COVID-19情報:2023.11.06

皆様

本日のCOVID-19情報を共有します。

本日の論文は、JAMAより2編、Natureより2編です。

JAMAの1編目は、COVID-19パンデミック時のテレワークと両親の一般的健康状態、精神的健康状態の変化、育児ストレスとの関連を調べることを目的とした研究です。背景として、COVID-19の大流行により、在宅勤務(テレワーク)の頻度が増えましたが、COVID-19以前に実施された研究では、テレワークと従業員の健康との間に相反する関連があることが判明しています。テレワークをしている父親は、現場で働いている父親よりも育児ストレスが高いと報告しましたが、母親の育児ストレスはテレワークの状況によって差がありませんでした。
2編目は、COVID-19パンデミックの間、マスクの使用が地域社会におけるSARS-CoV-2の伝播低下と関連しているかどうか、またどのように関連しているのかについて何が明らかになったかについて考察したSpecial Commmunication論文です。文献レビューの結果、地域社会でのフェイスマスクの使用やマスクの義務化とSARS-CoV-2の伝播の減少との関連性を示す、質の高い観察研究が多数あることが判明しましたが、パンデミック中に実施された無作為化臨床試験では、限られた情報しか得られていないことが明らかになりました。

Natureの1編目は、パンデミックへの備えや適切な政治行動に関する今後の社会的議論に資するために、SARS-CoV-2パンデミックを人々がどのように想起するかを検討した研究です。COVID-19パンデミックに関する歴史的な語りは動機づけに偏りがあり、社会の偏向を維持し、将来のパンデミックへの備えにも影響を及ぼすことが示されました
2編目は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)デルタ株を鼻腔内および気管内投与したアカゲザルの感染と発病を予防するためのエアロゾルmAb投与の有効性を検討した研究です。SARS-CoV-2 mAbの投与により、上気道および下気道におけるSARS-CoV-2ウイルスRNAおよび感染性ウイルスのレベルは対照と比較して有意に減少しました。

報道に関しては、「猛威インフル、年末ピークか 専門家「例年より大規模に」―コロナと同時流行も」がもっとも気になる記事です。3−4歳の子の発熱で、Fluの診断が出た場合には、ほぼ確実に今回が初感染です。コロナ自粛の時代にはFluの流行がみられませんでしたので。初感染の児の症状がどのような状況なのか、なんとも予測が付かないのです。臨床の現場では、結構元気な子でも希望で検査するとFluAという症例も多くなっていますが、Fluでも神経毒性の高い株だと熱性けいれんが増加したり、脳炎・脳症が増加してしまうのでは?と戦々恐々としています。また、コロナ禍後に特に小児おいて広がり始めた感染症と免疫負債について触れた拙稿「コロナ禍後の子どもの感染症ーなぜ流行するの?なぜ検査してくれないの?ー」も掲載しています。

高橋謙造

1)論文関連    
JAMA
Teleworking, Parenting Stress, and the Health of Mothers and Fathers

*COVID-19パンデミック時のテレワークと両親の一般的健康状態、精神的健康状態の変化、育児ストレスとの関連を調べることを目的とした研究です。背景として、COVID-19の大流行により、在宅勤務(テレワーク)の頻度が増えましたが、COVID-19以前に実施された研究では、テレワークと従業員の健康との間に相反する関連があることが判明しています。
この横断研究の調査データは、2022年5月から7月にかけて、社会人口統計学的に多様な都市の中心地であるイリノイ州シカゴの全77地区からパネル調査によって収集されました。参加資格は、18歳以上であること、1人以上の子どもを持つ親であることでした。回答者は、確率標本(完了率43.1%、対象者1382人中596人)と非確率標本から募集しました。
1,060名の回答者のうち、825名(74.3%)が現在雇用されている親であり、有職者のうち、599人(52.5%)が女性で、548人(62.5%)がテレワークをしていました。テレワークをしている親の割合は、白人(244人[45.0%])が黒人(99人[14.6%])またはヒスパニック系(145人[28.5%])より多く、逆に現場で働いている親の割合は、黒人(84人[26.0%])およびヒスパニック系(98人[41.9%])が白人(71人[23.8%])より多い状況でした。調整後、テレワークをしている人は、オンサイトワークと比較して育児ストレスのオッズが増加していました(調整オッズ比[aOR]、1.88;95%CI、1.20-2.93)が、一般的な健康状態(aOR、1.23;95%CI、0.78-1.93)や精神的健康の改善(aOR、1.14;95%CI、0.64-2.04)には差がありませんでした。テレワークをする父親は、現場で働く父親よりも育児ストレスが高いと報告されました(aOR、2.33;95%CI、1.03-5.35)が、母親には関連はありませんでした(aOR、1.53;95%CI、0.93-2.49)。
この横断研究では、COVID-19パンデミック時にテレワークを行った親は、現場で働いた親と比較して親のストレスが高いとの結果でした。それ以外の所見は、COVID-19以前に実施された研究と一致しており、テレワークと従業員の自己報告による健康との間に矛盾した関連性が認められたか、まったく関係がありませんでした。本研究の結果は、親の性別によって異なっていました。テレワークをしている父親は、現場で働いている父親よりも育児ストレスが高いと報告しましたが、母親の育児ストレスはテレワークの状況によって差がありませんでした。親、特に父親にとって、COVID-19パンデミック時のテレワークは、子どもと過ごす新たな機会を提供していました。今回の知見は、テレワークが育児ストレスに加わったり、よりストレスの多い育児状況にある親がテレワークの形態を優先的に選択したりする可能性を示唆しています。テレワークを行う親を支援するための戦略、例えば勤務スケジュールの自律性を促進することや従業員支援プログラム2などは、親と子どもにとって重要な健康上の意味を持つ可能性があります。
研究の限界には、一般化可能性と客観的な健康データの不足が含まれる。研究期間はパンデミックの最初の2年間に限定されており、シカゴの学校では13ヵ月間遠隔授業が行われました。テレワークの選択肢を拡大する法案も、制限する法案も提出されています。したがって、研究者、医療専門家、政策立案者が、テレワーク、育児ストレス、親の健康との関連を評価し続けることが極めて重要であるとのことです。

