見出し画像

卒業論文

財政とスポーツ産業の可能性
~スポーツDXの観点から考えるスポーツの未来~


要約

 今、日本の財政状況は、令和4年度の財務省ホームページより、一般会計歳入では税収が約6割を占めており、残りのほとんどが公債金で支えられている。また、令和4年度には一般会計歳出が約107.6兆円に対して、一般会計税収が65.2兆円と大きな差が生まれており、この差額を建設公債や特例公債などの借金によって賄われているのである。このように、日本は長期にわたって財政赤字が続いており、財源確保が迫られていると言えるのである。その上で、本研究では今後どのようにして財源確保を行っていくのかについて考えた時、その一つの方法としてスポーツ産業に注目した。日本と世界のスポーツにおける市場規模を比較すると、20年前は差が小さかったのに対し、現在では5倍近くもの差が生じている。また、世界のプロチームとの収入比較をした場合も、同様に大きな差があり、日本のスポーツ産業はまだまだ発展途上であると考え、スポーツ産業が財源確保の1つとして機能するのかという点に焦点を当てる。そして、その中でも近年注目が集まっているスポーツDXの可能性に関して、今後のスポーツ産業を支えていく収益源として考える上で、課題となってくるのが、市場規模が国内に留まっているということである。日本と世界のスポーツビジネスの売上高が10倍以上も違うのは、グローバル展開ができているかどうかによるものであり、日本国内では人気の高いスポーツであっても、地球規模でファンを獲得する段階には至っていなければ、その分、市場は小規模になってしまう。しかし、このような課題を改善していく一つの手立てとして、スポーツDXの幅が広がり、多くの人々に影響を及ぼすことができるスポーツ・ベッティングが最も効果的であり、財源確保の実現性が高いと考える。このように、日本の財政状況及びスポーツ産業の現状と可能性について、スポーツDXが財源として機能するためには、収益化を図る手段を増やしていき、国内市場に留まることなくマーケットを海外に広げていくことが不可欠であると考えられる。そして、スポーツ・ベッティングが合法化され、より容易に安全なシステムが整備されれば十分財源として機能すると結論付ける。

Abstract

Currently, Japan's fiscal situation, according to the Ministry of Finance website for the Reiwa 4 fiscal year, shows that tax revenue constitutes about 60% of general account revenue, with the majority of the remainder supported by government bonds. In Reiwa 4, general account expenditures amount to approximately 107.6 trillion yen, while general account tax revenue is 65.2 trillion yen, creating a significant gap covered by borrowing through construction bonds and special bonds. Consequently, Japan has experienced a prolonged fiscal deficit, indicating the pressing need for securing financial resources. In light of this, when considering how to secure financial resources in the future, one method that this study has focused on is the sports industry. Comparing the market sizes of sports in Japan and the world, there is now nearly a five-fold difference compared to 20 years ago. Moreover, when comparing income with global professional teams, a similar significant gap exists, signifying that Japan's sports industry is still in a developmental phase. The study explores whether the sports industry can function as a source of financial stability. In particular, it highlights the potential of sports digital transformation (DX), which has garnered attention in recent years. In thinking about the future of the sports industry as a revenue source and the potential of sports DX, a key challenge is the limitation of market size to the domestic sphere. The substantial difference in revenue between Japan and the global sports business, exceeding tenfold, is attributed to the capability of global expansion. However, one effective way to address this challenge and broaden the impact of sports DX, especially as a revenue source, is through the legalization and establishment of a safe system for sports betting. This would allow sports DX to reach a wider audience and contribute significantly to financial stability.In conclusion, considering Japan's fiscal situation and the current state and potential of the sports industry, it is believed that for sports DX to function as a financial resource, it is imperative to increase methods of revenue generation and expand the market beyond domestic borders. Concluding, the study suggests that with the legalization and establishment of a secure sports betting system, sports DX can effectively function as a viable source of financial stability.




