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【ネタバレあり】「開戦」——『さよならデパート』ができるまで(6)

この回からは、本の章ごとに順を追って制作過程を振り返っていく。
なので告知や取材などでは隠していた、物語の重要部分にも触れざるを得ない。

すでに本書を読んでくださった方へ追加のお楽しみになれば幸いだけど、読むのはこれからだという方もいらっしゃるかもしれない。薄目なんかでネタバレ部分を飛ばしながら、うまくやっていただけるのがよいと思う。
もちろん、本編を読み切ってからこちらへ戻ってきてもらえたらなお嬉しい。忘れられないように私も頑張ります。

さて、私は『キャバレーに花束を』『この街は彼が燃やした』を書いた頃から一貫したテーマを持っている。

「郷土史をエンターテイメントに」
これだ。

「郷土史」という響きに、胸が躍る人はいるだろうか。少ないのではと思う。私もそうだった。
だけど自分の住む土地でもよその土地でも、由来を知ると視界が全く違ってくる。見慣れた地図も、見慣れた建物も、過去が重なることでより立体的になるのだ。
人と人だって、相手の過去を知って仲を深めることがよくある。それと同じじゃないだろうか。

その現象を、私はよく「自分にアプリをインストールする」と表現する。
GoogleマップやTwitterで生活が変わるように、知識が景色の見え方を豊かにしてくれるわけだ。

だけど、はっきり言って郷土史本は無愛想だ。ちょっと度が過ぎる。
「○○の成立とその経緯」
とか、題名からしてしかめ面だし、表紙のデザインもだいたいそっけない。「読めるものなら読んでみろ」という雰囲気すら漂っている。

偉大な先輩に失礼なことを書いてしまった。
フォローじゃなく本音として続けるが、そんないかめしい郷土史も、こちらが積極的に開けば、内容はとても面白い。
「積極的に」とは、私のように「何かを調べたい」と動機を持つという意味だ。古い文献も多いので読み取るのに難儀することもあるが、何だかそれも楽しくなってくる。アクションゲームなんかで、クリアできなかったステージが攻略できた時の快感に似ている。

結果が「アプリのインストール」だ。
郷土史は、触れるごとに身近な景色を塗り替え、散歩さえ愉快にしてくれる。

だからこそ残念でならない。
なんでそんな風に腕を組み、口をへの字に結んで書棚に鎮座しているのかと。話し掛けてみたらすごく雄弁なのに。
私も含め、街の歴史を知らない人間が増えているのは、そこにも原因があるのではないだろうか。

だから、郷土史をエンターテイメントにしなければならないのだ。
これは「創作」を意味してはいない。あくまで資料や事実を扱い、その中に物語を発見するということだ。

「続きが気になる構成に」
単純に表せば、これに尽きる。
どんなに貴重な情報でも、読んでもらわなければ存在しないのと同じだ。

だから本書には、サスペンスとミステリーの要素をふんだんに盛り込んだ。

【ここからネタバレ】
第1章「開戦」は、独白から始まる。
話しているのは、解雇された大沼デパートの元従業員だ。
もちろん、私がお会いして取材した内容をモノローグ形式に編集したものだ。

私がよほどやらかしてなければ、読まれた方は(特に県外の、大沼の事情をあまり知らない方でも)ここで大沼の破綻が突然だったと察してくれるはずだ。そうすれば「それがなぜ起こったのか」と謎を追う姿勢になるんじゃないか。と、期待した。

独白部分が終わると、すぐに女の子が死ぬ。
デパートの本だと思って開いたら、いきなり殺人事件が起こる。
で、1ページ目が終わる。

山形では有名な「駒姫」の悲劇だ。こんな「引き」を仕掛けるために使って、駒姫には本当に申し訳ないと思っている。
初稿を読んだ妻から「あまりに描写が残酷だ」との感想が返ってきて、「確かに、過激な表現に頼りすぎた」と反省し修正を加えた。退屈な文章になっていないかという恐怖で失敗するところだったのだ。
事実を扱うことの難しさを改めて認識させられた瞬間だった。
駒姫のお墓参りにも行きました。

ともかく、「難しい本なのかな」というイメージを最初に吹っ飛ばして、何がなんでも2ページ目まで付き合ってもらおうと構成した。
そこからは、山形を繁栄させた最上義光や近江商人の活躍へと入ってゆく。

【ネタバレ終わり】
もちろん、書き上げるまでにかなりの時間を資料収集と調査に費やした。
ちょうど山形でもコロナ感染者が増え、図書館が「1時間まで」など利用制限をしていたこともあり、大変に難儀した。

一度「朝と夜に分けて行く」というスーパーの特売たまごを狙うおじさんみたいな動きすら試した。怒られるかもしれないと不安になってすぐにやめたけども。

読まれた方は皆さん配慮をお持ちなので、私に面と向かって批判して来られる人は居ない。だからありがたいことに好意的な感想が多く集まっているが、「郷土史をエンターテイメントに」という試みは、そこそこうまくいっているのでは、と考えている。
いまだに、批判にさらされる妄想からは逃れられていないけども。

次回は第2章「全滅」だ。
これがまた厄介な相手だった。

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