感染症関連知見情報:2024.04.04
皆様
本日のCOVID-19等の感染症情報を共有します。
本日の論文は、Nature系列より2編(ともにLong COVID関連)、BMJ、Lancetより各1編です。
Natureの1編目は、Scripps Research InstituteのEric Topol教授らのチームによるLong COVIDに関するReview論文です。Long COVIDの理解が進んでいるにもかかわらず、現在の診断と治療の選択肢は不十分であり、有力な仮説に取り組み、潜在的な治療法を探索する臨床試験を優先する必要があるとのことです。
2編目は、Long COVIDに関する知見を、特に治療の観点からまとめたNatureの News Featureです。完結ですが、ポイントが示されています。
BMJ論文は、英国ウェールズにおけるCOVID-19対応の学び、教訓をまとめた論文です。Chronologicalにまとめてあり、プロセスを評価することで教訓が浮かび上がって来ています。貴重な論文です。
LANCET論文は、COVID-19パンデミックによってその疫学に影響を受けたとされている呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に関して、パンデミック期間中の5歳未満の小児におけるRSV関連急性下気道感染症(ALRI:Acute Lower Respiratory Infection)の入院負担と、RSV疫学の変化の可能性を世界的な観点から評価することを目的とした研究です。5歳未満の小児におけるRSV関連ALRIの入院負担は、COVID-19パンデミックの最初の年に有意に減少しました。
報道に関しては、劇症型溶連菌に関する報道が複数誌から出ています。
高橋謙造
1)論文関連
Nature
Long COVID: major findings, mechanisms and recommendations
*Scripps Research InstituteのEric Topol教授らのチームによるLong COVIDに関するReview論文です。
major findings, mechanisms and recommendationsの3つの観点からまとめられています。
◯Major Findings
Long COVIDは、SARS-CoV-2感染者のかなりの割合が罹患する、持続的でしばしば衰弱する病気です。研究により、Long COVIDに関連する200以上の症状が特定され、様々な臓器系に影響を及ぼしていることが明らかになっています。この症状は何年も続くことがあり、心血管疾患、血栓性疾患、脳血管疾患、2型糖尿病、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、自律神経失調症などの一般的な有害転帰を伴います。そのため、多くの人が仕事に復帰できず、労働力不足につながるため、重大な課題となっています。
◯Mechanisms:メカニズム
Long-COVIDの発症機序には、免疫調節障害、組織におけるウイルスの潜在的持続性、微生物叢への影響、自己免疫、微小血管の血液凝固、脳幹および迷走神経におけるシグナル伝達の機能障害など、複雑なメカニズムが関与しています。再活性化したウイルス、自己抗体の存在、不十分な免疫応答、異常なサイトカインレベルが、Long-COVIDの発症と持続に寄与しています。これらのメカニズムが相互に作用して、Long-COVIDの患者に認められる幅広い症状と長期にわたる影響が生じるのです。
◯ recommendations:推奨事項
Long COVIDの理解が進んでいるにもかかわらず、現在の診断と治療の選択肢は不十分であり、有力な仮説に取り組み、潜在的な治療法を探索する臨床試験を優先する必要があります。さらに、今後の研究では、SARS-CoV-2検査における偏りに対処し、多様な集団を組み入れ、研究プロセスに積極的に患者を参加させるべきです。Long COVIDの治療法は、特定の症状に対応するように調整されるべきであり、薬理学的介入、非薬理学的アプローチ、免疫調節異常、ウイルスの持続性、その他の根本的なメカニズムを標的とする潜在的な治療法を含む可能性があります。
結論として、この論文は、Long-COVIDが世界中の個人に与える重大な影響、この病態の根底にある複雑なメカニズム、COVID-19の急性後遺症の長期的な健康への影響に対処するためのさらなる研究と診断および治療法の改善が緊急に必要であることを強調しているとのことです。
Long COVID still has no cure — so these patients are turning to research
*Long COVIDに関する知見を、特に治療の観点からまとめたNatureの News Featureです。
◯Long COVIDの研究をリードする患者たち
- Long COVID患者が率先して研究活動に参加する状況が生まれている。
- 患者主導型研究共同体(PLRC:Patient-Led Research Collaborative)が結成されている。
- PLRCが実施した、患者が経験した症状のカタログ化調査もなされている。
◯既存の研究イニシアチブの課題と批判
- Long-COVID試験の進捗は限定的であること。
- RECOVERイニシアチブに対する批判がある。
- より包括的な研究アプローチを提唱する患者たちが声を上げ始めている。
◯ 患者主導の取り組みが研究と臨床試験に与える影響:患者主導の取り組みが研究を形成
- Long COVIDに関する研究プログラムを形成する患者主導のイニシアチブが生まれた。
- 患者の知見に基づく治療法の早期臨床試験も始まっている。
- 試験デザインと治療選択における患者の経験の影響が生まれ始めている。
◯ 症状と治療法の探求
- 幅広いLong COVID症状の特定の影響。
- 治療の有効性を評価するための調査の利用が始まる。
- 患者報告による軽減に基づくサプリメントの臨床試験も始まっている。
◯患者と科学者の共同研究
- 研究プロトコールに患者コミュニティを参加させることが重要である。
- 的を絞ったインパクトのある研究につながる効果的な共同研究になりうる。
- 患者の意見を取り入れることで、治療法の飛躍的進歩が早まる可能性が期待される。
BMJ
Covid inquiry: What we have learnt about Wales’s response?
