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アフリカVCとして今やるべきこと

(2025.1.13)
前回の記事ではアフリカでスタートアップの成長が低迷し、エグジットの大行列、VC投資の激減、そして、Big4市場におけるスタートアップの飽和化問題が起きている様子を述べました。また、産業基盤が脆弱で、そもそも大企業が十分に育っていないアフリカにおいては、経済成長のボトルネックが、スタートアップの側でなく既存産業の側に振れ戻っていることを説明しました。
このような状況下で私がアフリカVC投資家としてやるべきことは、以下の5つです。それによって、投資先のスタートアップを次のステージへと押し上げ、エグジットの道を切り開き、アフリカVCとしてしっかりリターンを出すことが可能になります。

  1. スタートアップを「大企業」化する

  2. スタートアップを「パッケージ」化する

  3. アフリカを中東市場に組み込む

  4. 地場の大企業と連携する

  5. ネクストBig4を開拓する

1. スタートアップを「大企業」化する

アフリカにおいては圧倒的に産業が足りていません。経済活動の基盤となり、富と雇用を生み出す大企業が育っていません。そのようなマーケットでは、従業員数百人、年間の売上数千万ドルを超えるような大型スタートアップと従来の大企業との間に境界線を設けることは意味がありません。むしろ、ユニコーン級のスタートアップは積極的に大企業へと変質していき、産業全体の革新と成長をリードする存在となっていく必要があります。そのためには、スタートアップ立上げ期の創業者ワンマン体制から脱却し、人事制度や組織体制の刷新、新しい経営人材の獲得、グローバルなベストプラクティスの導入、規制当局との連携、適切な財務・税務の管理、コンプライアンス、ガバナンスの整備といった経営改革に早期に着手する必要があります。
このような経営改革の支援を手厚くおこなうという点においては、私たちが現在運営する「Verod-Kepple Africa Ventures(VKAV)」ファンドはVCとして強い優位性と専門性を持っています。もともと私が2020年にナイジェリアのPEファンドであるVerod CapitalとのJVファンド設立を構想した理由の一つは、PEファンドが得意とする、投資先へのバリューアップ、ハンズオン支援、経営改革をVCの機能として取り込むためでした。VKAVでこれを体現していることが私たちの大きな強みです。

2. スタートアップを「パッケージ」化する

上記のように「大企業」化できるほど売上を伸ばし、アフリカを代表するブランドに成長できるスタートアップはほんの一握りです。それ以外の大多数のスタートアップは「点」として存在しており、特定の市場、特定の分野、特定の機能において独自のプロダクト・サービスを提供しています。(「プラットフォーマー」と称していても、それは小さくニッチなものがほとんどです。)
私たちVCとしては、これらの点をパッケージ化し、有機的な塊を作り、時にはスタートアップ同士のM&Aを手助けしていくことにより、点から面を作り、産業スケールのインパクトを生み出していくことが可能であると考えます。
たとえば、日本企業とアフリカのスタートアップの協業を考えたとき、点と点同士(日本企業とスタートアップの1 on 1のマッチング)ではなかなか具体的な成果を出しにくいのが現状です。しかし、もしも日本企業のアフリカ進出にとって必要なデジタルインフラ、すなわち、マーケティング、物流、在庫管理、販売、決済等の仕組みが、様々なスタートアップの「パッケージ」としてone stop shopの形で提供されていたらどうでしょうか?
こうした「パッケージ」化の取り組みは、アフリカのスタートアップエコシステムにとっても、日本企業にとってもwin-winなものであり、特定のスタートアップやVCの利害に左右されることなく、公共性と中立性を考慮した座組で設計される必要があります。ここには官民連携による取り組み意義が大きいと考えており、私自身、官と連会しながら陣頭指揮をとっていきたいと考えています。

3. アフリカを中東湾岸市場に組み込む

中東(とりわけUAEとサウジ)は、アフリカと地理的・歴史的な繋がりを持ちつつも、消費者の購買力、資本市場の厚み、金融制度の発展といった面で、アフリカにとっては非常に補完性の高い魅力的な市場です。
ちょうど両地域の接点に位置するエジプトでは、すでにスタートアップの中東進出、中東企業との連携、中東からの資金調達が盛んに行われています。また、中東に進出したエジプトのスタートアップが中東の大企業による買収ターゲットとなったり、ドバイ、アブダビ、リヤドでIPOを目指す動きも出てきています。
欧米でIPOを目指すことのハードルが高く、出口が詰まっているアフリカのスタートアップにとって、近隣の中東でのIPOは大きな活路となり得ます。アフリカVCとしてこうした動きを積極的に仕掛けていくべく、私は中東のVCとの連携、中東の投資家とのネットワーキングを深めており、昨年に引き続き、中東地域での活動を広げていきます。

