変わりたいと願う。
第一話
「菊谷さんって本当に仕事出来るよね」
知ってる。
「千紗ちゃんは真面目で優しいよ!」
知ってる。
こんな言葉を浴びるのは慣れてしまって、今日も私は用意している脳内テンプレを読み上げる。
「ありがとう」
今日も変わり映えの無い日々だった。
「千紗の言ってることって上辺だけで、中身も無いしつまらないよね」
母親は悪気なく、率直に伝える。
「そんなの知ってる。自覚もしてるもん!」
千紗はどうしてもそれに反抗できなかった。
学級委員や児童会役員を小学3年生から中学3年生の今まで毎年やっていたことが裏目に出た。母親が言っていた通り、千紗の言葉や意見には面白みが全く無く、一言で言えばつまらないのだ。
理由はわかりきっている。
学校の教員が好むような言葉をつらつらと並べ、本当に言いたかった言葉は押し潰すことが習慣化されてしまったからだ。いくら直したくても長年続けてしまって、脳が一瞬にしてそのように動いてしまう。そのおかげなのか、面接はいつも失敗したと感じるのに結果は最高評価が多い。
なんという皮肉だろうか。
「本当はもっと…」
千紗はモゴモゴト口を動かして言った。
「なんか言った?」
残念ながら母親には届かなかったらしい。
「なんでもない。忘れた」
終いには何を考えてたのかさえも忘れる。
気分は最悪だ。
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