【農】堆肥とは
概要
堆肥とは
堆肥(たいひ)とは、易分解性有機物が微生物によって完全に分解された肥料あるいは土壌改良剤のこと。有機資材(有機肥料)と同義で用いられる場合もあるが、有機資材は易分解性有機物が未分解の有機物残渣も含むのに対し、堆肥は易分解性有機物が完全に分解したものを指す。
市販されている堆肥
バーク堆肥(植物質)
バークとは、樹皮のことです。
保水力、保水力が高いのが特徴で、砂質土壌などの水抜けが激しく、養分の流亡が多い農地の土壌改良に向きます。また、この性質を生かして、果樹や庭木のマルチとしても活用されています。籾殻堆肥(植物質)
玄米を守る硬い殻。分解されにくく、ケイ酸分が多量に含まれています。
水分を保ちにくく、独特の舟形を長く維持して土に隙間をつくるので、土壌の通気性をよくする効果が高いのも特徴です。また保温力もあり、越冬用のマルチとしても利用されています。腐葉土(植物質)
クヌギやナラなどの落葉広葉樹の落ち葉を堆積して腐らせたものです。針葉樹の葉は、生育阻害物質を含むことが多いうえ、腐りにくいのであまり使われません。バークと同様、保水性・保肥性も高いです。
土壌改良に使われるほか、米ぬかや畜糞などを加えて踏み込み温床にも活用された後、有機質の育苗培土として用いられることもあります。牛糞堆肥(動物質)
他の畜種と比べると粗飼料を多く食べるうえ、敷料とともに堆肥化されます。そのため、他の家畜ふんより肥料成分含量が低く、繊維質が多いのが特徴です。
肥料成分が少なく、非常にゆっくりと効くため、主に土壌改良資材の効果があります。馬糞堆肥(動物質)
粗飼料をたくさん与えるうえ、咀嚼もあまりしないので糞は有機物が多いです。このため土壌改良に適しています。豚糞堆肥(動物質)
単体ではなく、敷料とともに堆肥化されます。家畜ふんのなかでは比較的分解が速く、牛ふんより肥効が出やすいのが特徴。肥料成分の量を見ても、鶏ふんと牛ふんの中間の性質を持つと言えますが、相対的にカリウムが少ない。
牛ふんや鶏ふんよりも入手先が絞られますが、土壌改良効果と肥料効果があります。醗酵鶏糞(動物質)
栄養素が豊富で即効性があります。値段が安く肥料分がほどよく入っていて特にカルシウムが多いのが特徴です。ただし、採卵鶏は硬い卵を作るためにエサにカキ殻などの石灰分を多く入れるのでカルシウムが多く、ブロイラーはそれよりも少なめです。他の畜ふん堆肥よりも成分量が多いため、土壌改良というよりは、有機質肥料としての使い方が多くされています。バットグアノ(動物質)
バットグアノ(bat guano)は蝙蝠の糞です。には植物の栄養となる肥料成分が含まれていますが、含有量が多い主要な成分は リン酸・腐植酸・石灰です。
堆肥の効用
堆肥には、次の3つの効用があるといわれています。
土壌物理性の改善
微生物は、団粒構造をつくり、堆肥中の粗大有機物と併せて通気性や排水性など、土壌の物理性を改善を目的とします。肥料成分の吸着
腐熟した堆肥には腐植に似た物質が含まれ、カルシウム、マグネシウム、カリウムといった栄養素を吸着・保持し、供給する機能(陽イオン交換容量)を増加させます。病害菌を抑制
多様な微生物相を維持し、病害菌の急激な増殖を抑制する効果がある。
堆肥ができるまで
堆肥の材料
堆肥原料の多くは、落ち葉、稲わら、籾殻といった植物由来の粗大性有機物です。また、家畜糞尿も、草食動物が食した植物が腸内で消化されず排出されたものも食物。鶏糞や豚糞は動物性タンパク質が含まれていると考えます。
また、廃棄されるおからや米糠などの再利用としても注目されているようです。堆肥とC/N比
C/N比(炭素率)とは有機物に含まれる窒素に対する炭素の割合を示す数値です。微生物は、有機物に含まれる炭素(炭酸ガス)をエネルギー源として、また窒素をタンパク源として利用し増殖します。
そして、この微生物が生存と増殖を繰り返すことで、窒素や炭素を消耗することでC/N比が低下します。つまり堆肥化とは、C/N比を下げていくことを意味しています。堆肥づくりに必要な条件
有機物の分解には微生物の増殖が欠かせません。窒素が必要です。
