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7.エゴとの戦い

田舎でのわたし。
東京から田舎へ戻り、実家で暮らし始めたわたし。
医療系の仕事に就き、
毎日変わらない日々が続く。


地方の大学を卒業し地元へ戻り、病院に就職した。
その後、「上京したい、芝居をやりたい」
と、両親に伝えた時、
母親は自分の首に包丁を突き付けた。
死んでやる!
わたしは初めて母親を平手打ちし、包丁を取り上げた。全身を虚しさが覆った。
わたしはその時、人生で一番悲しい顔をしていたと思う。涙も出ないほどの悲しみが込み上げた。
 
『わたしの今までは
何だったのだろう
わたしはわたしなのか?』

猛勉強し、親の望む国立大学へ入った。
資格も取り、仕事も手に入れた。
『親の引いたレールの上を』
自分の人生を嘆いたこともあったが、そんなのはただの言い訳だとわかった。
結局、やることができなかったと親を責めるのは筋違いだ。
これは自分の人生だ。歩まなければ、後悔するのは自分だ。

その後、わたしは23歳で家出をした。
初めて親に反抗した。本当の意味で反抗した。
「いつでも帰ってきていいぞ。」
父親はこっそり背中を押してくれた。
わたしは上京し、ひとり渋谷の街へ降り立った。
夜明けのマクドナルドに群がる女子高生。黒光りしたカラスが印象的だったのを覚えている。


そして、怒涛の2年間を過ごし、
結局田舎へ戻ってきたわたし。

即座に母親や親戚の叔母たちは、お見合い話を持ち込んできた。

そう。
もう結婚しても良かったのかもしれない。
田舎で結婚した方が良かったのかもしれない。
わたしは誰かに愛されたかった。
誰かを、愛したかった。
『愛』を知りたかった。
だが、お見合いを重ねても、わたしの心は少しも埋まることなく、更に虚しさを増していった。

時々、仲間の芝居を観にバスで4時間かけて東京へ行った。芝居の世界に戻りたいという気持ちは完全に損失していた。
渋谷の飲み屋で知り合った知らないオトコとキスをした。
「ここで、僕らセックスしても、僕に愛情はないよ。体だけだよ?それでいいの?ホテルに行く?このまま帰る?」
優しいオトコが諭すようにわたしに言ってくれた。
わたしは首を振った。
そのオトコは、わたしが求めているものを察していた。
わたしは、そんなものが欲しいのではない。
二度と会わないオトコに手を振り、田舎へ帰るバスに乗り込んだ。
わたしたちは、人生交差点ですれ違ったのだと思った。

わたしが求めるものはどこにあるのだろう。
『愛し愛されたい』
愛されたい。そんなエゴとの戦いは永遠に続くのかと、自分を嘲笑った。
誰かを真の意味で、愛せさえすればいいのに。
未熟なわたしは、湧き上がるエゴを打ち消すことができなかったのだ。

そして、その寂しさを埋めるため、飲み屋で知り合った数人のオトコと付き合った。
付き合ったオトコとはセックスをした。
オトコが自分の中で果てても、自分は何も感じなかった。オトコがわたしのカラダで精液を出したことへの安堵感の後は、ただ虚しく、オトコが眠った後、声を殺して泣いた。
『前世、娼婦だったから』
わたしの魂が、声を殺して泣いた。
その関係が、長続きするはずがなかった。

2ヶ月に1、2回。
サトルからの電話が来る。
初めて逢ってから、サトルからの連絡はメールではなく電話になっていた。
サトルが電話をしてくる時は、必ず何かがあった時だ。その心の隙間を見つけて、そっと埋めることに心を込める。
ここがサトルにとって居心地の良い空間でありたいと、わたしは願っていた。

「サイコさんの声、安心する」

「そんなこと言うと、彼女に誤解されるよ。」

「はは、大丈夫大丈夫」

サトルも恋愛軸とは別の場所にわたしがいる。
わたしは男女の友情は決して成り立たないと確信していたが、こういう関係もあるのだと少し嬉しかった。

姉弟のような。

親子のような。

「今度、芝居観に東京に行くよ。」

「おっ。じゃあウチに泊まって。狭いアパートだけど。飲んで語ろう」

「うん。」

わたしはサトルとのパラレルワールドに安らいだ。
サトルに、「オトコ」を感じてはいなかった。
そう。あの日までは。

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