「未定」【三話】
もともと僕はテレビを見ない部類の人間だからドラマやアニメ、バラエティー番組なんかもあんまり興味がない。
たまたま家族がつけっぱなしにしたのか、深夜に軽食を求めて向かったリビングでは誰もいないソファに向けて上映会が行われていた次第だ。
誰もいない部屋に声がよく響いている。
普段ならすぐにリモコンを手に取りテレビを消すところだが、見知らぬ俳優が黒いスーツを着こなし、なんとも軽妙な語りをしていたので、リモコン片手に少し耳と目を傾けてしまった。
「いやーね。人間が何かを欲しがるときって言うのは大半が『それ』を持ち合わせていないときなんだよ。はは。当たり前だけどね。
そして『それ』持っていない状況に対して、心のどこかで劣等感を感じている。ま、これも当たり前だけどね。」
僕は音量を上げた。
「じゃあ逆に拒絶するとき、それはどういうときなんだろう。
僕はね、『少なからず自分にその因子を持ち合わせている』ときなんだろうと思うよ。
受け入れるともっと自分を蝕んでs」
不意にテレビが沈黙した。
右手がリモコンの赤いボタンをひとりでに押していた。
深夜にテレビを見るのは良くないな。寝れなくなってしまうから。
それに時間を無駄に使うのももったいない。
貴重な40秒を割いてしまったようだ。
握っていたリモコンをソファに放り投げ、テーブルに置いてあったドーナツを手に取り自室に戻る。
そして考えた。ドーナツを食べながら。
先ほどの男は結局何を伝えたかったんだろう。
というかあの番組は何だったんだ。
よく分からないけど、今日は寝よう。
時計を見れば午前3時。
今日は歯磨きしなくていいや。面倒だ。
僕はもっと面白いことがしたいんだ。