https://www.bmj.com/content/bmj/384/bmj.q608.full.pdf
*英国ウェールズにおけるCOVID-19対応の学び、教訓をまとめた論文です。
1. 公衆衛生当局の準備と優先順位付け
・パンデミックの発生前、ウェールズの公衆衛生当局は、長期で大規模なパンデミックに対して十分な備えをしていなかった。
・COVID-19は当初、最優先事項とはみなされず、積極的な対策がとられなかった。
・主要な決定は英国政府によってなされるものと思われていたが、その責任が保健衛生法の分権下にあることがわかり、ウェールズの大臣が指揮をとることになった。
2. 最初の確定症例をきっかけとした対応の変化
・ウェールズにおけるパンデミックへの対応は、同国で初めて感染者が確認されたことをきっかけに大きく変化した。
・これは2021年2月末のことで、行動を起こすきっかけとなった。
・ウイルスの影響を軽減するために、もっと早く行動を起こすべきだったと認識された。
・危機管理におけるアプローチの違いから、英国政府とウェールズ政府との間に緊張が生じた。
3. 異なるルールとコミュニケーション不足の中での混乱
・マスクやロックダウンに関するルールがウェールズと英国で異なっていたため、市民の間に混乱が生じた。
・ウェールズが2020年5月から独自のCOVID-19規則を実施すると決定したことが、この混乱をさらに悪化させた。
・さらに、ウェールズの指導者が知らないうちにカーディフ・シティ・スタジアムに集団検査センターが設置されたことは、コミュニケーションと調整の欠如を浮き彫りにした。
4. ケアホームへの退院の課題
・適切な検査プロトコルが実施されないまま、個人がケアホームに退院してしまうという問題が浮き彫りになった。
・ウェールズにおけるCOVID-19による死亡の17%近くがケアハウスで発生しており、保護措置の適切性に疑問が持たれている。
・ウイルスの無症候性感染に関する新たなエビデンスを受けて、検査方針が変更された。
5. WhatsAppメッセージの消失と通信に関する懸念:
・調査中、ウェールズ政府の上級顧問による不審かつ組織的な通信の削除に関する主張が浮上した。
・WhatsAppの自動削除機能を使って7日後にメッセージを消去していたため、透明性と説明責任に関する懸念が生じた。
・このメッセージ削除の問題は、ウェストミンスターの公聴会でも提起された。
6. PPEニーズの過小評価:
・ウェールズ政府は、個人防護具(PPE)の備蓄が枯渇するスピードを過小評価していたことを認めた。
・この見落としは、備蓄されたPPEのごく一部が本来の目的に適さないという事態を招き、パンデミック時の必需品の管理と配布における課題を浮き彫りにした。
LANCET
Changes in the global hospitalisation burden of respiratory syncytial virus in young children during the COVID-19 pandemic: a systematic analysis
https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(23)00630-8/fulltext
*COVID-19パンデミックによってその疫学に影響を受けたとされている呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に関して、パンデミック期間中の5歳未満の小児におけるRSV関連急性下気道感染症(ALRI:Acute Lower Respiratory Infection)の入院負担と、RSV疫学の変化の可能性を世界的な観点から評価することを目的とした研究です。
2020年1月1日から2022年6月30日までに発表された研究について、MEDLINE、Embase、Global Health、Web of Science、WHO COVID-19 Research Database、CINAHL、LILACS、OpenGrey、CNKI、WanFang、CqVipで系統的な文献検索を行いました。国際的な共同研究者が共有するRSV疫学に関する未発表データも対象としました。対象とした研究は、RSVに関連したALRIで入院した小児(5歳未満)を対象に、入院率、院内症例致死率、補助酸素を必要とする入院小児、人工呼吸を必要とする入院小児、集中治療室への入院を必要とする入院小児の割合のうち、少なくとも1つの指標に関するデータを報告していました。データ統合のために一般化線形混合効果モデルを用いて、パンデミック中にRSV関連ALRIで入院した小児の発生率、年齢分布、重症度の変化を2019年と比較して測定しました。
