4.パラレルワールド
田舎へ戻った26歳のわたしには、
「感謝」
を知る術を学ぶために、
数々の矢が突き刺さってきた。
何かに縋るように、ある人を好きになった。
その人はわたしの親友のことを好きだった。
少し、心を病んだ人だった。
心を病んだ故の、そのオトコの振る舞いに、
どん底に突き落とされた。
心はいつもふわふわ片想い。
地に足がつかない日々が続いた。
聖書を読み、自分の小ささに泣いた。
でも、信仰を持つほど自分は忍耐強くないと思った。
自分の中に生まれる
妬み、嫉みとの戦い。
エゴが自分をあるべき場所に落としていく。
落としどころもわからずに、
落としていく。
落ちて、
堕ちて、
落ちて。
仕事帰り、
大型スーパーの屋上駐車場に車を停め、
暗くなっていく大きな空を眺めた。
輝きを増してくる星々。
空の下の山のライン。
大自然は、わたしがここに存在することを提示した。
「誰か・・・」
愛すべき人を待っているわたしを、
まざまざと映し出した。
数人のオトコと付き合った。
なんとなく、付き合った。
愛されていると感じたことはなかった。
時々、大好きな芝居を観に、バスで4時間かけて東京に行った。
飲み屋で通りすがりの知らないオトコと舌を絡めるキスをした。
頭は至って正常で。冷静な流し目で、息を荒げるオトコを見た。ただ単に無感情で、舌を動かした。
荒々しい日々。
一方で、仕事や実家では、平静を装い。
平和に田舎に馴染んでいく人間で存在するわたし。医療従事者として、患者様に笑顔を振りまく。
『わたしはなんだろう。』
大自然の中で、自分の小ささを思い知っていた。
サトルからのメールは、
わたしを驚かせる間隔でやってくる。
相変わらず思いついたように時々。
1ヶ月以上経って。
時々。
「サイコさん、何してた?」
「ぼーっとしてた。」
時々、芝居を観に東京へ行っていることも告げる。
「なんだよー、声かけてくれればいいじゃん」
「だって日帰りだもん」
「サイコさん、おれさ、秋に一人旅する。十八切符の旅。K町に行こうかな?」
わたしの住む街である。
「田舎過ぎて何もないよ」
「旅は道中が楽しいんだ」
「その通りね」
サトルとのメールは、
様々な恋愛軸とは別に存在していた。
サトルとの空間には、なにか、
揺らがない何かがあった。
『好き』とも違う。
肉親のような、懐かしいような。。。
まるでそこは、
パラレルワールドのようだった。
自然と、わたしの心を癒していた。
サトルと逢う日がくるんだ。
実感の湧かないまま、サトルが現実になるのが怖かった。
『神様は、今度はどのように、わたしをお試しになるのだろう』
聖書を読み過ぎたわたしは、
その時、自分に落とされる運命に少し身構えた。
少し、子宮が熱くなった。
その意味もわからずに、
また違うオトコとキスをした。
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