地頭力を鍛える【bookノートB】
コンサルティング会社の面接試験で出題されることで有名な「フェルミ推定」
「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」
「世界中で1日に食べられるピザは何枚か?」
こうした途方に暮れそうな問いの解決策を、概算によって導き出すのがフェルミ推定である。
地頭力とは、「情報を選別して付加価値をつけていく力」であり、あらゆる思考の基本となる知的能力を指す。
地頭力の高い人は、どんな難局に置かれても、知識や経験を活用して、環境の変化に対応していく。
地頭力とは、知的好奇心と論理思考力、直観力をベースとし、
「結論から考える」仮説思考力、
「全体から考える」フレームワーク思考力、
「単純に考える」抽象化思考力、
の3つから構成された、あらゆる思考を支える知的能力である。
フェルミ推定は、とらえどころのない数量を、論理的に短時間で概算する方法を指し、地頭力を鍛える絶好のツールだ。
世にいう「頭のよさ」には3種類ある。
1つ目は記憶力に裏付けられた豊富な知識を持つ「物知り」タイプ。
2つ目は対人感性が高く、人の気持ちをすぐに察知できるという、「機転が利く」タイプ。
3つ目は、数学者やプロ棋士のように思考能力が高い「地頭力が高い」タイプ。
結論から、
全体から、
そして単純に考えることによって、
圧倒的に生産性を上げ、コミュニケーション上の誤解を最小限にできる。
さらには、少ない知識を応用して新しいアイデアを生み出しやすくなるという効果も期待できる。
現在は、誰でも膨大な情報にふれられ、情報の陳腐化が今まで以上に激しくなり、
過去の経験が未来の成功に役立つとは限らない時代である。
インターネット黎明期には、情報リテラシーや技術インフラ所有の有無による二極化、デジタルデバイドが問題とされた。
しかし今では、インターネットの膨大な情報や知識を活用して、考える力で増幅させる人と、情報に溺れる人の二極化が生じていく。
地頭力を鍛えるための強力なツールが「フェルミ推定」だ。
フェルミ推定とは、「東京都内に信号機は何基あるか?」といった、とらえどころのない数量を、論理的に短時間で概算する方法を指す。
物理量の推定に長けていたノーベル賞物理学者、エンリコ・フェルミにちなんで、このように命名された。
フェルミ推定が活用されている場面として有名なのが、コンサルティング会社や外資系企業の面接試験である。
フェルミ推定では、明快かつ正解がない質問を問うことで、解答者の思考プロセスを純粋に評価することができるため、地頭力を試すのにうってつけだからだ。
大事なのは、結果が正確であるかよりもどんな思考プロセスを経たのかという点だ。
この解答プロセスを通じて、地頭力の構成要素である
「仮説思考力」「フレームワーク思考力」「抽象化思考力」
の3つを鍛えられる。
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仮説思考力とは、今ある情報だけで最も可能性の高い結論を想定し、
それを最終目的地として情報の精度を上げながら検証を繰り返し、
仮説を修正して結論に至る思考パターンを指す。
限られた時間内に最善の結論を効率よく導くために欠かせない能力だ。
ポイントは3点
(A)どんなに少ない情報からでも仮説を構築する姿勢
(B)前提条件を設定して先に進む力
(C)時間を決めてとにかく結論を出す力
やみくもに情報収集をする前に「何のために情報を集めようとしているのか」を意識することが、仮説思考の一歩だといえる。
仮説思考の本質を、「最終目的地から逆算して考えること」ととらえると、応用範囲が一気に広がる。
「前提条件を設定して先に進む」を実践するには、自ら課題を決め、情報が足りなくても現実的な線で「勝手に」判断を下し、前に進んでいかなければならない。
「時間を決めてとにかく結論を出す」には、完璧主義を捨てて、「この納期でどこまでできるか?」と考える、「タイムボックス」的な発想が求められる。
