うみを知るまで

いつからか、夜が怖くなった。
思い当たる理由は、いくつかある。
小学生の時に、ある恩人がいた。
ある日、その人と喋り、また来週と、手を振って別れた。
そして数日後に、亡くなった報せを受けた。
まだ人が死ぬとか、そういうことを全くわかっていなかった。
告別式に出て、亡くなってから初めて対面した。
その時、人生で初めて人の死に顔を見た。
正直に言うと、その頃の僕は怖くなってしまった。
ついこの前まで、元気に体を動かし、笑って喋り、僕に手を振ってくれていた人が、今この箱の中にいる。
触れてはいないが、温もりはどこか遠くへいってしまって、もう戻ってこない。
いるのに、いない。
それがはっきりとわかる表情であった。
それから、人生って何だろうと、疑問に思った。
突然終わってしまうなら、いつか必ず終わりが来るのなら、どうして僕は生まれてきたのだろう。
なにを読んでも、誰に聞いても、答えなんか見つかるはずはない。
死ぬって何だろう。
死んだ人は、眼を瞑っていた。
だったら、死んだら、真っ暗な世界に行くのだろうか。
眠っているみたいって、お別れに来る人は口々に言うけど、それは眠ることが死ぬことに近いのだろうか。
そうして僕は、暗闇が怖くなった。
真っ暗な夜は月明かりを探した。
太陽が出るまで、心臓は大きく跳ね続けた。

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