セクシャルマイノリティと言われる自分が、スーツのブランドを立ち上げた話
初めまして、keuzesの田中です。
2019年12月、keuzes(クーゼス)というブランドを作りました。
女性の体に合うメンズパターンスーツのブランドです。
本当は、「女性の体に合う」と規定したり、そもそもセクシャルマイノリティとかFtXとかカテゴライズするような言葉は好きではないのですが、お客様やこれを読んでくださっている方にわかりやすく私たちのことを知ってもらうために使っています。
keuzesの目指すものでもあるのですが、そういった言葉自体いつか無くなれば良いなと思います。
「成人式、何を着たら良いんだろう?」
私は世に言うセクシャルマイノリティです。
FtXという、生物学的には女性だが、自身を特定の性別だと自認していない、つまり「中性」あるいは「無性」だと自認しているタイプの人間です。
小さな頃から可愛くすること、されることが苦手で、七五三の時は化粧をされればその場に固まり泣き喚くこともありました。
小学生の頃は赤いランドセルが嫌いで、ちょっとした反抗から腕を両方通さず片腕だけ通して毎日登校していたりしました。
その時はこのだるそうにランドセルを持つことがかっこいいとも思っていた。
気づいた時には、可愛いものよりかっこいいものを求めて生きていた。
例えば小学生の頃に作ったナップサック、彫刻刀バックのデザイン、その時に来ていた服全てがドラゴン。
誕生日には人形とかよりずっとラジコンが欲しいとお願いしていました。
でも成長すればするほど周りの目を気にしたり、その時仲良かった人たちに変だと思われるのが怖くなり、人と違うことを自分で受け入れられなくなりました。
自分が本当にどうしたいか、どう生きたいかという想いより、「引かれたくない」や「友達でいてくれなくなったらどうしよう」という想いのほうが強く、自分の気持ちを隠すことが安全だと思っていました。
中学生の頃には彼氏もいて、制服のスカートだってちゃんと着たりしていました。
それでも無理なものは無理で、中学2年生頃から制服をわざと濡らしたり、汚したりしてジャージで過ごすことの方が多くなっていました。
そして高校生になったら、周りの友達は成人式のために髪を伸ばし始めた。
そんな時、ふと自分は成人式の時に何を着るんだろう?と考えたことがあります。
振袖?絶対に無理。参加するならスーツがいいと思いました。
でも誰にも相談できなくて、ネットで調べたら洋服の青山に行けば買えると書いていたのを覚えています。
家の近くに洋服の青山はあったけど、自分がftxだと認めきれていない当時の私にとって「メンズスーツが欲しい」と店員に伝える勇気はその時は無かった。
もうその時点で成人式は諦めていました。
そして18歳の頃茨城から上京して、職場で友達もできたんですが、その友達が数年後結婚して結婚式に招待された。
人生初の結婚式にとても楽しみな気持ち、めでたい気持ちと同時に何を着たらいいんだろうと不安に思っていた。
本格的に女性が着れるメンズパターンのスーツがないか探しました。
でも、そもそもネットでどう調べたらいいんだろう。
検索ワード「ftx スーツ」「女性 メンズスーツ」思い浮かぶワードを入れて探しまくった。
出てくるのは以前と同じ洋服の青山か地方にあるやっているかどうか分からないオーダースーツブランド。
でも、私は店に行ってメンズスーツが欲しいと言ったらどう思われるか考えたら怖かったし、結局その時もスーツを買いに行けなかった。
スーツを買えなかった私は、結局結婚式にはH&Mやユニクロ色々なところを回ってスーツっぽいものを上下で揃えて参加しました。
とても素敵な結婚式で幸せな気持ちになれたし、本当に最高の思い出。
一方で、こんな格好でしか一生参加できないのかと、どこか残念な気持ちもありました。
上京してからというものFtXの友達が増え、よく遊ぶようになる中で話をしていると、その子達もスーツの事について同じ悩みを持っていました。
自分の周りで同じ悩みを持っている人が何人もいるなら、世の中には一体どのくらいの人が困っているんだろう。
