「生成AIをビジネスに実装する」とはどういうことなのか?を考える(第8回:AI時代における業務プロセスの進化と求められるマインド)
これまでの、生成AIがもたらす変革の本質から、企業の成長戦略、実装の実態と課題、そしてLLM選択の戦略まで見てきました。そこで浮き彫りになったのは、技術の選択や導入以上に重要なのは、組織と人材の変革だということです。
第8回となる今回は、この認識を踏まえ、AI時代における業務プロセスの進化と、それを実現するために求められるマインドセットについて考えていきましょう。
歴史的な転換点としての現在
私たちは今、「江戸時代から明治時代への変革」に匹敵する歴史的な大転換期にいます。前回までに見てきたように、生成AIの実装は単なる技術導入ではありません。それは、企業の在り方そのものを根本から問い直す契機となっています。
第6回で記載したように、多くの企業が技術導入に躊躇する背景には、組織の受容性や変革への準備不足があります。また、第7回のテーマであるLLM選択の戦略も、結局は「どのように組織を変革していくか」という大きな文脈の中で考える必要があります。
AI時代における業務プロセスの進化
この変革は、具体的には業務プロセスの段階的な進化として現れ、その進化は3つのフェーズで進んでいくと私は考えています。
第1フェーズ:AI for System
既存の業務システムにAI機能が追加される
例えば、コールセンターでの問い合わせ対応支援や、経理部門での自動データ入力など、人間の作業を補完する形でAIが活用されます。
この段階では、人間は従来通りの業務プロセスの主体であり、AIはその支援ツールとして機能します。
第2フェーズ:System for AI
AIがシステムの中核となり、業務プロセス全体が再構築される
例えば、サプライチェーン全体の最適化をAIが担い、人間はその判断の妥当性を確認し、例外的なケースへの対応を行う役割に変化します。
経営判断においても、AIによる予測や提案をベースに、人間がより戦略的な意思決定に注力できるようになります。
第3フェーズ:AI as System
AIがシステムそのものとなり、多くの業務が自律的に実行される
この段階で人間に求められるのは、AIでは代替できない創造的な判断や、新しい価値を生み出すための構想力です。例えば、新規事業の創出や、より人間的な要素が求められる高度なコンサルティング業務などが、人間の中心的な役割となっていきます。
変革を実現するためのマインドセット
このような業務プロセスの進化を実現するために、私たちには新たなマインドセットが求められます。それは単なる「心構え」ではなく、具体的な行動様式の変革を伴うものです。
1.「人材育成」から「人材投資」への転換
従来型の研修や資格取得支援という発想から脱却し、デジタル時代に必要なスキルと思考を育む本格的な投資が必要です。グローバルの先進企業では、数百億円規模の人材投資を行い、現場の従業員をデジタル・プロフェッショナルへと転換させています。これは、従業員を「コストセンター」ではなく「価値創造の源泉」として捉え直す発想の転換です。
2.「細かいルール・ベースのガイドライン」から「原理原則ベースのほどほどのガイドライン」への移行
AIの進化とともに、想定外の状況への対応が増えていく中、詳細なマニュアルに頼る従来の方式では立ち行きません。むしろ、基本的な原則を理解した上で、状況に応じて柔軟に判断できる人材が求められます。
3.「完璧主義」から「継続的改善」への文化転換
すべてを完璧に準備してから実行するのではなく、まず動き出し、継続的に改善していく。この「アジャイル」な考え方は、IT部門だけでなく、組織全体に必要とされるマインドセットです。
リアリティある変革に向けて
リアリティある変革に向けて 生成AIの実装において最も注意すべきは、「妄想」と「リアリティ」の峻別です。
「生成AIを導入すれば、すぐに確実に生産性向上を実現できる」「生成AIがあれば、すぐに雇用を削減できる」という期待は、往々にして「妄想の暴走」となり、組織に混乱をもたらす危険性があります。
重要なのは、数年後の目標と現在の準備段階を明確に区別し、段階的な変革を進めていくことです。例えば、まずは特定の業務プロセスでの検証から始め、効果測定と改善を繰り返しながら、組織全体への展開を図っていく。このような地に足のついたアプローチこそが、真の変革を可能にします。
また、この変革の中心にあるべきは「人」です。
テクノロジーの導入は、決して人を置き換えることが目的ではなく、人々の体験をより豊かにするためのものです。
従業員が満足して初めて顧客も満足できるという「People-Centric」の原則を持ち、両者のバランスの取れた価値創造を実現が重要となります。
まとめ:Intelligence Ageを生き抜くために
歴史的な転換期において、組織において変革は「選択」ではなく「必須」です。しかし、その変革は一夜にして成し遂げられるものではありません。重要なのは、リアリティのある目標を設定し、段階的に、しかし確実に前進していくことです。
生成AIの時代において、真に価値があるのは「AIに使われる人材」ではなく、「AIを使いこなす人材」です。そのために必要なのは、テクノロジーの導入以上に、私たちの「考え方」と「行動様式」の転換なのです。