「いぞう」の言葉の意味の候補は?
Q「いぞう」という言葉を聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?
A1 「岡田以蔵」「人切り以蔵」と答えた皆さん、幕末好きですね? 私は、武田鉄矢さん原作、「あずみ」の小山ゆう先生の「おーい!竜馬」派です。
A2 「遺贈」と答えた皆さん、おそらくNPOなど非営利セクターの関係者ではないでしょうか? おそらく、まだまだ認知度の低い言葉である「遺贈」。しかし、この「遺贈」という言葉の認知度を上げていかないといけない、と思いました。ちくご川コミュニティ財団の「遺贈寄付シンポジウム」に参加してきたので、遺贈について解説します。
「遺贈」とは?
遺贈寄付とは、
現在、高齢化により、「終活」という言葉が一般化してきました。「人生最後の社会貢献」として、その資産などを、個人の思いに沿って社会課題の解決に使わせていただくのが、「遺贈」という活動です。例えば、交通事故で亡くなった子どもの退職金を途上国の学校建設に使ったり、使っていた家を寄贈してシングルマザー向けのシェアハウスに活用したり、お金や不動産の寄付など、様々な形があります。
世界的には、9月13日はInternational Legacy Giving Day、国際遺贈寄付の日です。日本でも、2016年から「全国レガシーギフト協会」が設立され、9月11日から17日を「遺贈寄付ウィーク」として、全国で様々なイベントが開かれています。
「社会の子どもを育てる」という思い
ちくご川コミュニティ財団が開いたイベントも、そんな遺贈寄付ウィークにちなんだ企画でした。全国レガシーギフト協会の山北洋二代表理事をお招きし、遺贈寄付に関するセミナーが開かれました。
ちくご川コミュニティ財団では、「子ども若者応援助成事業」という、地域で子どもの育成のために助成をする事業があるが、この助成事業の原資が、実は遺贈寄付。財団が設立された当時、支援者のおひとりのF・Sさんという方が、遺贈を決められました。お子さんがいらっしゃらなかったというF・Sさん。遺贈を決められた理由を、このように話されています。
「社会の子育てをしたい」―。そういう思いで託されたF・Sさんは、遺贈を決められてすぐに、鬼籍に入られます。その思いを継いでつくられたのが、「子ども若者応援基金」。シンポジウムでは、山北氏の講演会のほか、この思いを受けて助成を受けた団体の活動報告や、助成を受ける団体の活動初回が開かれました。
600億を超える国庫への帰属
遺贈については、信託や法律、遺言のあるなし、みなし譲渡税など、受けるNPO側は特に、様々な知識が必要です。そちらについては、この本をご覧ください。
私が山北氏の解説の中で最も気になったのは、相続人がおらず、遺言もなかった場合、その遺産は特別縁故者(看取ってくれた地域の方など)への分を除き、国庫へ帰属されるということ。生涯未婚率(おひとり様)の増加や子どものいない世帯の増加も増えて、2021年では、27,617人分の679億円(1件当たり245万円)が国庫へ帰属されたということ(2012年は375億円)。使い道のない土地や家屋ならば、その処分の負担が軽減されるかもしれませんが、お金ならば、以下の使い道になります。
もちろん、国のために何か使ってほしい―という思いがあるならば良いですが、「何か〇〇という課題のために使ってほしい」という思いがあるならば、国庫に託すよりも、NPOなどの活動に託すことも選択肢の一つだとぜひお伝えしたいのです。
「思いの循環」が生まれる
今回のシンポジウムでは、子ども応援助成事業を受ける団体からの活動報告・活動紹介がありましたが、これが良かった!
不安や悩みを抱える子どもたちの居場所づくりに携わる団体は、自身の不登校の体験からその活動を始めた理由を吐露し、会場の涙を誘いました。演劇を通じて子どもたちの居場所づくりをする団体では、外国にルーツのある子どもが、日本語が分からないことに「壁」を感じながら、言葉を使わないコミュニケーションを一生懸命に実施し、成長が見られた話など、とても感動しました。
F・Sさんは、逝去によりその様子を見られなかったかもしれませんが、確実に「社会の子育て」という思いが、次の世代に託されていると感じました。「思いの循環」が生まれている、と感じました。
親とも話し始めた「その後」
老後資金2000万円問題もあり、老後資金がとても社会的な話題になってきました。いろんな国に行きますが、葬儀社や墓地のCMが流れるのは、超高齢社会の日本の特徴。
私は、国際結婚を失敗し、立派な「おひとり様」。非営利セクターで働く以上、大きな資産を形成することはあまり期待できないですが、40歳も近づき、人生も折り返し地点。SDGs(持続可能な開発目標)で常に未来を考えることが多く、どういう生き方をするかは、人並み以上に考えていると思います。
親も古希を迎え、帰省した際には、資産などに関する話をすることが増えました。実家のある大分に戻る可能性は少なく、家をどうするかなど、考えておかなければいけないと考える機会が増えました。
もし、遺す資産がある方は、その思いを「人生最後の社会貢献」としてNPOなどへの寄付をご検討されませんか? 全国で、遺贈寄付の相談窓口をしている団体もあり、福岡県ではちくご川コミュニティ財団が担当しています。ぜひ「いぞう」の言葉が「遺贈」という意味につながる人が増えますように―。