Masks During Pandemics Caused by Respiratory Pathogens—Evidence and Implications for Action

*COVID-19パンデミックの間、マスクの使用が地域社会におけるSARS-CoV-2の伝播低下と関連しているかどうか、またどのように関連しているのかについて何が明らかになったかについて考察したSpecial Commmunication論文です。
文献レビューの結果、地域社会でのフェイスマスクの使用やマスクの義務化とSARS-CoV-2の伝播の減少との関連性を示す、質の高い観察研究が多数あることが判明しましたが、パンデミック中に実施された無作為化臨床試験では、限られた情報しか得られていないことが明らかになりました。十分なデザインの観察研究により、マスクの使用とSARS-CoV-2の地域伝播の減少との関連性については実証されています。また、マスクがSARS-CoV-2の伝播を減少させるかどうかについては、数、範囲、統計的検出力が限られている無作為化試験に焦点が当てられているため、意見が分かれていました。多くの効果的な公衆衛生政策は、無作為化臨床試験で評価されたことがありません。このような臨床試験は、すべての介入の有効性を示す証拠のゴールドスタンダードではありません。SARS-CoV-2の蔓延を抑えるための地域社会でのマスク推進は、多様な環境と集団から得られた強固なエビデンスによって裏付けられています。マスキングの有効性に影響を及ぼす疫学的、環境的、マスクデザインのパラメーターに関するデータは、感染を防ぐためにいつ、どのようにマスクを使用すべきかについての洞察を与えてくれます。
呼吸器病原体による次回の流行またはパンデミックの際には、意思決定者は介入を実施する際に既存のエビデンスに頼る必要があります。質の高い研究により、地域社会でのマスクの使用はSARS-CoV-2の伝播の減少に関連することが示されており、将来の呼吸器系の脅威に対する効果的な対応の重要な要素となる可能性が高いとのことです。

Nature
Historical narratives about the COVID-19 pandemic are motivationally biased

*パンデミックへの備えや適切な政治行動に関する今後の社会的議論に資するために、SARS-CoV-2パンデミックを人々がどのように想起するかを検討した研究です。
これまでの研究では、単純に忘れるだけでなく、強い動機や現在の状況に対する固定的な認識によって想起が歪められる可能性が示唆されてきました。
11カ国にわたる4つの研究(合計n=10,776)を用いて、リスク認知、制度への信頼、予防行動の想起が、現在の評価に強く依存していることを示しました。
予防接種を受けた人も受けていない人もこのバイアスの影響を受けましたが、予防接種を受けたか受けていないかにかかわらず、予防接種を受けていることを強く認識している人は、想起の歪みがより大きく、特に正反対の歪みを示す傾向がありました。
偏った想起は、一般的な想起エラーに関する情報の提供や、正確な想起に対する少額の金銭的インセンティブでは減少しませんでしたが、高額のインセンティブでは部分的に減少しました。このように、動機づけとアイデンティティは、過去の記憶が歪められる方向に影響を与えるようでした。偏った想起はさらに、過去の政治的行動の評価や、将来のパンデミック時に規制を守る、政治家や科学者を罰するなどの将来の行動意図と関連していました。
以上の結果から、COVID-19パンデミックに関する歴史的な語りは動機づけに偏りがあり、社会の偏向を維持し、将来のパンデミックへの備えにも影響を及ぼすことが示されました。その結果、今後の対策は、公衆衛生への直接的な影響だけでなく、社会の結束と信頼に対する長期的な影響にも目を向ける必要があるとのことです。

Aerosol delivery of SARS-CoV-2 human monoclonal antibodies in macaques limits viral replication and lung pathology

