ポジティブ心理学【bookノートA】
ポジティブ心理学は、人のポジティブな面を伸ばして、より豊かな人生を送ることをめざす。
質的な分析を中心としていたこれまでの学問とは異なり、科学的根拠にもとづいた新しい学問として自らを位置づけている。
ポジティブ心理学は、「今ここ」で幸せになることがさらなる幸せを呼ぶことを証明した。
幸福であることは、社交性や生産性を高め、健康や寿命にもよい影響を与える。
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「1日のいいことを振り返る」
「自身の強みを活用する」
といった簡単なワークで、幸福度が上がることが実証されている。
従来の心理学が人の病理や欠陥を対象にしていたのに対し、ポジティブ心理学は、人のポジティブな側面をさらに伸ばすことを目的とし、「人生を真に充実したものにするには何が必要か」を探究する学問である。
ポジティブ心理学の起源は、古代ギリシャの哲学思想にまでさかのぼることができる。
ポジティブな感情は、人間の思考や行動の幅を広げ、困難からの回復力(レジリエンス)を高めるなど、人生に多くの恩恵をもたらす。
永続的に個人的資質を育ててくれるものこそが「ポジティブ感情」であり、「アイスを食べて嬉しい」といった一時的な感覚とは区別される。
ポジティブ感情はそれ自体が目的ではなく、よりよい人生を送るための手段なのである。
それでは、どの程度ポジティブな感情を持ち合わせるのがよいのだろうか。
研究によれば、ポジティビティーとネガティビティーの割合が3:1か、ポジティビティーの割合がそれより多くなったときに、人は活気づくという。
注目すべき点は、8:1の割合を超えてポジティビティーを多く経験すると、逆効果になるということだ。
自らについて深く考え、謙虚さや思いやりなどを身につけるためには、ネガティブな感情も一定量必要である。
楽観主義と悲観主義についても同様である。
ポジティブ心理学では、楽観主義的な視点を持つことの利点を明らかにしている。
楽観主義者のほうが粘り強く、生産的で、初めての出産後もうつ病にかかりにくく、ネガティブな出来事に、よりうまく対処できる。
楽観主義者は、よい出来事については「自分の力のおかげで成し遂げた。今後もよい結果になるにちがいない」と考え、
悪いできごとについては「外的な要因による一時的なものだ」と考える。
一方、悲観主義者はこの真逆の発想をする。
しかし、悲観主義が必ずしも悪いというわけではない。
悲観主義者はリスクを過小評価しないため、
無謀な行動をとることが少なく、
心身に深刻なダメージを与える出来事をより冷静に受けとめられる傾向にある。
物事に対する知識があいまいなときに楽観的な解釈をするのは危険だが、
物事の意味合いを柔軟に解釈できるときにはポジティブにとらえたほうがよい。
楽観主義とはポジティブな結果を盲目的に信じることではなく、
たとえ物事が思い通りにならなくても、
うまく対処できるだろうという自信を持つことなのである。
物質的に豊かになった西洋諸国では、「よく生きる」ことが重要視されるようになった。
そのため、「幸福」「ウェルビーイング (心身ともに健康な生き方)」についての研究が盛んになっている。
ポジティブ心理学においても、「幸福」は重要なテーマである。
近年、幸福であることはただ単に「いい気持ち」になるだけではなく、
社交性や生産性を高め、
さらには健康や寿命にまでよい影響を与えることがわかった。
そしてポジティブ心理学が得た最大の知見は、
「人は成功するから幸せになるのではなく、幸せだから成功する」ことである。
これまで、人は「いつか幸せになるために」努力を重ねるという考え方をとってきた。
しかし、「今ここで幸せになる」ことが後の幸せをもたらすことが研究で明らかになったのだ。
では、幸福になるためには何が必要なのだろうか。
もちろん、頻繁にポジティブな感情を経験することは重要だが、
強烈すぎるポジティブ感情は必ずしも必要ではないという。
多くの理論が、幸福を永続的に上昇させることは不可能であることを示している。
たとえば「適応理論」によれば、人はポジティブ/ネガティブなできごとを経験しても、
いずれ感情が薄れ、
平常の状態に戻るとされる。
