことができます。

このように、AIには私たちの働き方を「効率的に」するだけでなく、「創造的に」変える力があります。DXの経験から学び、単なる効率化を超えて、AIを通じた新しい価値創造に挑戦する。そんな本質的な変革の時代が、今まさに始まろうとしています。

参考URL

デジタルトランスフォーメーションの終焉とビジネスモデルイノベーションの台頭

KPMG:米国企業の大多数は、デジタルトランスフォーメーションへの投資による業績や収益性の向上は見られていないと回答

BCG:デジタルトランスフォーメーションの成功確率を逆転させる



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