*重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)デルタ株を鼻腔内および気管内投与したアカゲザルの感染と発病を予防するためのエアロゾルmAb投与の有効性を検討した研究です。SARS-CoV-2ヒトmAbまたは呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に対するヒトmAbをネブライザーで噴霧し、フェイスマスクによる陽圧気流を用いて、感染前および感染後の鎮静化したアカゲザル22匹に投与しました。ネブライザーで噴霧したヒトmAbは、鼻腔、口腔咽頭、気管支肺胞洗浄(BAL)サンプルで検出可能でした。SARS-CoV-2 mAbの投与により、上気道および下気道におけるSARS-CoV-2ウイルスRNAおよび感染性ウイルスのレベルは対照と比較して有意に減少しました。また、肺およびBALのウイルスレベルの減少は、BALの炎症性サイトカインおよび肺病理の減少に対応していました。SARS-CoV-2に対するエアロゾル化抗体療法は、ウイルス負荷の軽減と重症度の抑制に有効であると考えられる。

2) 治療薬、 ワクチン関連       
国内     

海外     

治療薬      

3)診断・検査、サーベイランス関連
変異株     

Long COVID

国内        
全国のコロナ感染者、8週連続減 インフルは1.20倍に増加
https://digital.asahi.com/articles/ASRC6533DRC6UTFL006.html?iref=pc_special_coronavirus_top
*「10月29日までの1週間に定点医療機関に報告された新規入院患者数は1074人だった。前週の1145人から71人減った。集中治療室(ICU)に入院している患者数は40人で、前週の41人から1人減った。
入院者数と重症者数の週1回の報告は、すべての医療機関からではなく、全国約500カ所(ベッド数300床以上)の医療機関からの「基幹定点報告」に切り替わっている。原則として季節性インフルエンザと同じ医療機関からの報告となる。
一方、季節性インフルエンザは、前週の約1・20倍の19・68人で、東京、千葉、沖縄をのぞく44道府県で前週から増加した。42都道府県で注意報レベルの「10人」を超えた。昨冬からの流行が続いており、例年より患者が多い状態で推移している。前年同時期は0・03人だった。休校や学年・学級閉鎖は全国で計4706校にのぼり、前週の3751校から約1・25倍に増えた。」

猛威インフル、年末ピークか 専門家「例年より大規模に」―コロナと同時流行も
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023110500244&g=cov
*「厚生労働省はインフルエンザについて、全国約5000の定点医療機関を受診した患者数を集計している。新型コロナ出現後は目立った拡大はなかったが、昨年12月下旬には患者数が1機関当たり「1人」を超え、3年ぶりに流行入りした。
 厚労省によると、今年10月22日までの1週間に報告された患者数は同16.41人。前週比1.48倍で、注意報の基準(10人)を2週連続で超えた。都道府県別では愛媛が最多39.90人で警報の基準(30人)を上回り、千葉29.39人、埼玉28.41人、福島27.09人、兵庫23.36人が続く。
休校や学年閉鎖、学級閉鎖となった小中学校などは前週比2倍超の3751施設。入院患者届け出数も幼児や高齢者を中心に増え続けている。
今季は昨年からの流行が春夏を経ても続く異例の事態となっている。流行が長期間なかったことによる免疫低下や人の往来増が要因とされる。
流行のピークは例年1~2月だが、東京医科大の浜田篤郎特任教授(渡航医学)は「予測の参考となる米国の状況から考えると、今季は年末ごろにピークを迎えるのでは」と話す。国内患者数は例年推計1000万~1500万人程度だが、浜田氏は「人々の免疫が低下しており、今季はもっと大規模になる恐れがある」と警鐘を鳴らす。」

コロナ禍後の子どもの感染症
ーなぜ流行するの?なぜ検査してくれないの?ー
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.med.or.jp/dl-med/people/plaza/571.pdf
*日本医師会よりの依頼にて、健康プラザに寄稿した拙稿です。
免疫負債等に触れていますが、まさに現在のインフル猛威等がこれに該当するかもしれません。


海外       

4)対策関連
国内      

海外       

5)社会・経済関連     
コロナワクチン接種後死亡1年 不十分対応招いた現場任せ=加藤沙波(中部報道センター)
https://mainichi.jp/articles/20231103/ddm/005/070/004000c
*「そして今年9月26日、特に重いアナフィラキシーを起こしていた可能性が高いとする報告書を公表。早期に治療薬を投与していれば、「救命できた可能性は否定できない」とした。現場ではアナフィラキシーを疑った看護師もいたが、医師はそうとは考えず、治療薬を投与しなかった。
本来は医療機関ではない接種会場で起きた事案の特殊性も浮き彫りにした。当日の医師や看護師は、市が委託契約した地元医師会などから派遣された人たちで、経歴もさまざまだった。しかし、接種開始前に集まって打ち合わせを行い、患者の容体が急変した場合の対応などを確認することはなかったという。
こうした点について報告書は、全国共通のガイドラインがなく、各自治体や現場に判断が委ねられていたと指摘する。「医療者が各自でマニュアルなどで事前学習」をしておくのが前提で、「専門職の裁量において対応可能と考えられていた」とした。」

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