
傑作絵画:カラヴァッジオ『聖マタイの召命』が傑作である理由と知られざる真実
『聖マタイの召命』作品概要
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオの『聖マタイの召命』(1599-1600年)は、ローマのサン・ルイージ・デイ・フランチェージ教会の聖マタイ礼拝堂に所蔵されている、彼の代表作の一つです。この作品は、新約聖書の「マタイによる福音書」第9章に基づいて描かれています。イエス・キリストが税金徴収人であったマタイ(この場面では徴税所の机に座っているレビ)を見つけ、彼に従うように呼びかける瞬間が描かれています。
この作品で注目すべきなのは、カラヴァッジオの独特な光と影のコントラスト(キアロスクーロ)と、登場人物のリアリスティックな表現です。絵の右端にはキリストが描かれ、指でマタイを指し示している一方、マタイは驚いた表情で自分を指さしています。マタイの周囲には他の税金徴収人たちが座っており、皆がそれぞれ異なる反応を示しています。この劇的な瞬間をカラヴァッジオは巧みに捉え、見る者に強い印象を与える構図を作り上げました。

『聖マタイの召命』が傑作である理由
1. 劇的な光と影の対比(キアロスクーロ)
カラヴァッジオは、光と影を巧みに使い、画面に劇的な雰囲気を作り出しました。特に、画面右側から差し込む光は、イエスとマタイを浮かび上がらせ、彼らの間に神聖な力が働いていることを象徴しています。この光は単なる照明効果ではなく、神の意志や呼びかけといった宗教的な意味合いをも示しており、カラヴァッジオの独創的な技法がいかに物語を深めているかがうかがえます。
2. 人間味あふれるリアリズム
カラヴァッジオは、登場人物を理想化することなく、現実の人々のように生々しく描写しました。特に、マタイやその周囲の税金徴収人たちの表情や仕草には、驚き、戸惑い、興味といった多様な感情が表れています。カラヴァッジオのこのリアリズムによって、鑑賞者は物語に共感しやすくなり、あたかもその場にいるかのような没入感を得られるのです。この人間味あふれる表現は、当時の宗教画の中では斬新であり、カラヴァッジオが後世に与えた影響も大きなものとなりました。
3. 構図の工夫
カラヴァッジオは、視線や指先の向き、光の方向などを使い、視覚的な動きを生み出しています。例えば、キリストの指がマタイに向けられていることで、視線が自然と左側のマタイに引き寄せられます。また、マタイの驚いた表情や、周囲の人々の反応も絵全体に動きを与えています。これにより、静止画でありながらも動的なシーンを演出し、物語性を強調しています。

知られざる真実や衝撃の事実
『聖マタイの召命』にはいくつかの興味深い逸話や、カラヴァッジオの革新性が表れています。カラヴァッジオがこの作品を依頼された当時、彼はすでにローマで評判を得ていましたが、その過激な描写スタイルが原因で批判を浴びることも多かったのです。この絵が礼拝堂に展示されたときも、当初はそのリアリスティックな描写が「神聖な場にはふさわしくない」と一部の批評家に非難されました。
また、カラヴァッジオが実際の労働者や一般市民をモデルにして、彼らの素朴で力強い姿をそのまま描き込んだことも、当時の宗教画の常識を打ち破るものでした。従来の宗教画では、聖人や聖職者は理想化された姿で描かれるのが普通でしたが、カラヴァッジオはその慣習を破り、現実の人間の姿をそのまま反映させることで、信仰と人間味を強く結びつけました。このリアルな描写こそが、後の写実主義やバロック芸術に影響を与えることとなったのです。

鑑賞の仕方
『聖マタイの召命』を鑑賞する際には、まずカラヴァッジオの独特な光の使い方に注目しましょう。画面右側から差し込む斜めの光は、絵全体に緊張感をもたらし、神聖な意味合いを暗示しています。この光がイエスの指先に触れ、そこからマタイへと視線が誘導される構図は、神の呼びかけとそれに応える人間の瞬間を劇的に演出しています。
次に、登場人物たちの表情やポーズにも注目してください。特にマタイの驚きと戸惑いが入り混じった表情や、周囲の人々の反応から、それぞれがイエスの呼びかけにどのように感じているのかが伝わってきます。この多様な感情表現を通じて、鑑賞者も物語の一部となり、マタイと同じように自分が神の呼びかけにどのように応えるべきかを考えさせられるでしょう。
さらに、この作品が当時の宗教画の常識を打ち破るものであったことも念頭に置くと、カラヴァッジオの革新性や勇気がより深く理解できます。現代の鑑賞者にとっても、宗教画がただの理想化された聖人の姿ではなく、現実の人間の中に神聖な瞬間を見出すという視点が、カラヴァッジオの作品を新たな視点で楽しむ鍵となります。

まとめ
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオの『聖マタイの召命』は、神の呼びかけと人間の応答という宗教的テーマを、斬新な技法とリアリズムで表現した傑作です。カラヴァッジオの独自の光と影の使い方や、現実感あふれる人物描写によって、鑑賞者はこの場面の緊張感と神聖さを強く感じることができます。
さらに、この作品が当時の宗教画の常識を超えて、一般市民をモデルにしたリアリズムを導入したことで、カラヴァッジオは後の芸術に多大な影響を与えました。彼の作品は、単なる宗教画としてだけでなく、観る者に人間の本質や神との関係を問いかけるメッセージを持っています。このように、『聖マタイの召命』は、その革新性と芸術的な完成度から、今もなお多くの人々を魅了し続ける名作です。