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V6森田剛のうちわを彼女と一緒につくった話

「こんなに小さくて見えんのやないと?」
「いや、だめなんやって。このサイズより小さくせんと。」

ぼくは付き合って3ヶ月の彼女の部屋で、うちわづくりを手伝っていた。

公式で販売されている大きな森田剛のうちわを型紙に、それより一回り小さなサイズのうちわ型のボードをつくる。初めて知ったが、ライブには公式うちわより大きなサイズのものは禁止なのだそうだ。

彼女はレポート作成のときよりも真剣な眼差し。2人で黙々とサッカーボールの形をした折り紙をカットしていく。

「なんで森田剛とサッカー?マイクとかやないん?」
「ごーくんがサッカーが好きやけんに決まっとーやん。知らんと?」

知らなかった。大好きなサッカーをやめて、ごーくんはジャニーズに入ったそうだ。イラストのごーくんが楽しそうにサッカーをしている様子のうちわができた。素晴らしい出来である。

「いい出来なんやない?これはごーくんも喜ぶ」
「いや、最後にこれ付けんと」

なんかキラキラしたクリスマスツリーの装飾みたいなのが出てきた。

「これ付けんと、小さくした意味がないやろ」

どうやら、この装飾をつけるためにうちわを既定のサイズより一回り小さくしているようだった。

「こんな忠実にそのうちわの決まり守らなくていいんやないの?わからんのやないん」

ぼくがそういうと、彼女の眼が険しくなった。


「入場するときに、そもそも『うちわチェック』があるけん。そして、それを掻い潜って、大きなうちわを出したらどうなると思う?」

「え、、、どうなるん?」

彼女は一呼吸空けて答えた。


「後ろの人が見えんやん。」



ぼくは、なんだかびっくりしてしまった。

その後は自分の煩悩を洗い流すように、彼女のうちわ作りを手伝った。お互い、レポートもこれくらい真剣にやればいいのに。


ぼくは彼女が行くV6のライブに行く気はなかったが、興味ないなりに彼女と同じ体験を共有したかったので、当日の会場運営アルバイトに入ることにしていた。

ぼくはチケットもぎりの係になった。すると確かにあった。うちわチェックの仕事が。

公式うちわの形が模られた型紙のようなものにうちわをあてがい、大きさをチェックしていく。

一番多いNGが公式うちわギリギリのサイズの外周に装飾を施したせいで、装飾分オーバーするパターンである。

彼女が昨晩、わざわざ装飾分一回り小さいうちわを作っていた重要性がわかる。

「お客様、恐れ入ります。こちらのうちわ、規定サイズをオーバーしていますので、持ち込み不可となっております。こちらで処分することもできますが、いかがいたしますか?」

すると、うちわを手にした女性は自分でつけた外周の装飾を手慣れた手つきでビリビリ剥がし始めた。

「これでいいですか?」

そのうちわにはPOP体で「健クン 手を振って」と書かれていた。とてもじゃないが、その女性の風貌からして「クン」とか「手を振って」とか言いそうな感じじゃない。


「この人も夕べ、このうちわを手作りしたのかな」


ジャニーズ友達と一緒に隣の列から入場している彼女を見つけた。うちわチェックも余裕で通過。そして、彼女はぼくの姿を見つけて笑顔で手を振った。

その時、これまで見たことがないような、子どものような屈託のない笑顔に驚いた。自分の知っている笑顔ではない。彼女のテンションをここまで上げてくれる、V6は凄い。


開演後、ぼくは花道のそばでバリケードを押さえる係だった。

普段はマナーよくライブを見ているファンも、いざ花道にメンバーがくれば、そうはいかない。みんな一気に押し寄せた。しゃがんでバリケードをぐっと押さえる。

ライブ終盤。当時発売されてたアルバム「Voyager」のラストトラックが始まると、ファンの様子がおとなしくなった。

いちばん近くにいた女性の顔を見ると、静かに涙を流しているではないか。

ふとうちわを見ると「V6のおかげで頑張れてるよ」と書かれていた。そういうタイプのうちわもあるのか。

他の女性を見ると、笑っていてもじつは涙が流れていたり、涙ぐんだりしている人ばかりだった。彼女も今、涙ぐんでいるのだろうか。などと考えた。

その日は3回くらい「HONEY BEAT」をやってくれた。いい歌だった。

そういえば、最近息子が「WAになっておどろう」をよく歌っている。保育園で踊る定番ソングだそうだ。「うじゃけた」の意味は最近知った。

V6のVoyageはもうすぐ終わるそうだが、それぞれの人生はまだまだ続く。ぼくの人生もまだまだ続く。ぼくはけっこう「Voyager」が好き。

そうさ、Life as a Voyager その先へ
いつか描いた次のステージへ
新しいドアをさあ、開けるんだ

たまにV6を聞いたときに思い出す、ボンドの香り。完全に「名前を付けて保存」されてしまっている。

彼女もまた、今どこかでV6を見つめているのだろうか。


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