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AKIRAの力について ~AKIRAとは「流れ」である

名作漫画「AKIRA」についての私見です。
難解で知られる本作ですが、個人的に理解しているところを書いてみます。

「AKIRA」の最大の謎は、AKIRAの力とは何なのか?です。
一般的には原爆、あるいはそれ以上の破壊兵器のことだと言われていますが、個人的にはあまり腑に落ちません。

結論から言うと、AKIRAの力とは「流れ」です。
一方、哲雄の力は「点の力」と言うことができます。
この「流れ」と「点」という視点で漫画「AKIRA」を読み解くと、個人的にはすとんと腑に落ちてきます。

「流れ」と「点」

まず一旦作品を置いておき、力について考えてみましょう。
物理的な力として、仮に原爆が最強だとします。
この原爆そのものは「点」の力です。
それ自体はとてつもなく強いものですが、この力は突然現れたのではありません。
人類が誕生し、文明を構築し、化学を生み、その化学の到達点が原爆ということになります。
もっと言えば、人類が生まれる前の歴史や時間、さらには地球が生まれる前の時間も「流れ」として存在していますよね。

ここで原爆の力に対し、ふたつの概念が生まれます。

1、「流れ」を内包した力としての原爆
2、それ自体の力としての原爆

1がAKIRAの力、2が哲雄の力です。
表面的な威力は仮に同じ程度だったとしても、中身が全然違います。
以下、「流れ」を内包した力としてのAKIRAの特徴と、「点」の力としての哲雄の特徴を比較してみましょう。

AKIRAの特徴

AKIRAの力が「流れ」の力である証拠は、金田がAKIRAに取り込まれたときの表現を見れば分かります。
AKIRAに取り込まれた金田は、自身の過去と対面します。
AKIRAは「流れ」なので、当然金田のこれまでの人生も含んでいます。
金田はさらにそこから人類の歴史のようなものを体験します。
これもAKIRAに内包されている「流れ」です。
AKIRAには人類はもちろん、宇宙の始まりからの「流れ」全てが詰まっているので、どんな力を持ってしても絶対に敵いません。
それが、AKIRAが「絶対の力」と呼ばれる所以です。

また、AKIRAが力を発動した後、必ずその先の「再生」が描かれます。
これは、原爆という人類が到達した最強の破壊兵器を日本に対して使用した後に、日本が再生し、さらには人類がこの兵器をなんとかコントロールしようとしてきた「流れ」と似ています。

哲雄の力

さて、哲雄はAKIRAに触発されて強大な力を得ます。
しかし彼の中には「流れ」はありません。
偶発的に生まれた「点」の力です。
ですからAKIRAとはそもそも比較にすらなりません。
また、哲雄の力(というか哲雄そのもの)はコントロールが利かないという特徴があります。
「流れ」を持っていない力は、単なる力そのものでしかなく、その力自体に意志や目的が存在せず、歴史もないので経験や教訓から学んだり、未来を想像することもできません。
ただただ力そのものが発動するだけです。
それが哲雄のなれの果てです。
また、哲雄の力に対しては「再生」が付随しません。
そこにはただただ破壊と殺戮があるのみです。
強いて言えば金田の友情が最後までつきまといますが、結局それも虚しく哲雄はAKIRAに取り込まれてしまいました。
これは、「流れ」(歴史、教訓)のない力の醜さ、孤独、破滅を暗示しています。

AKIRAのさらなる謎

以上が僕のAKIRAに対する私見ですが、さらなる謎が存在します。
ひとつはAKIRAの「流れ」には未来も含まれるのか?
上記のように、AKIRAの力にはその力に到達するまでの宇宙の「流れ」が内包されているというのが僕の解釈ですが、ではその力の先にある「流れ」をAKIRAは持っているのか?
ここは謎です。
もう一つの謎は、AKIRAに取り込まれるとどうなるのか?です。
劇場版ではAKIRAの中に取り込まれるともう出て来られなくなるという台詞がありますが、それはどういうことなのか?
本人が歴史の一部になるということなのか、それとも単にこの世から消滅するということなのか……
この辺は大友先生も特に答えを用意しているわけではないと思いますが。

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