稲わらなどC/N比の高い(炭素の多い)有機物は分解の過程で窒素を消費します。しかし、有機物自体で窒素をまかなえない場合は、土壌の窒素も利用します。その結果、作物が吸収するはずの窒素が稲わらの分解に利用され生育が阻害されます。これが窒素飢餓です。
窒素飢餓を起こさないためには、窒素を多く含む牛糞や豚ぷんなどの窒素肥料を補う必要があります。また、堆肥の発酵には適切な水分が重要で、水分の多い牛糞や豚ぷんなどを材料とする場合には、バークやおがくずなどで水分を調整し、通気性を良くし、発酵を促します。有機物の分解プロセス
発酵(分解)が始まると、はじめに分解しやすい糖やアミノ酸、デンプンから分解が進み、タンパク質など細胞内部に存在する物質が糸状菌や好気性細菌によって分解され、その呼吸熱によって発熱が起こります。次に植物細胞壁の成分であるペクチンの分解が始まります。
その後、糸状菌は50~60度以上になると生息しにくくなり、高温性で好気性の放線菌が増殖してきます。
そして、糸状菌が分解できなかったセルロースを放線菌が分解することで、分解しにくい繊維質などの分解が進みます。
最後に、放線菌の食べるエサがなくなると温度がゆっくり下がり、最も分解しにくいリグニンの分解が始まります。
このときに、さまざまな微生物が繁殖しはじめ、堆肥として利用できるようになります(図1)。
有機物のC/N比
肉片、鶏ふん、酒かす、油かす、おから
C/N比 5~10豚ぷん、牛ふん、米ぬか
C/N比 10~25稲わら、籾がら、麦わら、剪定枝
C/N比 60~80竹 C/N比 280
おがくず
C/N比 150~1000樹皮、バーク C/N比 100~1300
良い堆肥をつくるために
温度管理と水分管理がポイント
発酵中の堆肥温度上昇は、雑草の種子や家畜由来の病原菌を死滅させる効果がありますが、発酵温度が80度以上の高温状態では、堆肥材料のなかでも分解しやすい成分だけが分解され、高温に強い微生物と難分解性の有機物が残ります。
そして、本来なら、堆肥中に残る窒素成分が高温によりアンモニアとなって大気中に放出されるため、効用の低い堆肥になります。
このような状況を避けるために堆肥の切り返しを行い、堆肥温度の余分な上昇を避け、水分を適切に保ち、発酵を促進させることが良い堆肥をつくるポイントです(図2)。水分が多すぎると温度が上がらず、腐敗の原因となり、悪臭が発生します。
微生物による発酵の温度は水分が少ないほど上がりやすいのですが、水分が少なすぎると急速に高温になり、1.で述べたようにアンモニアが揮散して窒素が減少します。投入は微生物層が多様になってから前述のように、堆肥化の過程では各過程に対応した分解菌が増殖します。そして増殖と消滅を繰り返しながら、最後には、多様な微生物相が形成されます。
しかし、分解途中の未熟な堆肥は、有機物分解にすぐれた特定の微生物だけが増殖し、微生物相が単純なものになり、植物に悪影響を及ぼすことがあります。
未熟な堆肥が危険な理由
(図3)は植物の細胞壁を表したモデルです。
細胞壁を建造物に例えると、セルロースが壁を形づくる鉄筋で、ペクチンはその間に充てんされているコンクリートの役割を担っています。
未熟な有機物を投入してすぐに播種や定植を行うと、幼苗に立枯れが発生することがあります。
これは、堆肥の分解途中でペクチン(細胞壁)分解菌が増殖し、幼苗の柔らかな細胞壁を溶かし、病原菌が植物に侵入したために起こる障害です。
堆肥はペクチン分解菌の増殖が完了した「完熟」以降に施用しなければ危険です。
以上のように、堆肥は熟成度合いが重要です。
コストパフォーマンス
堆肥を使う立場では、堆肥の肥料成分や土壌改良効果、安全性、価格や入手面のコストが重視され、堆肥に期待する効果が肥料成分の供給か土壌改良(土壌の物理性の改良)かによっても異なる。廃棄されるものを再利用する事で食品ロスを軽減することも含め環境問題に貢献する堆肥が良い品質と言えると考えます。
文献
YANMAR公式サイト
「土づくりのススメ - 深掘!土づくり考 Vol.3 堆肥ができるまで」岡山県「よい堆肥とは」
Wikipedia「堆肥」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?