最近では、幸福に大きな影響を与えるのは、直近の2~3ヶ月の出来事だということもわかってきた。
幸福はあらかじめ遺伝的に決定された要因と、環境、自発的にコントロールできる要因の和で表される。
この公式は、環境の影響はわずか10%に過ぎず、努力によって変化させることのできる要因が40%もあることを示している。
幸福を増幅させる条件として有力なもののひとつは、社会的な人間関係である。
外交的、内向的にかかわらず、幸福になるためには、1日6~7時間は人と接する時間が必要だと言われている。
友人やパートナーとの良好な関係を持つことは、幸福度を一段階引き上げてくれるのだ。
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ウェルビーイングの理論で主流なのは、幸福とは最大限の喜びと最小限の苦痛を追求するものだという「ヘドニック(快楽的)な幸福」の考え方である。
しかし近年、「よい人生」をめざすには、「ユーダイモニック(人生の意味と関わる)な幸福」という考え方が必要だという主張がなされている。
それは古代ギリシャのアリストテレス哲学に由来する、
「真の幸福とは、徳のある人生を生き、価値ある行為をすることによって得られる」という概念である。
現在、ユーダイモニックな幸福の定義は様々で、多くの理論が乱立している。
2つの幸福は共存できるのか対立するのか、はたまた両者は本当に別のものなのか、議論の余地があるといえる。
その上で著者は、「個人的発達」か「超越」のいずれかの方法を実践することで、ユーダイモニックな幸福を実現できると提案する。
「個人的発達」とは内的・外的な試練を乗り越えるときに達成されるもので、不屈の精神や感情のコントロールによって後押しされる。
「超越」とは自分以外の、自分自身より大きな目的 (子どもや仕事、信仰など) に貢献する行動のことで、個を超えた行動である。
ポジティブ心理学を具体的に活用するためのメソッド
「3つのいいこと」
寝る前に1日を振り返り、その日よかったことを3つ書きとめるというのを1週間継続する。
そして、自分が果たした役割を考えるというものだ。
このワークを行うと、6カ月にわたって幸福感が増し、落ち込みが軽減されるという。
このワークの留意点は、
「思い出すだけでなく書きとめる」
「果たした役割が常に明確になるとは限らない」
「ワークを長期間やりすぎるとかえってよくない」
の3つである。
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夫婦関係のよしあしを決めるのは、お互いの人生におけるよい知らせにどのように反応するかだという。
反応の仕方は、「積極的/消極的」「建設的/破壊的」の組み合わせで4つに分けられる。
たとえばパートナーから昇進の報告があったときに、「よかったね」と応じたとする。
しかしこの「消極的・建設的」反応では、不満を漏らす「積極的・破壊的」反応や、報告自体を無視する「消極的・破壊的」反応と大きな差はなく、夫婦関係を非協力的で信頼度の低いものにしてしまう。
もっとも望ましいのは、「積極的・建設的」反応である。相手の発言にしっかり耳を傾け、大いに喜びを表現し、盛大に成功を祝うことが大切だ。
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過去の幸せだったころのことを思い出すことは、幸福感を高めることで知られている。
思い出し方によっては、さらにその効果を高めることができる。
思い出に関連する品物に意識を向けて過去を想起したり、
よい出来事が起きた原因を分析したりするよりも、
ただビデオテープを再生するように、
当時のポジティブな出来事をもう一度頭の中で体験するほうが、
より鮮明にポジティブな感情を得ることができる。
このように、ポジティブな感情を高める方法は様々であるが
・自分自身についてよく考え
・得意なことをし
・人生のよい面に意識を向け
・他者に親切にする
ことが共通して大事だといえる。
「ポジティブ心理学が一冊でわかる本」
イローナ・ボニウェル
国書刊行会
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