そこでようやく私は自分でブランドを立ち上げようと決意しました。
何もわからないところからブランドの立ち上げ
私は洋服に関しての知識は全くありません。
ブランドを立ち上げるにあたって自分で事前にスーツのことについて調べることもしていません。
片っ端からスーツを作っている工場に連絡を取り、「メンズスーツを女性サイズで作ってください」と言い続けました。
ブランドを立ち上げる前は、ただサイズを小さくすればいいと単純に考えていました。
だから工場もすぐ見つかるだろうとも思っていました。
ですが、洋服を作っている工場はほとんどメンズ工場とレディース工場できっぱり分かれているということを後に知りました。
私が作りたいのはメンズパターンのスーツなので、メンズ工場に連絡を取りましたが、一番小さいサイズというものが工場で既に決まっていて、対応できないと何度も断られました。
諦めかけていた時に、ある工場の担当の方が対応できるかもしれないと連絡をくれました。
そもそも何故そんなものを作りたいのかを質問され、自分自身の話をしたところ理解してくれました。
対応できるかどうかはまず、あなたがイメージしてるものを形にしてそれを見せてくださいと言われ、パタンナーを探しました。
工場のとき同様、知識のない私は知人の紹介やネットなどでパタンナーの方を探し「メンズスーツを女性サイズで作ってください」と言い続けました。
メンズパターンのスーツを作ることはパタンナーの方からしてもとても難しいことでなかなか引き受けてくれる方が見つからず、その中でも唯一1人だけ前向きな返事をしてくれた方がいて、再度自分自身の話をしたところ快く引き受けてくれました。
何度も何度も打ち合わせやデザインの見直しをして、そこでようやく思い描いていた「女性の体に合うメンズパターンのスーツ」を形にすることができ、工場の人に見せたところ、対応していただけるとのことで無事ブランドの立ち上げをすることができました。
ホッと一安心。
工場が見つかってからSNSでブランドを作ったことを投稿したら、すぐに沢山の人から連絡を頂き、私が思っていたよりも多く同じ悩みを持っている人がいるということを知ることができました。
2020年1月から販売開始することを2019年12月時点でSNSで告知したら何人もの人が予約をしてくれて、その中にはパートナーの方にプロポーズするためにスーツをオーダーしてくださった方や、卒業式の参加を諦めかけていた方、成人式の為にスーツを作りたいという方、沢山の方のそれぞれの大切な日に携われたこと、少しでも悩みを解決できたこと、keuzesを立ち上げてよかったなとすぐ実感しました。
店舗型ではなくお客様のもとへ出向く理由
「keuzes」
店舗はありません。
店舗を構えてしまったら遠方の人は来れない。
卒業式、成人式、結婚式、その人にとっての大事な日がそれぞれに絶対あって服装が原因で参加できないのはおかしい。
1人でも多く同じ悩みがある人に届けられるよう自分で全国どこでも回ることを決めました。
気軽にいつでも見に行けた方がいいという声が多いなら、店舗での販売も今後考えていきたいと思っています。
このブランドを立ち上げた事で世の中が思うスーツに対しての概念を変えたり、誰もが自分らしくいれるような世の中にしたいという想いが私にはあります。
自分1人で世の中を変える事はできない。
お客様と共にこのブランドを成長させ、自分らしく生きられる世の中にしたいと思っています。
keuzes(クーゼス)の意味は、オランダ語で「選択肢」
keuzesを選んでくれたお客様がkeuzesのスーツを着てくれて、それを着てただ街を歩いてくれるだけで世の中の考えは変わると本気で信じています。
どんな自分が好きか、どんな服を着てる自分が好きかを考えた時に答えがスーツになって、そしてkeuzesのスーツを選んでくれる。
現状ではスーツに対して性別で分ける考えがまだまだある中で勇気を出してkeuzesを選んでくれた事に感謝しかないし、こんな嬉しい事はない。