4. 地場の大企業と連携する

アフリカではまだスタートアップの歴史が浅く、外部からの影響を受けて立上がったスタートアップエコシステムと、地場の既存ビジネスコミュニティの間には断絶が存在していました。特にナイジェリアのような資源国においては、旧来のエリートによる既得権益の力が強く、若手のスタートアップ創業者が新勢力としてビジネス界で頭角を現すことは容易ではありませんでした。しかし、この壁はここ数年でほぼ無くなりつつあり、地場の大企業を巻き込んでスタートアップの事業を伸ばしていく下地が整ってきました。その具体的な要因としては、

  • FluttereaveやMoniepointのように、卓越した影響力をもつスタートアップが登場し、政策面でも新プレーヤーを支援していく方針が明確になってきた。

  • B2Bにおいて、スタートアップの提供するサービスが既存ビジネスに実装され、利用される事例が浸透した。

  • 優秀な人材が既存産業とスタートアップの間で循環し始め、さらには、スタートアップ・VCの世界から政界に進出する人材も出始めた。

  • 既存産業の側にも新しいマインドの経営者が増えてきており、PEやグローバル企業による出資がそれを後押ししている。

こうした状況を追い風に、地場の大企業とVCが協業しながら、より大きなイノベーションの絵を描いていくステージに入りつつあります。私が商社のナイジェリア駐在時代から培ってきた現地大企業とのネットワーク、JVパートナーであるPE Verod Capitalを通じたネットワーク、地場の経営者コミュニティでのネットワークが、スタートアップへの投資・協業という文脈で活性化しています。VKAVファンドではナイジェリアの現地銀行や、多角的に現地事業を展開する地場企業のファミリーオフィスからLP出資を受けていることも大きな強みです。現在、私はナイジェリアで巨大な製造業を営む事業会社や、エンタメ企業との連携を進めており、彼らと共同で産業スケールのスタートアップ協業を推進していきます。

5. ネクストBig4を開拓する

ここまで、スタートアップ市場が飽和化しつつあるBig4市場(ナイジェリア、ケニア、エジプト、南ア)を念頭に論じてきましたが、最後に、これらの市場とは真逆の「真空」状態にあるアフリカ新興市場に焦点を当てたいと思います。
ナイジェリアのような飽和市場に関して、「大企業が10社しかないのに、スタートアップが100社も必要だろうか?」と前回の投稿で書きましたが、それとは対照的に、仏語圏西アフリカや中部アフリカ、さらにはコンゴ民主共和国(DRC)のように、開発ポテンシャルの高いアフリカ新興市場において、成功するスタートアップが「1社も存在しない」まま国が産業発展を達成するということもありえません。まさに十数年前のナイジェリアの如く、決済プラットフォームもマーケットプレースも存在せず、ビジネス取引の大部分がマニュアルでおこなわれている状況では、大いにイノベーションの余地があります。このような新興市場ではVC資金だけでなく、起業家がMVPを達成するためのメンタ-シップやバックオフィスの支援も足りていません。
人口1億人の資源大国でカオスな国DRCコンゴにおいて、私はベンチャービルディング事業を立ち上げるべく、現地パートナーと共に2022年末以来取り組んでいます。超アーリーのアイデアステージから入り、シリーズAの手前でセカンダリーでのエグジットが基本戦略となります。
このように、飽和市場と真空市場、それぞれに対して異なる投資アプローチとエグジット戦略を持ちながらアフリカ市場を押さえていく事が肝要です。

※なお、蛇足ながら、DRCコンゴに対する私の情熱とその起源についてはこちらをご覧ください。
https://youtu.be/_yDqdwaaeKQ?si=8KgRrU-hV5uhn0Cx
https://note.com/kepple_africa_vc/n/ncb029489d60b

結び

以上から導かれる私の行動原理、アフリカVCとして持つべきマインドセットとしては、従来のVCの枠を超えて考え、動くこと、そして、アフリカの枠を超えて市場を創造することであると言えます。

私の考え方は、楽観論の強いアフリカVC界隈の中ではラディカルと見なされているようで、たとえば、アフリカの著名VCを取材した下記の記事のなかで私の主張は「Room for Disagreement 」として扱われています。
https://www.semafor.com/article/11/26/2024/african-tech-investors-lean-in-to-fill-funding-gap
(でも記事が出た後には「サトシの言う通りだよなあ」というDMが他のVCからも多く来ていました。)
また、私が進める、アフリカ・VCの枠を超えた取り組みに対しては、チーム内部でも意見の相違があります。アフリカでの道のりは平坦ではありませんが、2025年の所信表明の意味も込めて書いてみました。今年もよろしくお願いします。

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