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Vol.29 ルールの海に溺れたら、ビジョンドリブンで考える

前回、再発防止至上主義で「なぜなぜ分析」を使うと、対症療法としてのルールを量産してしまうという話を書きました。
私がいた部門でも、数えきれないルールや手順書がありました。
安全が重要な業務だったので軽視はできないのですが、何百もあると把握することが不可能になります。まさにルールの海に溺れた状態です。
でも大昔からずっとそのようなやり方で今まできたので、違和感を持っている人がほとんどいませんでした。

これは簡単に解決する問題ではないのですが、少なくとも今が良くないという違和感を持たないと、永久に改善しません
そこで今回は、この問題についてビジョンドリブンで考えてみます。
なお、本稿では、簡略化のため、手順書もルールに含めます。


何百ものルールは印籠にしかならない

ビジョンを考える前に、何が悪いのかを理解しなければなりません。
多すぎるルールは、どういったことを引き起こすのでしょうか。
これはここ数回で書いてきた「想像力の欠如」に関わる話でもあります。
ルールを守らせる側(管理者)と、守る側(作業者)の両方の視点で想像するとすぐに分かります。

管理者にとっては便利な道具

ルールは管理者側にとっては何かと便利です。
何か問題が発生すると、該当するルールを探し出してきて、
「ほら、ここにルールがあるでしょ。なぜ守らない?」
と言えます。まさに水戸黄門の印籠です。

作業者の苦難

一方、作業者側が全てのルールを守るのは簡単ではありません。
普段の作業のひとつひとつに対して、まずルールがあるのかを確認して、あればそれを参照する、という手順で動かねばならないのです。
そんなことは実質不可能です。

問題の本質

何が問題か分かりますでしょうか。
それは、管理者は覚えていなくても行使できるということです。
発生した事象に対してルールを検索して、あれば引っぱり出せば済むのです。そして、ルールがなければ新たに追加します。
こうして印籠がどんどん肥大化しても、困ることはありません。

一方、作業者は、全てのルールを覚えていないと守れないのです。
さもなくば、作業をする前に全てルールがあるか調べなければなりません。どの粒度で調べないといけないのかもわかっていないといけません。

事例

古参社員はまだ良いです。変なルールも逆に覚えていたりします。
でもキャリア入社の社員は違います。そういう社員が増えている会社だとどうでしょうか。

「○○装置の使い方」というような、明らかに見た方が良いものなら問題ありません。むしろ助かります。

でも「半田ごてを使う際には手袋を装着する」という、(過去に半田ごてで火傷をした人がいて作られた)予想外のルールの存在に気づくでしょうか。

まさか「カッターナイフの使い方」という手順書があるとは夢にも思わず、カッターナイフで怪我をし、印籠を突き付けられたらどうしましょうか。

「脚立は3段以下しか使わない、最上段には登らない、2人で作業し1人は支える」のような、細かいルールに簡単にたどり着くでしょうか。

これらは冗談ではなく、実際にある話です。
このようなルールは、事故が起こった後に使う印籠にしかなりません。
これが再発防止至上主義が行きついた先なのです。

ビジョンドリブンで考える

この状況を打破するために、ビジョンドリブンが活用できます。
ビジョンすなわちありたい姿を明確に描き、現状とのギャップを把握し、ギャップを少しずつ埋めてゆくのです。
まずは今が良くないことを理解しているのが重要で、その上で、立ち止まらず、理想に向かって改善を継続するのです。

経営姿勢

とはいえ、これまでも書いてきた通り、現場の社員は本業が忙しくてそれどころではありません。
そもそも、凝り固まった組織の責任は社員にはなく、経営責任です。
改革を推進するには、経営層がこれを認めた上で、謙虚かつ明確な姿勢を示す必要があります。この点は忘れてはなりません。

具体策の考え方

動き始めさえすれば具体的な解決策はたくさんあります。
優秀な人たちが考えてくれます。参考になる手段も世にあふれています。

「カイゼン」が定着している企業では日常のことです。ルールを作る前に根本原因を排除することを考えています。

DXによる効率化は、そもそも余計な作業を減らします。また、覚える価値がない手順をフローにするなど、ルールを激減させます。
残るルールも、QRコードで探す手間を省いたり動画で分かりやすく説明したりと、できることはいくらでもあります。

車の自動運転は、ルールを覚える必要がなくなる事例です。完全に自動化すれば、交通ルールを自動的に守ってくれます。

判断基準と優先順位を徹底するディズニーの経営手法も参考になります。細々としたルールを作らなくても、「安全」を最優先し、徹底することで、神対応を量産しています。

こういった取り組みを継続することで、自然に働きやすい職場になり、業務効率が上がり、社員のモチベーションが上がり、生産性が上がり、業績が上がることは想像に難くありません。

まとめ

以上のように、ビジョンドリブンは会社を変える原動力になります。
そのためにも経営姿勢が本当に大切です。なので、最後に少し補足します。
例えば安全に特化して、以下のことを徹底したらどうなるでしょうか。

「この会社はとにかく安全を最優先しています。
自分の作業が少しでも不安全と感じたら、遠慮なく近くの人に手伝いをお願いしてください。知らない人であっても声をかけてください。
それをせずに事故が起こった時の悲劇を想像してください。
また、近くの人が不安全な状態だと感じたら、遠慮なく声をかけてください。知らない人であっても、助けてあげてください。
それをせずに事故が起こった時の悲劇を想像してください。
そのためにも、自分しかいない場所での一人作業を避けてください。
一人作業で事故が起こった時の悲劇を想像してください。
この会社では、安全なくして事業はありません。
全ての業務で安全を最優先し、危険があれば安全にする方法を考え、提案し、行動してください。それを歓迎し、評価します。」

これはビジョンドリブンのビジョン(ありたい姿)ととることもできますし、最優先の判断基準とみることもできます。
そしてこれがディズニーの経営のレベルで浸透していれば、半田ごてやカッターナイフ、脚立など、個々のルールを作り続けるよりも遥かに効果があると思うのです。
さらにこの本質を理解してこそ、風土改革は順調に進むのではないでしょうか。

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