実話怪談「点滴」
これから話すお話は、僕の身に実際に起こった出来事をそのまま述べた実話怪談です。
無断転載は固くお断りします。
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関西の実家から今の横浜のマンションに引っ越しを済ませると、すぐに僕は近所の散策を開始しました。
スーパーはどこを使えばいいか、コンビニはどこにあるのか、郵便局はどこか……。
そうして裏道などを開拓していくうちに、ある病院を発見しました。
家からも近いし、見たところ立派な総合病院です。
『こんなところに病院があるのか。じゃあ何かあったらここに駆け込んで点滴でも打ってもらおう!』
そう思ったのをはっきりと覚えています。
その後、特に病気や怪我をすることもなく数年が過ぎました。
しかしある時、無茶なダイエットをしたせいで体調に異変をきたしてしまいました。
体力の低下、目眩、吐き気、倦怠感、不安感などに襲われ、日常生活もままならない状態となってしまいました。
自宅仕事だったことが幸いし、なんとか生活はできていました。
ただ不思議なことに、そんなぎりぎりの状況でもなぜか病院には一度も行かず、病院で診てもらうという選択肢すら頭に一度も浮かびませんでした。
食事が原因だとは分かっていたので、独学で栄養学を学び、生活習慣を改善し、 徐々に体調は回復していきました。
完治するまでに数年はかかりましたが。
さて、体調もすっかりよくなってきたある日、近所に出かけると、なにやらいつもと街の様子が違っていました。
見たこともない、アンテナを沢山積んだバンが何台も停まっていたり、どう見ても地元住民ではない人たちを何人も見かけました。
そして、たまたま病院の近くを通ると、異様な光景に驚きました。
何十台というカメラが道路を挟んで病院の方を向いています。
明らかに何か重大な出来事があった様子です。
ここまでマスコミが押し寄せてきているなら、確実に報道されるだろう。
このときはまだ『有名人がお忍びで入院でもしていたのをすっぱ抜かれたのかな?』などと悠長なことを考えていました。
その日はいつもより注意深くニュースをチェックしました。
すると、夕方の報道番組で見覚えのある病院の映像と共に、驚くべきニュースが流れてきました。
横浜の病院で、看護師が末期の患者の点滴に異物を混入し、次々と殺害した事件を覚えている人もいると思います。
そう、この病院こそ僕が『何かあったら点滴でも打ちにいこう』と思っていた近所の病院だったのです。
そこの病院で、正に点滴に異物を混入して患者を殺害するという事件が発生していたのです。
僕はゾっとすると共に、不思議な感覚に襲われました。
既に述べた通り、引っ越してからすぐこの病院を知り、何かあったら駆け込もうと決めていたのに、その何か(体調不良)があっても一度も行かなかったばかりか、その病院の存在すら頭から完全に消えていました。
もちろん結果的にそれで良かったのですが、それにしてもなぜでしょう???
横浜に引っ越してくる直前まで、知り合いに霊能者がいました。
インチキではなく、ほんまもんのガチの人です。
その人はボランティアでお祓いなどもしており、ちゃんと聞いたわけではありませんが、そっち系の修行も積んだようです(滋賀なので、たぶん比叡山でしょう)。
また、世間的には霊能者であることを隠し、僕を含めた近しい人にだけアドバイスや除霊などを行っていました。
報酬などは基本的にもらっていないようでした。
あるときその人から、「お前はご先祖様が強力に護ってくれている」と言われ、そのときは『ふ~ん』としか思っていませんでしたが、今思えば僕が体調を崩して苦しんでいるときに、ご先祖様が『あそこの病院は行くな! あそこはヤバいぞ!』と必死に止めてくれていたんだと思います。
そうとでも考えないとつじつまが合いません。
もしそうでなかったら、体調を崩した僕はその病院で点滴を打ち、殺人看護師の餌食になっていたかもしれません……