実践版 孫子【bookノートA】
必勝のためには、まず勝てる相手を見つけ、戦いを挑むことである。
ほとんど全ての戦いは、事前の段階で勝敗が決まる。
「不敗」=負けないことを最重要と考えて、100%勝てるときだけ戦い、そうでないときは逃げることに専念する。
不利な状況時のがむしゃらな勇気は敵の餌食になるだけ。
現代でも、賭け事で不利な状況なのに大金をつぎ込んだり、
自転車操業で借金を重ねたり、
やめる決意、
つまりは戦いをやめる勇気が持てずに負けるのである。
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「優れた定石 (勝つ方法) を持つ」ということも大事。
頭脳が優れた人でも定石を知らなければ、
定石を知る凡人に負けるのである。
ありのままが好きな人は学ぶことをしないが、
それは負ける生き方なのだ。
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受験勉強、大学生活、就職活動、恋愛、結婚、子育て。
もし、何か新しいことを始めるなら、
それをあなたの敵と一度捉えれば、
目指していることを成就することが敵に勝つことだ。
そのためには、敵の情報をすべて集めなくてはならない。
敵も自分も知れば敗れることはない。
自分を知って敵を知らなければ勝負は五分五分。
敵も自分も知らなければ必ず敗れるのである。
自分が新たに取り組むことのすべての情報を集めているだろうか。
自分を知ることは難しいかもしれないが、敵を知ることは難しくない。
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情報の中でも、特に失敗談を集めることが重要である。
大きな勝利は運命で決まることが多く、完全に操ることはできないが、
すでに他人がした失敗は避けることができるからだ。
成功からよりも失敗から学ぶことが多いのである。
『孫子』は多くの古代の戦いを研究して生まれており、特に「負け」についての分析が鋭い。
「○○してはいけない」という記述がいくつも登場し、それらは実際に過去に失敗したり全滅したりした軍隊からの教訓を示している。
現代でも、同じ業界や仕事での失敗の情報は貴重であり、
過去の教訓に学ぶことで、孫子が説く「不敗」に一歩近づける。
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パレートの「80:20の法則」によると、
売上の80%は20%の商品、20%の顧客で構成されているという。
つまり、全体の中で優れているのは常に2割。
何も考えずにいれば負け組である8割に入ることになる。
勝ち組と負け組、その境界線を見抜き、
勝っている人、成功している人はどこにいて、何をして勝ったのかを知ることだ。
この境界線が見えなければ永遠に勝ち組に入れない。
勝ち組に入ったら、その中の上位2割を見い出す。これを繰り返していくことでトップへと登っていくことができる。
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負け組にいる人は不満が少ない。
なぜなら、欲しいものを手に入れようとしないからで、現状に満足するほうが簡単だからだ。
一方、勝ち組のほうは欲しいものに向かっているため、常に不満を抱えている。
「急がば回れ」という言葉のように、逆のことをすることで欲しいものを手に入れるという考え方がある。
例えば、達成感を得るために未達成のイライラに耐え、金持ちになるために貯蓄の苦しさを味わう。
しかし、負け組は安心感が欲しいとき、最初から安心を求める。
何かを入手するには不安はつきものだ。
負け組の思考のように、
挑戦を避けている限り、
いつまでも不安なままとなってしまう。
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人は大切なものを失うことを恐れ、それが行動に影響を与える。
現状で満足していると、何かを新たに手に入れるという動機が薄れるからだ。
新年に一年の目標をリストにする人がいるが、たいていは達成できない。
それは、「新しいことに手を伸ばす」という意識だからだ。
「○○したい」というポジティブリストだけでは人生は変わらず、逆に「失う恐怖」を考えると達成できる。
目標を立てる場合でも、目標が実現した状態を思い浮かべて、
それを失わない方法を考えると自分から能動的に動けるはずだ。
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「不敗」とは、保身して一生何もしないでいることではない。
本来、手に入るものを失っているなら、それも負けである。
勝利は条件が整っていてこそ見通しが立つ。
その条件がまったくなければまるで問題にならない。
戦うなら先を見通して、勝てる条件を一つでも多く積み上げていくべきだ。
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勝利の目算を立てるためには、
①相手と自分の戦力を考え、戦うべきかどうかの判断ができる
②兵力に応じた戦いができる
③君主国民が心を一つにあわせている