keuzesのスーツを着てくれる「あなた」が世の中を大きく変えていく。
このブランドを始めなければ会うはずのなかった全国の人達と会うことが出来て、話すことができて、このブランドを立ち上げて良かったと心から思います。
訪問した際にお客様とはスーツの話以外にも、色々な話をします。
その日だけ話して終わりではなく、後日好きな人と無事付き合えた!と報告をしてくれたり、プロポーズ成功しました!と報告してくれたり、こういった連絡を頂くとお客様と店の人という関係性ではなく気軽に相談、報告できるもっと身近な関係になれている気がしてとても嬉しいし、こちらも幸せな気持ちになれます。
自分がLGBTQ当事者であることを親には言えていなくて、スーツを作る時もなんでわざわざメンズパターンのスーツがいいの?と言われていたけど、スーツを着て見せたらかっこいいじゃん!と褒めてくれたと連絡をくれた方もいらっしゃいました。
お客様を通して親御様もスーツに対しての考えが少しでも変わってくれていたら嬉しいなと思っています。
そしてあるお客様との会話がとても印象的で、
自分の学校の制服を学校と相談してスカートからズボンに変えたというお話。
そのお客様は自分の新たな制服姿を見て、悩んでるのは自分だけじゃないということを知ってほしかったと話していました。
この方が勇気を出して行動に移したことで、どれだけの人が救われて、勇気をもらったことか。
kuezesでもこのブランドを通して誰にでも選択肢があるということを知ってほしい。
そして同じような事業がもっと増えて、もっと沢山の人が好きなものを選べるようになることでようやく「当たり前」になっていく。
そんな「当たり前」な世の中になっていくよう、keuzesでは今後も様々な選択肢を作っていきたいと考えています。
keuzesは10月から大きく変わります
先ほど書いたように、訪問時はお客様とたくさんの話をします。
時には今の生活で悩んでいること、困っていることを話すことも多々あります。
一番多く聞くのは下着の話。
・下着は買いに行きづらい。
・買えるときにたくさん買って履けなくなるまで使う事が多い。
・理想的なものが無くて理想に近いもので断念している。
・形はボクサーパンツが好きだけど生理用品がつけられないから困っている。
自分自身気持ちがとてもわかるし、下着は頻繁に買うものという認識ではなくなっていました。
いつからかそれが私の中で当たり前となり、お客様と話していくうちに自分で勝手に諦めてしまっていたことに気づきました。
スーツもそうですが、理想のものが無いから理想に近いものを探して、あればラッキー、なければしょうがなく我慢して違うものを選ぶ。
こんな風にいつまで我慢して、諦めて生きていかなければいけないのだろう。
同じ思いで困っている人がいるなら誰でも自分らしくいられるようなきっかけや選択肢を作り続けたい。
そういった思いで、keuzesはスーツだけではなく、今回下着の販売(今はまだ予約販売のみ)もスタートします。
これに合わせて、ロゴやサイトも一新しました。
(新ブランドサイト https://keuzes.co.jp/)
ロゴデザインや撮影全般含むディレクションは河野さん、
撮影を一緒に取り仕切ってくださった塚本さん、
ウェブデザインと構築を担ってくれた近藤さんには、本当に感謝しかありません。
このことについても話したいことがたくさんあるので、また別のnoteで書きますね。
色々新しくはなりましたが、創業から変わらない「お客様とともにkeuzesというブランドを成長させ、お客様の意見をもとに新しい事業を展開する」という姿勢は忘れず、様々な人の一つの選択肢となれるようなものを生み出していきたいと思います。
keuzes オフィシャルサイト https://keuzes.co.jp/
Twitter @keuzes1
Instagram @keuzes_official
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