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フレームワーク思考力は、「対象とする課題の全体像を高所から俯瞰する全体俯瞰力」と、「とらえた全体像を最適の切り口で切断し、断面をさらに分解する分解力」から成り立つ。
フレームワーク思考力の5つのステップ
(1)全体→部分への視点移動
(2)切断の「切り口」の選択
(3)分類
(4)因数分解
(5)ボトルネック思考
フレームワーク思考力を使う目的は、個々人が持つ「思考の癖」や「暗黙の思い込み」を取り払うことである。
そこで(1)全体→部分への視点移動が非常に有用となる。
一歩引いて、客観的な視点で課題の全体を俯瞰し、そのうえで該当するテーマにズームインしていく。
(2)切断の「切り口」の選択においては、対象の特徴を最適にとらえられる視点をいかに選ぶかが、問題解決の成否を分ける。
筋のよい切り口の選び方は、経験と試行錯誤によって磨かれていくため、「アート」の世界だといってもよいだろう。
(3)分類では、全体を「もれなくダブりなく」分解すること。
分類した結果を足し合わせると、もとの全体に戻るかどうかに留意し、それぞれの結果を同じレベルの粒度に合わせなければならない。
(4)の因数分解では、対象要素を複数の構成要素に分解することによって、各要素の因果関係を掘り下げ、何がキーとなるのか、どこがボトルネックとなっているのかという分析が可能となる。
これをビジネスに応用し、売上拡大のための施策を考えるという例を考えてみよう。
「売上げ」を一つのものとしてとらえると、「営業に発破をかける」、「広告に投資する」といった施策しか思いつかない。
しかし、売上げ=「定価 ×(1-割引率) 」×「市場規模 × 市場シェア」というように因数分解して、
個別の要因を分析すれば、例えば「付加価値に合わせて定価を引き上げる」、
「競合のシェアを奪って市場シェアを上げる」などと、
より有効な施策を練ることができるはずだ。
(5)ボトルネック思考では、再度全体像を俯瞰し、全体パフォーマンスに大きく影響を及ぼすボトルネックがないかどうかをチェックしていく。
最終結果の精度を決定するのは、一番精度が低い部分であるため、それ以外のところをいくら詳細まで落とし込もうとしても無駄になってしまう。
あくまで全体最適の視点を忘れないようにしたい。
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抽象化思考力とは、対象の最大の特徴を抽出して、
単純化・モデル化した後に一般解を導き出して、
それを再び具体化して個別解を導く思考パターンを指す。
抽象化におけるポイントは、モデル化、枝葉の切り捨て、アナロジー (類推) の3つである。
抽象化が必要なのは、限られた知識の応用範囲を飛躍的に広げるためだ。
モデル化を通じて、課題の対象より一段「上のレベル」に引き上げてから解くことで次のような効果が得られる。
まずモデル化して事象をシンプルにすれば、解が導きやすくなる。
また抽象化には、既存の公式や法則にあてはめやすくするという効果もあるのだ。
さらには、類似の経験をした先人の知恵を活用できるようになる。
このように抽象化することで、表層的ではなく根本的なレベルでの問題解決が図れる。
抽象化を行うには、事象の本質とは関係のない部分、つまり「枝葉」をばっさりと切り捨てる発想が必要となる。
最終結果に対して関係があるか、影響度合いはどれくらい大きいかを考慮して判断しなければならない。
「要するにそれは何なのか?」を突き詰めれば、「30秒で説明できる」ようになっているはずだ。
抽象化を行ううえでアナロジーも有用である。
アナロジーとは、異なる領域の物同士の共通点を見つけて、
他のことを類推して考え、
本質的に類似した事象を参考に課題解決を図るというものだ。
その際、「自分の置かれた環境は特殊である」という思い込みを排除しなければならない。
部分的にでも抽象化できないか、歴史や一般法則から学べることはないかを考えることが重要だ。
「地頭力を鍛える」細谷功 著
東洋経済新報社
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