さよなら鬼教官
息子の頭の中には、息子を否定するもう一人の息子がいた。
そう、いた。過去形になったそうだ。
話を聞いて、そりゃしんどいだろうと思ってはいたが、気にするなと言っても仕方ないし、頭の中に入って退治できるものでもなし。どうしたらよいものかと思っていたが、最近では、ほとんど声が聞こえないという。
でも、どうやって?
息子が通学で利用する駅のすぐ近くには、大きな図書館がある。
バスの時間まで、時々利用するらしいのだけど、その時に読んだ本に自分と似たような境遇の話が書かれていたらしい。
それを読んで思ったのは、
こいつ、特別な奴じゃないじゃん
自分だけだと思っていた。自分を責める声が聞こえて、嫌なのに、やめてほしいのに、消えてほしいのに、ことある事に出てくるこいつは、自分の中だけではなかった。
途端にそれがとてもちっぽけなものに感じた。
とのこと。
たまたま手に取った本で救われることもあるんだな。
きっかけなんて、どこにあるのかわからない。何かしらアドバイスしたところで、受け入れるも受け入れないもその人次第だ。
水場に馬を連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない。ってことか。
とにかく、よかった。
頭の中の鬼教官がいなくなった息子は、以前より少し生きやすそうだ。