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ガスをPay-as-you-go化と自動販売機システムで販売し、二酸化炭素排出量減少に取り組むアフリカのスタートアップ
こんにちは、Kepple Africa Ventures広報チームです。当社東アフリカ投資担当山脇は、毎月配信されているJETRO「東アフリカニュースダイジェスト」のスタートアップ入門コーナーにおいて、最新スタートアップ事情を紹介しています。本記事では、過去に掲載された記事を抜粋・一部加筆修正し、調理用燃料にフォーカスした業界を先取りするスタートアップを紹介します。
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調理用燃料と聞くと、先進国日本ではしょうもない話に終始しがち。しかし、アフリカにおける調理用燃料は、アフリカの人々自身はおろか、地球全体をも巻き込む大問題を孕んでいるのです。
1.アフリカにおける調理用燃料事情
日本ではキッチンのガスコンロを捻ればすぐさまボウっと火が付きますが、そうは問屋が卸さないのがアフリカ。一般市民の調理用燃料は①焚き木、②木炭、③灯油、が主に使われ、これらはDirty fuelと総称されます。文字通り、煙がモクモクで汚いからです。
(ケニアでの一般的な調理器具)
(街中で売られる木炭)
しかし、Dirty fuelは単純に煙が汚いだけではありません。
健康、環境、そして、農業生産に多大な影響を与えるヤバい燃料なのです。
まず、健康への被害。調理中に発生する一酸化炭素を含む有害ガスによって、毎年ケニアだけで1万6千人以上が命を落としていると言われています。即死には至らなくても肺炎の誘因になったり、火傷を負ったり、表に出てこない影響も甚大です。
また、地球温暖化への影響も見逃せません。燃料から出る二酸化炭素の排出は当然のこと、森林伐採によって二酸化炭素の吸収が削減されます。ケニアでは焚き木、木炭生産の為に毎年10百万平方メートルの森林が消失しています。
更に、これらは食料生産へも影響を及ぼします。農耕地の土壌中の水分は森林由来であり、森林伐採が進めば、水分が失われ、農業生産への大きな打撃となります。(このあたりの社会統計等を詳しく知りたい方はこちらのDalbergのレポートをご覧下さいhttps://www.dalberg.com/system/files/2018-06/Dalberg_Long-form%20report_FINAL_PDF_0.pdf)
これらを解決するにはDirty fuelの使用を削減するしかありません。しかし、現状でケニアで遠隔地に住む世帯の9割以上はDirty fuelを使用しており、ナイロビを含む都市部でさえ7割以上がDirty fuelに頼っています。Dirty fuelを代替する燃料の筆頭株には、我々も家庭で使用しているLPG(液化石油ガス)やバイオエタノールがあります。
熱量単価としては、これらLPGやバイオエタノールはDirty fuelと同額かそれよりも安価でありながら、一般市民に殆ど浸透していません。というのも、消費者にとって導入コストが高く、小口での購入が出来ないからです。
とりわけ、LPGは可燃性が非常に高いため、LPG専用のガスシリンダーに入れなければ運搬、設置が出来ません。シリンダー自体の値段がある程度することに加え、1本ごとの購入となる為、小口で購入が出来ません(13kgサイズのシリンダー1本分のガスで、約2,000円程)。
(街中で売られるLPG、シリンダーがデカい)
ケニアを初めとして、アフリカの一般家庭は宵越しの金を持たない傾向が強く、バケツ一杯あたり100円程度で買えてしまう木炭等に流れてしまうのです。バイオエタノールは可燃性は低いものの、液体であるが故、木炭のように路上で販売するこは出来ません。LPGでも、バイオエタノールでも、小口で販売出来る仕組みを作って初めて一般家庭に届くようになるわけです。
でも、そんな仕組み出来るの?はい、それに挑んでいる素敵なスタートアップがあります。
2.LPGのIoT化:PayGo Energy
PayGo Energyは2014年創業、LPGの販売をPay-as-you-go化した会社です。ガス残量を正確に把握、ガスの放出もコントロールしながら、モバイルマネーと連携することで、払った分だけガスを使うという仕組みが実現できます。