19ヵ国61件の研究を対象とし、そのうち14件(23%)が公表文献(4052件の記録が確認された)、47件(77%)が未公表のデータセットからの研究でした。ほとんどの研究(51 [84%])は高所得国からのものであり、9件(15%)は高中所得国、1件(2%)は低中所得国(ケニア)からのものであり、低所得国からのものはありませんでした。15件の研究が入院率の推定に寄与し、57件の研究が重症度解析に寄与しました。2019年と比較して、2020年の全児童(生後0~60ヵ月)におけるRSV関連ALRI入院率は、高所得国で79.7%(325,000例対66,000例)、高中所得国で13.8%(581,000例対501,000例)、ケニアで42.3%(1,378,000例対795,000例)減少しました。高所得国では、年率換算の割合は2021年に上昇し始め、2022年3月までに2019年と同様の水準に戻りました(2021年4月から2022年3月までの小児1000人当たり6.0例[95%不確実性区間5.4-6.8]対2019年の小児1000人当たり5.0例[3.6-6.8])。対照的に、中所得国では、データが入手可能な最新の期間では、2019年よりも低い割合で推移していました(上位中所得国では、2021年4月から2022年3月までで2.1例[0.7-6.1]対2019年3.4例[1.2-9.7]、ケニアでは、2021年2.2例[1.8-2.7]対2019年4.1例[3.5-4.7])。すべての期間および所得地域にわたって、入院率は低年齢の乳児(生後0~3ヵ月未満)でピークに達し、年齢が高くなるにつれて減少しました。高所得国および高位中所得国では、パンデミック期にRSV関連ALRIで入院した12~24ヵ月児の割合が2019年よりも有意に高く、オッズ比は1.30(95%不確実性区間1.07~1.59)から2.05(1.66~2.54)でした。疾患の重症度に一貫した変化は認められませんでした。
5歳未満の小児におけるRSV関連ALRIの入院負担は、COVID-19パンデミックの最初の年に有意に減少しました。2022年3月までに高所得地域ではパンデミック前の入院率に回復しましたが、中所得地域では回復しなかったことから、中所得地域ではパンデミックによる医療システムや医療アクセスへの悪影響が持続していることが示唆されます。RSVサーベイランスを確立(または再確立)し、特に低所得国や低中所得国におけるRSV疫学の変化を監視する必要があるとの事です。
2) 治療薬、 ワクチン関連
国内
ワクチン接種4・3億回…無料終了 2・4億回分を廃棄
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20240402-OYT1T50006/
海外
治療薬
3)診断・検査、サーベイランス関連
変異株
国内
劇症型溶連菌の患者、過去最多だった昨年同期の2・8倍…国立感染研発表
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20240402-OYT1T50140/#
*劇症型溶連菌の患者、過去最多ペース 昨年上回る:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF02A6R0S4A400C2000000/
*「急激に重症化する「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)」の患者数が、過去最多だった2023年を上回るペースで増えている。国立感染症研究所は2日、今年は3月24日までに556人が報告されたと発表した。前年同期の2・8倍に上っている。」
劇症型の感染症増加でも「日本への渡航取りやめる必要ない」 厚労省
https://www.asahi.com/articles/ASS440CX3S44UTFL013M.html
*「致死率が高い「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)」の患者が国内で増えているなか、厚生労働省は、日本への渡航を予定する人に「流行を理由に旅行を取りやめる必要はない」と呼びかけている。STSSの患者報告数は過去最多のペースだが、担当者は「基本的な感染対策をしてもらえれば、それほど心配はない」としている。」
海外
4)対策関連
国内
国の「指示権」強化、想定外の非常時に行使 具体例示されず懸念も
https://www.asahi.com/articles/ASS3X4WNNS3TULFA009.html
*国が非常時指示、自治体懸念は 地方自治法改正案、来月にも国会審議
https://www.asahi.com/articles/DA3S15897892.html
*「大規模な感染症や大災害などで想定外の事態が起きた時に、国が自治体に対応を指示できるようにする地方自治法改正案の国会審議が4月にも始まる。しかし、国は指示が必要となる具体的なケースを示していない。国と自治体を「対等」とする地方分権に逆行する、地方の実情を的確に把握できるのかといった懸念も出ている。」
海外
5)社会・経済関連
ひもなしマスク、夢懸ける 日本で起業、ウクライナの24歳 「自分の方法で母国のため闘う」 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20240404/dde/001/040/030000c
川に排せつ物、ボートレースでは選手嘔吐 深刻化する英テムズ川汚染 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20240404/k00/00m/030/078000c