究極の歩き方【bookノートC】
人間の足形や歩き方は、50歳を境に大きく変化することが分かってきた。
そもそも多様な足形は、加齢とともに多かれ少なかれ変形して、千差万別になる。
とくに有名なのは外反母趾である。
女性の半数以上は外反母趾に悩んでおり、さらに50歳を境に、男性も女性も親指の角度がさらに曲がることが分かってきた。
こうした足形の変化を理解するために、足の構造について説明しよう。
足の裏には、かかと、母趾球(ぼしきゅう・親指のつけ根の部分)、小趾球(しょうしきゅう・小指の付け根の部分)という3つの支点があり、それぞれの支点を結んだ3つのアーチがある。
母趾球と小趾球を結んだのが「横アーチ」、かかと母趾球を結んだのが「内側縦アーチ」、かかとと小趾球を結んだのが「外側縦アーチ」だ。
3つのアーチは、クッションやバネの役割を果たす。
年齢とともにアーチがつぶれていくことが、足形の変形の原因なのである。
たとえば、50歳を過ぎてからの足形の変化でよく知られているのが、足幅が広くなることだ。
これは、長年上から体重がかかることで横アーチがつぶれることが原因である。
とくに女性は骨格が華奢なため、アーチ剛性が低く、つぶれやすい。
ほとんどの人のかかとは加齢とともに前方向に倒れていくので、その点を合わせて考えるとさらに横アーチには体重がかかるようになっていく。
それで、外反母趾や内反小趾になる人も増えるというわけだ。
また、足には左右差がある。
利き足とそうでない足との、足の使われ方の違いが足形の違いとなって表れる。
利き足のほうはしっかり踏み出すため、前足部分に体重がかかって横アーチがつぶれやすい。
左右の足のバランスは歩き方に影響を与え、トラブルに結びつくこともある。
そうしたことを予防するために、正しい靴選びや歩き方を身につけることが大事なのだ。
加齢とともに、歩き方にも変化が現れる。
歩行姿勢測定システムでさまざまな指標について調査したところ、50歳を境に大きく変化している歩き方の代表は、「歩行速度」だった。
男女に関係なく、50歳で歩行速度は急速に低下する。
そのほかにも、50歳を境にして、一歩で進む距離である「ストライド」は小さくなり、「腰の曲がり」は大きくなる。
また、人を正面から見た時の両足の間の距離である「歩隔」は、低下するバランスを補うために、広がっていくことが分かってきた。
歩き方の左右差も大きくなっていく。
一方で、「ピッチ」は若干増加する傾向にある。
若者は大またスタスタと歩くのに対し、高齢者は小さな歩幅でチョコチョコと歩くイメージとなるのだ。
歩いている人の身体重心の動きを分析すると、速度が遅くなるほど左右の揺れが大きくなることがわかってきた。
一方で、上下動は速度が遅くなるほど小さくなる。
また、歩行速度が遅くなると、かかとの着地ポイントが少し外側寄りになる。
つまり、高齢者の歩行のための靴は、左右の揺れをサポートし、かかとは少し外側寄りを補強してクッション材を入れるという設計になってくる。
「つま先の上がり」についても、高齢になるほど小さくなる。
高齢者はつま先を上げずに、すり足のようにしてペタペタと歩く傾向がある。
歩行時は、かかとから足の外側に圧力がかかって、最後に親指から蹴り出していくのが望ましい。
しかし、高齢者のペタペタ歩きは、最後の親指の蹴り出しができていないことを表している。
パンプスやハイヒールを長時間履く若い女性も、アーチが崩れ、同様のペタペタ歩きになってしまっていることが多い
このような歩き方は、衰えた筋力をカバーするために、無意識に歩き方を変化させていることが原因だ。
逆に言えば、身体にある程度の負荷をかけてやれば、筋力は維持される。
歩行速度と、理想的な歩行姿勢を保つことが、いつまでも元気に歩くためには大切なのである。
いつまでも元気に過ごすためのスポーツとしておすすめなのは、ウォーキングだ。
ウォーキングは、ランニングの半分程度しか負荷がかからず、ひざや足首の怪我をしにくいし、アーチも崩れにくい。
さらに、ウォーキングでもランニングに匹敵するほどの運動効果が得られる方法がある。
そのための基本的な方法は、ウォーキングのスピードを上げること。
人間は、歩く速度を上げていくにつれ、どこかで必ず走りだす。
それは、おおよそ時速8キロを超えると走ったほうがエネルギー消費量は少なくなるからだ。