④万全の態勢で敵の不備につけこむ
⑤将軍が有能で、君主が将軍の指揮権に干渉しない
の5つの条件が必要だ。
戦う前にこれらの条件を自分が満たしているかを検討すべきなのである。
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戦いでは
「正しい勝負を選んでいる」
「常に準備をしている」
「始め方に工夫をする」
「味方をしてくれる人が多い」
「優れた軍師がいる」
といったほうが勝つ。
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世の中は当たり前のことしか起こらない。
孫子の「不敗」は、幸運に頼らない態勢を創りあげることだ。
勝負はずっと前から始まっており、
負ける側がそうしたことの必要性に気づくころには、
勝つ側は準備が終わっている。
勝敗は明らかである。
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経営思想家のピーター・ドラッカーは、世界中の国民が貧しさの中で困窮したことがファシズムを台頭させたと分析している。
平常時であれば信じないような荒唐無稽な話も、
人々は非常に貧しさに苦しんでいたために信じてしまった。
「貧すれば鈍する」という言葉のように、
生活に困窮すると才能を発揮できず品性も落ちる。
一発逆転を狙おうとする時点で正常な判断力は失われている。
勝利を積み重ねてきた側は戦いを前にしても冷静だ。
余裕があるほど正しい判断ができるのである。
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「努力の汗が見える時点で失格」
それには理由が2つある。
理由① 最初から問題が起きないように備えるべき。
理由② 始める前に大差をつけておく。
汗をかいて努力するのは、
相手と自分の実力が伯仲しているからであり、
圧倒的な力の差で臨めば、あっさりと汗もかかずに勝つ。
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必勝のためには、勝ちやすい相手にまず勝つことが非常に優れた戦術だ。
試験なら得意な科目を攻略し、
ビジネスであれば自分より小さな店や会社を圧倒する。
打つ手すべてが勝利に結びつき、失敗しない。
戦う前から負けている相手を敵として戦うからだ。
上位と競い合いながら、下位企業からシェアを奪って台頭することはビジネスの定石だ。
戦わずに相手を味方に引き入れることも、
勝つことが当たり前となる方法だ。
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孫子に貫かれた重要な法則の一つに
「依存する者は、敗者となる」がある。
依存とは、「すべてが都合よくいった場合」を前提にしている。
例えば、「敵の来襲がないことに期待をかける」のは、こちらの願望にすぎない。
幸運に期待していることは「依存」であり、
予想外のことが起きれば失敗してしまうのだ。
戦国時代に生き残るための書である『孫子』では、
「依存するもろさ」を嫌い、徹底的にそれを避けている。
孫子は想定外のことが起きても、目的が達成できるように手配をする。
だから、「不敗」なのである。
依存とはもろさであり、
それをなくせば盤石さに変えることができる。
「前日までにリスクを限界まで解消しておく」
「目標を複数持ち、並行して追いかける」
「早く着手して、リスクを事前にあぶり出す」
「一つではなく、いくつもの強みを育てておく」
これらを実行するのに特別な才能は必要なく、
依存に気づいて事前に排除すれば孫子の不敗に近づくことができる。
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孫子は危機を前にした際に選択肢の広さにこだわった。
そのときの状況に合わせて応じられるということは選択肢が多いことに他ならない。
戦争の仕方は、
「兵力が10倍なら包囲、5倍なら攻撃、2倍なら分断、互角なら勇戦、劣勢なら退却、勝算がなければ戦わない」
に基づくと孫子は言い、
戦闘にもかかわらず「退却」や「戦わない」ことさえあることからもわかるように、多くの選択肢を用意している。
現代でも重要な課題ほど意識して選択肢を増やすことが必要である。
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選択肢を多く持つことは人を健康にする作用がある。
ロンドン大学の調査によれば、上級公務員と最も低い階層の公務員の心臓病による死亡の割合は、後者の方が3倍高かったという。
両者の違いは、仕事における「自己決定権」が多いか少ないかである。
低い階層で働く人は、選択肢がないと思い込むことで追い詰められてしまうが、企業のトップである社長は、すべてを自分で決めることができるため、激務にもかかわらず長生きしやすいのであろう。
選択肢を多く見つけることは健全さにつながるのだ。
「実践版 孫子の兵法」 鈴木博毅 著
プレジデント社
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