道尾秀介『満月の泥枕』を読みました。
「好きな作家は、伊坂幸太郎さんと道尾秀介さんです。」
本の話をするときは、いつも、そう、言っています。
このお二方の文庫がでると、「買い」です。いわゆる、作家買いをしてます。それくらい好きです。
今回は、20年8月20日に文庫化された『満月の泥枕』の感想と、
道尾秀介作品の好きなところを綴ります。
あらすじ
姪の汐子と下町で暮らす凸貝二美男は、泥酔した公園で奇妙な光景を目撃する。白髪の老人、叫び声、水音、歩き去る男。後日訪ねてきた謎の少年は、二美男が見たのは「自分の伯父が祖父を殺した」現場だと言う。遺体の捜索を依頼された二美男は、汐子や貧乏アパートの仲間と共にとんでもない事態に巻き込まれていく―。人生に悩み迷う時、背中を押してくれる傑作長編。
(「BOOK」データベースより)
高校生の時に、『向日葵の咲かない夏』を読んで、衝撃を受けたことをよく覚えています。小説の中でしか起こらないことがあって、「えっ!、え!」って、「それってありなの!」って、「これ考えた人すごい!」って、なりました。
その後、他の作品を読んで、しっかり、ファンになりました。
①好きなところ「主要登場人物の造詣が深い」
「心の闇」のような部分を描いていているところです。
どの作品の主人公も、「いつも生きることに戸惑っている」と感じる描写があります。詳細は作品ごとに違ってきますが、何かしらのハンデや、喪失があり、一種のコンプレックスが動機につながる展開があるのです。
勇猛果敢な主人公ではなく、弱い部分をしっかり書き、コンプレックスのある「通行人C」を主人公として描くところが好きです。
ので、小説全体の雰囲気として、暗いものが多いです。
その暗さが、逆に人間味があって、ミステリーだけど、人にも惹かれてしまいます。
心の闇でいえば、「龍神の雨」が印象に残っています。
②好きなところ「バランスの良いトリック」
ミステリーものでは、トリック重視で、動機部分はあまり書かれないことが多々あります。が、道尾作品では、「トリックの謎が解けるキレ」「動機」「伏線の張り方」「小説全体の引き込ませ方」など、どの要素もレベルが高く、ミステリーとしての満足度が高いです。
「嘘がうまい作家さん」という印象を持っています。
「嘘」というものも分解すると、「思いこむこと」と「思いこませようとすること」という2要素で成り立ちます。
道尾作品のミステリーでは、この2要素の描き方が非常にうまいです。
セリフや行動、周りの状態と嘘が自然と混ざり、謎が際立っているように思います。
登場人物ですら、「思い違いをしていることに気づいていない」場合もあり、読者も登場人物も、どちらも嘘に巻き込まれているような感覚が好きです。
嘘でいうと、『カラスの親指』が印象に残っています。
『満月の泥枕』の感想
暗い話が多い作家さんですが、本書は、コメディ的なタッチでした。
道尾作品の中でも、とっつきやすい部類だと思います。幼い子どもを失って荒れ暮れた経験を持つ人物が主人公で、「あぁ、道尾作品だぁー」って思いました。
本書で、面白かったポイントは、山場が2回あるところです。
帯に書いてある「池に沈む死体を手に入れるため、えっ、夏祭りを乗っ取る!?」ともうひとつ、山場があります。
謎が謎を呼び、盛り上がりが再度あるという、1冊で2冊分を楽しめます。
また、細部もすごいです。
「~中略~将玄が大人になってもよくレゴをいじっていたという話を思い出した。いったいレゴでどんなものをつくっていたのだろう。なんとなく、ロケットや、戦車や、ロボットといった、本人の日常からかけ離れたものだったのではないかという気がした。」(p379)
このように、登場人物の目線で、一歩踏み出して「書き込んでくる」文がプロの力なのかなって思いました。
バタバタした展開とうまい嘘が作品を魅力的にしたいたと思いました。
とても楽しめた読書体験でした。
最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。