二人きりの教室でKちゃんに抱きつかれた
中学三年生のときのことだ。何かの用事があったのか、ぼくは放課後、ほかの組の教室をウロウロ巡回していた。そこで、小学生のころ好きだった女の子がいて、二人きりになった。
教室の後ろ側の、写真か何かの掲示物を見ていたら、その子が、後ろから抱きついてきた。彼女はぼくの背中に顔をくっつけて何か言ってたはずなんだけれど、その言葉は忘れてしまった。好きとか、そういう恋愛に関する言葉ではなかったように思う。
その子は小学四年生のときに、東京から転校生してきた。ガキ大将みたいな子に呼ばれて、図書室で遊んだのが最初の接点。なぜか、男子が馬になり、女子を乗せる、という遊びをやることになった。ガキ大将は、ませていたから、そうやって女の子に触りたかったのかもしれない。そのとき、その転校生が、選んだのがぼくだった。それで、好きになってしまった。告白することもなかったし、学校の外で遊ぶこともなかったけど、廊下ですれ違うときにハイタッチしたり、そんなので満足だった。
中学に入ってすぐに、自転車置き場で、なんとなくみんなでたまっていたときに、ほかの小学校から進学してきた、ちょっと、悪ガキっぽいヤツをみて、「きゃー、A君かっこいい、私好き〜」とか、そういう感じのことを言ったのをみて、なんだか急に好きでなくなってしまった。
ぼくはぼくで、新しいクラスメートをさっそく好きになり、その子ではなく、その友達と付き合うことになったりして、Kちゃんのことは気にとめなくなっていた。
教室で二人きりになったころ、Kちゃんは隣の中学の不良と付き合ってるとか、妊娠してて中絶するとかしたとか、嘘かホントかわからない話しか聞かなくなっていた。スケバン、という感じでもないけど、ちょっと不良っぽくなっていたのは確かだ。
ときどきこのときのことを思い出すんだけれど、大人びていても中学生だし、無邪気で、もっと悩みが少なかった小学生のころがなつかしくて、抱きついてきたのかなぁ。