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【文献】カオスに関連する研究文献をざっと読んだのでシェア2

前回に引き続き第2弾です.今回は「カオス」について比較的最新の論文を読みました.

google scholarで無料で読めるものを集めてます.

音声信号に定義するカオス論的な特徴量の性質

福井医療大学の塩見格一さんの学会原稿資料より.

この研究ではヒトの声から心身状態を推定することを行っています.
生体信号は面白いですね.脳波や脈波だけではなく,ヒトの音声信号もやはり重要な指標になり得るのですね.

声の解析にカオス論を導入していることも面白いポイントなのですが,この研究のすごいところはものすごい数の実験データを揃えていることです.

著者は1998年から実験と解析を繰り返しているそうなのですが,自前でとったデータのみならず,国立情報学研究所の提供する音声データなども扱っているようです.

朝,昼,夜の音声データを集計して著者独自のカオス解析を行うと以下の解析結果になったようです.

横軸は,著者が定義するカオス解析を当てはめた結果で,朝の方が昼と夜よりも右側に振られています.

つまり朝の方が覚醒度が高いようなことを示唆しています.昼や夜は覚醒度が落ち,やはり人間たるものは疲れるのでしょうな.

この結果から人間は朝ぱっと仕事をして,昼にはお家に帰って明日に備えるということが一番効率の働き方っていうことでしょうか?

一日4時間,朝で仕事を終わらせられれば幸せですね


指尖脈波に現れる思考リズム

桜美林大学の前田優輔さん,鈴木平さんの研究論文です.

こちらは指尖の脈波から思考を推定するためにカオス解析をしています.最近この手の論文多いですね.お約束の最大リアプノフ指数とKSエントロピーで評価です.

序論の方では生体システムについて詳しく書かれており楽しく読ませていただきました.

劉・鈴木(1997)は幼児・成人・高齢者それぞれの安静時における心拍時系列データから最大リアプノフ指数とリアプノフ次元,KSエントロピーの算出を行ったところいずれも幼児の方が高く加齢に伴って減少することを報告している.また,田原(1995)は指尖脈波のアトラクターから,疲労時,被ストレス時,不健康時,老化によってアトラクターが単純化し,カオスの複雑さが低下していたことを明らかにしている.雄山(2012)は最大リアプノフ指数の値が大きいほどアトラクターの変動は大きく,ゆらぎの幅が大きいと述べている.その上で,健常者の方がうつ病患者と比べて指尖脈波から得られた最大リアプノフ指数の値が高く,アトラクターの変動幅も大きかったとしている.これらのことから,一定値を刻み続けるのではなく,ゆらぎが含まれている変化の方が「生きているシステム」にとっては健康的で適応的な状態であると考えることができる。

「生体のシステム」が健康的な場合カオス的な振る舞いをすると考えている理論が,きちんと先行研究の結果と裏付けて説明されているのがすごく読みやすいです.

また,その先行研究で使用される指尖脈波と同じ生体信号を使って,問題課題を解決する際の思考リズムの変化を解析するということをしてます.

以下は論文から引用した最大リアプノフ指数(LLE)の結果です.

上の結果より,単純な計算をしているときはLLEは低く複雑なクイズをしている時のLLEは増加してます.

なんとなく,おいら的にはストレスが上がり計測した脈波の振動振幅が大きくなったり周期が短くなったりしたのではないかな〜と予想しているのですが,実験データの記載がないのでなんとも言えません.

つまり複雑性ではなく波形の単純な強度に依存している可能性があるのかな〜とか思ったりしますが,イントロはすごい説得力があるので皆さんも読んでみて下さい.おいらもいつか脳波を使って同じ実験系を組んで試してみます.

深層学習が示唆する end-to-end 強化学習に基づく機能創発アプローチの重要性と思考の創発に向けたカオスニューラルネットを用いた新しい強化学習

大分大学の柴田克成さんと後藤祐樹さんの研究論文です.

この論文ではカオスを使った新しい強化学習方法を提案してます.

人工知能も第3の波が来て,今では画像識別や音声認識で圧倒的な正答率を叩き出し,囲碁では韓国の李世ドルが負け一世を風靡しましたね.

今度はカオスの学習で第4の波がくるかもしれません.

それこそ人間のような生体システムを模倣するようなゆらぎ(=非線形性)を取り入れた人工知能ができる可能性が来ているのです.

この論文では思考経路を決定する内部パラメータの探索にカオスダイナミクスを取り入れているのが特徴です.いやー面白い発想ですね.

このオリジナル強化学習を経て,障害物を避ける車輪ロボットの移動軌跡はこちらです.

どこのスタート地点から出発しても,紫の一際大きい円を軽々と避けてゴールへとたどり着いているのが確認できます.

恐るべし,カオス的な人工知能!笑

おいらも人工知能に将来,仕事を奪われないように研究頑張ります.


カオス性を持つヒト脳波の非線形ダイナミクスに着目した解析手法の提案.

おいらも査読論文(日本語)書きました.

2018年7月22日に早期公開されました.わーい

カオス解析ですが,リアプノフ指数や相関次元を全否定して非線形振動子によるモデル化を行っています!

ぜひお時間あれば読んでみて下さい笑

ではこれにて〜!

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上原賢祐@カオス研究者
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