(PayGo Energyのプロダクト)
Pay-as-you-goは使った分だけ支払うという形式です。M-Kopaを初めとした、送電網を必要としないOff-grid solarのスタートアップ各社が数多く採用するモデルであり、あまり難しいようには聞こえません。しかし、言うは易しで、可燃性が非常に高いLPGに安全性を担保しながらPay-as-you-goを実装するのは実際には相当至難の業です。プロトタイプ程度で販売することは出来ても、大規模生産でも安全性を担保するのは非常に困難です。
PayGo Energyはこの技術的困難を逆に自社の優位性とすべく、創業から3年以上をハードウェアの設計・開発に費やし、高い安全性を保ちながらPay-as-you-goを実現出来るスマートメーターを開発しました。このメーターの要素技術は事細かに分解され、世界70カ国以上で特許申請済みで、模倣品を作ろうとしても特許違反を免れないという状況を作り出しています。
メーター開発後は、仏エネルギー大手のTotalと300世帯における実証実験を実施。安全性の確認と共に、消費者の90%以上が継続利用をするという結果を得ました(Dirty fuelからの脱出!)。
これを踏まえ、ケニア国内での大規模展開を睨んでいる他、ケニアと同様にLPGの浸透が課題となっているインドや東南アジアでの実証実験を行おうとしています。なんとアフリカで作られたテクノロジーが基準となり、新興国を席捲する可能性さえあるのです。
実際に2020年7月には、プロパンガス販売日本大手で東南/南アジアにも進出しているサイサンと、パートナーシップを組み、東南/南アジアへの進出は着々と進められています。
3.バイオエタノールのDistributionネットワーク:KOKO Networks
2015年創業のKOKO Networksはバイオエタノールを用いてDirty fuelの問題に立ち向かっています。バイオエタノールはLPGよりも運搬が簡易であることを利用し、彼らはバイオエタノールの自動販売機を作ることで少量購買を可能にしています。彼らは現地のエネルギー小売大手でShellのガソリンスタンドをアフリカ30カ国で展開するVivo Energyとパートナーシップを締結。バイオエタノールの輸入、ガソリンスタンドでの中間貯蔵、そして、自動販売機までの運搬をVivo Energyが担当し、自動販売機での販売をKOKO Networksが担います。
(ガソリンスタンドでの貯蔵庫からエタノールを取り出すマイクロタンカー)
(KOKO Pointと呼ばれる自動販売機。東アフリカで一般的なオンライン送金システムM-Pesaで、支払った分だけエタノールを受け取れる)
(野外食堂で使用されるKOKO Networksの調理器具)
KOKO Networksのミソはバイオエタノールの可燃性の低さを利用し、Pay-as-you-goではなく、顧客自ら自販機にチャージしにいくモデルとしたこと。これにより最終顧客へのロジスティクスコストを削減することが出来ます。自動販売機の設備コストはかかるものの、地域で固定客がつけばかなりオペレーションコストの低いモデルを構築することが出来ます。
また、Dirty fuelからバイオエタノールへの代替は二酸化炭素を大きく削減する為、国際機関より排出権を付与してもらことが可能です。この排出権を売却することで、別口での収益を得て、それを価格削減に使うことでDirty fuelよりもはるかに安い購買コストを実現することも可能です。
(KOKO Networksの顧客が5万人達成した際の動画)
さて、いかがだったでしょうか?アフリカの社会課題を斬新な切り口と果敢なリスクテイクによって解決しようとするその姿勢に身震いがしますね。そして、そうして生まれた技術やビジネスモデルがアフリカ以外の地域でも活用される可能性があることにワクワクします。
※こちらの記事は、弊社山脇が担当するJETROスタートアップ入門―第14回スタートアップ紹介編―(2020年2月号)を一部加筆・修正したものです。
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