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印象派をめぐるフランス旅 #1 カイユボットの家

2024年は、印象派が最初の展覧会を開いてから150周年となる年。パリのオルセー美術館では大盛況だった印象派展が幕を閉じ、先日よりカイユボット展が始まりました。

オルセー美術館がカイユボットだけに焦点を当てたことに驚きました。印象派といえばモネ、ルノワール、ドガ、マネなどが有名どころだと思っていたので。

しかし、展覧会を観ていくうちに「これ描いたのカイユボットだったんだ!」と思った絵がありました。

『パリの通り、雨』 《Rue de Paris, temps de pluie》 1877年

雨のパリを写真のように切り取った絵。行き交う人の服装以外、今となにも変わらない景色。濡れた石畳を歩く音や、冷たい空気が伝わってくるような素敵な絵です。

印象派とカイユボット

私がはじめてこの絵を観たのは、ジヴェルニーにあるモネの家でした。寝室の壁の目立つ場所にかけられており、素敵だなと思いつつ誰の絵なのか考えずにいたのです。ジヴェルニーという自然豊かな村で見た都会の絵というのが、印象に残っていました。

モネの家にある絵はすべて複製画です。
オリジナルの何点かは上野のモネ展に出張中ですね!

モネの家で目立つところに絵がある=繋がりが深いと考え、カイユボットについて調べてみると、両親の遺産を引き継いだ後年はパリ郊外(モネが当時いたアルジャントゥイユの近く)でガーデニングに没頭したらしく、モネとは生涯親交があったようです。

ジヴェルニーの睡蓮の池

カイユボットはもともと上流階級の生まれなので、モネやルノワールなど、サロンから外れた画家たちの才能を信じて、絵を買ったり生活の支援をしたり、印象派展の企画を取り仕切ったりと、印象派のメンバーでありながらパトロンでもあったんですね。

さらに調べると、パリ郊外のイェールにあるカイユボットの別荘が見学できることが分かりました。カイユボットはイェールでのボート遊びや穏やかな風景もたくさん描いています。

モネと気が合ったのも分かる気がします

パリで生まれた上流階級の人だったけど、緑あふれる静かな場所のほうが好きだったのかな。どの絵も自然風景に愛情を込めて丁寧に描かれていて、イェールがどんな場所なのか興味が湧きました。

イェールはパリのリヨン駅(Gare de Lyon)から30分ほどの距離です。
彼が愛した場所を見るため、カイユボットの家を訪れました。

自然に囲まれたカイユボットの家

リヨン駅から5ユーロ、RERに乗ってイェール駅へ。駅から徒歩15分。とても広い敷地内に、美術館となっているカイユボットの家があります。ほとんど森のような公園は入場無料なので、地元の人たちが読書や散歩をしに来ている姿も見かけました。

厨房(グッズショップ)

家の0階は受付兼グッズショップになっていました。当時の厨房を再現しているそうで、鍋やフライパンに並んで、カイユボットの本やポストカードが置かれています。おしゃれなレイアウト!

青いタイルは18世紀のデルフト焼きの再現とのこと

オレンジの形のエコバッグをお土産に購入しました。カイユボットがイェールで描いた『オレンジの木々』という絵にちなんだグッズだと思います。

こういうゆるくて遊び心あるグッズ好きです🍊

オンラインで購入したチケットを0階の受付で見せると、日本語のパンフレットをいただきました。フランスの美術館や画家の家は、小さな場所でも日本語パンフレットが用意されている場合が多くて嬉しいです。

さぁ、カイユボットの家にお邪魔しましょう。

食堂

はじめに出迎える食堂から美しすぎる…。壁にあるフランス式庭園の絵は、1822年に描かれたデッサンをもとに描かれたもの。パンフレットによると印象派のひとつ前、バルビゾンの画家(ミレーが有名ですが、コローなど)が描いた自然風景を思い起こさせる装飾、という解釈みたいです。

木のテーブルと椅子、自然風景を描いた絵のおかげで、洗練されているけど堅苦しくなく、居心地が良さそうな食堂です。いつか家を持つならこんな居間にしたい。

後日オルセー美術館を再訪したとき、カイユボットの絵のなかのグラスやカラフが、この食堂のものと似ていて感動しました。カイユボットの家の一般公開が始まったのは2017年からのようですが、絵画からヒントを得て当時の暮らしを再現するとは素晴らしい仕事です。

ビリヤード室

ビリヤード室は紳士が楽しむための部屋でした。カイユボットが絵を描いた当時の、大理石製の暖炉がそのまま現存しています。(写真中央に見えます)

この絵は印象派が好きな人なら見たことがあるかもしれません。左側が未完成ですが、カイユボットの家を修復する際には貴重な資料として役立ったそうです。実際、部屋の照明もかなり似たものが使われていました。

アトリエ

特別な企画展の際はここで絵画鑑賞ができるそうです。私が訪れた時はオルセー美術館の企画展の真っ最中だったので、アトリエには複製画が飾られていました。

カイユボットはイェールで89点以上の作品を制作したそうです。モネやルノワールのように外で描いたのかな。でもカイユボットの絵は透視図法がよく使われていて、かなり写実的だし、几帳面な一面が伝わるので、外ではなく室内でじっくり仕上げたのでは、となんとなく思います。笑

モネも魅了された庭園

家も素敵でしたが、庭園がすごくよかったです。イェールを訪れたら、ぜひカイユボットの庭園をゆっくり歩いてみてください。

イギリス式というのか、自然そのままの美しさを生かした作りで、歩いているとカイユボットの父が建てた小さな礼拝堂や、シノワズリな雰囲気の東屋が突然現れたりします。暖かい季節は、庭園の川でボートに乗ることができるそうです。

敷地内にカフェもあります。天気が良かったので庭沿いの席でショコラショーを頼み、もらったパンフレットを熟読しました。

歩いていると、建築や装飾の様式がそれぞれ違っていて、何世代も受け継がれて手入れされてきたことが分かります。

白い建物はオランジュリー(温室)

モネが晩年暮らしたジヴェルニーの庭は、カイユボットに助言をもらいながら設計したという話があります。もしかしたらモネもカイユボットの家に来たことがあるのかもしれません。

印象派の頼もしい支援者だったカイユボットが、自分の死後、所有していた作品をフランスに遺贈するよう遺言を残してくれたからこそ、主要な作品はフランスに残りました。(亡くなった当時は印象派が世間でまだ認められておらず、コレクションの受け入れは難航したんだとか。ちなみにカイユボットの遺言執行人はルノワールだったそうです。)

Wikipediaより

カイユボットがいなければ、これらの作品が他の国に散らばっていた可能性もあったのです。同じように、彼とモネが出会っていなかったら、ジヴェルニーのモネの庭も、睡蓮の絵も生まれていなかったのかもしれません。


カイユボットの家は、広大な自然と邸宅をどちらも楽しめるという点で、レオナルドダヴィンチが亡くなるまで住んでいたクロリュセ城に似ていました。大人も子どもも楽しみやすいと思います。

印象派が好きな人、19世紀のフランスの豊かな暮らしを知りたい人、自然が好きな人、いろんな人に訪れてもらいたい場所でした。

印象派をめぐるフランス旅、今後もnoteで紹介したいと思います。

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