その直前となる時速7キロは、エネルギー消費量がランニングに近づきつつも、自然に走り出さないギリギリの速度である。
というわけで、「時速7キロのファストウォーキング」を目標にするとよい。
時速7キロのウォーキングは、運動効果が高いため、歩く時間をどんどん長くする場合もあるかもしれないが、最長でも45分を目安にするとよい。
無理なく楽しく、が長続きのコツである。
ウォーキングシューズは「ランニングシューズの廉価版」というイメージを持たれることがあるが、二つの設計は異なるものなので、ウォーキングをするなら専用のウォーキングシューズを履くのが望ましい。
運動を目的とする場合、どんな場合でも20分、40分と続けることで脂肪燃焼の効果が上がる。
そのため、「歩きやすいので楽にウォーキングできるけど、家に帰ると疲れがあり運動した実感がある」というウォーキングシューズが理想的なのだ。
アーチに注目すると、「足の一生」は3つの時期に分かれる。
10歳ごろまでのアーチが完成してくる時期、
20~40歳のしっかりしたアーチを維持する時期、
50歳以降のアーチが崩れる時期である。
足が成長中の子供に履かせる靴について、本書のアドバイスを紹介しよう。
生まれたばかりの赤ちゃんにはアーチがなく、7歳ごろまでにアーチの基本形が完成する。
3~7歳の時期に、かかとから着地し前足部へ体重を移動し、つま先から抜けていくという、大人と同じ歩き方を習得していく。
アーチの形成のためには、外で駆けまわったりする運動が大切である。
幼少期は足が急激に大きくなっていくが、大きめの靴を履かせておくと、靴の中で足が動いてさまざまなトラブルが出てしまう。
窮屈な靴も子供の足を変形させてしまうため、半年に1回は靴を買い替えたほうがよい。
靴全体のホールド感も、靴を選ぶうえで重要な要素となる。身長が大きく伸びる小学校高学年くらいの時期、足長も急激に伸びるため、人生の中でもっとも細長く甲が低い足になる。
そのため、足が動かないように、微調整できるひも靴がベストであるといえるだろう。
さらに面ファスナーを併用すると、足の形にギュッと固定できるので、使い勝手が良い。
足の形は加齢だけでなく、スポーツでも変形する。
若くて元気なスポーツ選手も、短期間に高い負担がかかってしまうため、足の形が大きく変化することがあるのだ。
野球選手の場合、横アーチが潰れている選手が多く、薄くて扁平ぎみの薄い足が多い。
直線的に走ることが多い陸上選手はスマートな足の人が多いが、サッカーやラグビーのように横動作の多いスポーツでは足幅が広がっていく。
サッカー選手にはO脚が多いことも分かっている。
バスケットボールの選手もサッカー選手と似た足の形となるが、バレーボールは走り回るような動きが少ないせいか、スマートな足をもつ選手が多い。
どちらもジャンプを多用するスポーツだが、バスケットボールでは足首を保護するためにハイカットが好まれる一方で、バレーボールではローカットやミドルカットが主流だ。
このように各スポーツではアスリートの足の形に特徴がみられるため、競技特性に応じて靴の基本設計をすべて変えている。
足の病気は、「足病(そくびょう)」と呼ばれ、外反母趾などの足部変形障害も、典型的な足病の一つだ。
日本フットケア学会によると、足病を発症する60歳以上の高齢者は700万人もいて、そのうち足の切断に至る人は年間1万人もいる。
足の切断に至る要因となっているのが、足の裏にできるタコやウオノメだ。
足の皮膚に圧迫や摩擦が繰り返されると皮膚が硬く厚くなり、タコやウオノメができてしまう。
外反母趾や偏平足の人は、圧力が足全体へ均等にかからず、一部だけに集中するため、タコやウオノメができやすい。
このため、外反母趾や偏平足の人は、特定の部位への圧力を軽減できるような靴を履き、足の裏に均等に圧力がかかるようにする必要がある。
足の形はさまざまで、加齢やその他の要因によって変化する。
靴を軽視していると、深刻な足病に悩まされることになりかねない。
自分に合う靴を選び、100歳まで歩ける体づくりを身につけていただきたい。
「究極の歩き方」
アシックス・スポーツ工学研究所
講談社
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