目次

序章  はじめに

 第1節 研究目的・問題意識

 第2節 仮説と研究方法

 第3節 論文の構成

第1章 現在の財政状況と政策

 第1節 金融政策の可能性

 第2節 他国との税制比較

 第3節 財政政策の取り組み方

第2章 スポーツ産業の特徴

 第1節 スポーツによる地域活性化の具体的事例

 第2節 英国プレミアリーグとの比較

第3章 スポーツDXとは

 第1節 スポーツNFTに対する認知・関心度や購入実態の資料

 第2節 スポーツDXを行う上での問題点

第4章 スポーツ・ベッティングのあり方

 第1節 スポーツ・ベッティングについて

 第2節 スポーツ・ベッティングの可能性

第5章 おわりに





序章 はじめに

 近年の日本の財政状況について整理すると、財務省ホームページより令和4年度一般会計歳出・歳入の構成として、一般会計歳入では税収が約6割を占めており、残りのほとんどが公債金で支えられている[1]。また、財務省の一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移のグラフより、昭和50年度の一般会計歳出と一般会計税収にはそれほど差がなかったののにもかかわらず、令和4年度には一般会計歳出が約107.6兆円に対して、一般会計税収が65.2兆円と大きな差が生まれており、この差額を建設公債や特例公債などの借金によって賄われているのである[2]。このようなデータより、日本は長期にわたって財政赤字が続いており、財源確保が迫られていると言えるのである。しかし、そもそも財政赤字自体が良くないものなのかということに対して疑問を抱く。財政赤字の定義とは、税収以上に政府支出をすることであり、将来の経済成長が見込めるときに生じる財政赤字は「良い」財政赤字といえる。反対に、将来の経済停滞が予想されるときに生じる財政赤字は、「悪い」財政赤字といえるのである。ここで財務省ホームページより、債務残高の国際比較のデータを見ると、アメリカやフランス、イギリスと比べ、日本ははるかに債務残高の割合が高く、平成18年から令和3年までのグラフを見ても明らかに右肩上がりになっている[3]。したがって、日本は長い間財政状況が良くなっていないことから、悪い財政赤字に陥っていると考えられるのである。

このような日本の財政の現状を踏まえた上で、今回私がスポーツ産業に着目した理由として、日本と世界のスポーツにおける市場規模を比較した時、20年前は差が小さかったが、現在では5倍近くもの差が生じている[4]。また、世界のプロチームとの収入比較をした場合も、同様に大きな差があり、日本のスポーツ産業はまだまだ発展可能であると考えたからである。世界的に見ると、スポーツ産業は成長産業として大きく伸びているのが現状である。また、日本はスポーツ大国といっても過言ではないほどスポーツが盛んであるのに対し、スポーツDXなど最新テクノロジーを用いたものに対しては、他国の先進国と比べまだまだ不十分な部分が多い。そのスポーツ産業が、財源確保が求められている今の日本に対して、少しでも新たな光として、財源へと回すことができるほどの成長を遂げることができれば、日本の財源確保の1つとして力になることができると考える。

第1節 研究目的・問題意識

 日本は上記で説明したように、長期にわたる財政赤字や高齢化に伴う社会保障関係の増加によって、財源確保が困難な状況にあり、同時に日本のスポーツ産業の縮小やスポーツと地域の密着性、スポーツと財政の再構築といったことが挙げられる。したがって、このような問題から、日本の財源確保に求められているものは何だろかうという疑問を抱き、借金を減らしていくための効率的な策について考え、そのうえで、スポーツ産業に焦点をあてていく。スポーツ産業がもたらす経済効果によって得られる財源確保の可能性はどのようなものだろうかということを問題意識として置いて考えていく。また、このような問題意識から、財源確保に対しての新たな考え方の確立、日本の環境下に合う独自の対策を思考するということを重視し、2つの研究目標を掲げる。1つ目は、スポーツ産業の活性化のために必要な具体的政策の確立である。政策の方向性として、収益の増大目的、スポーツチームの経営力強化などの立案を進めていきたい。2つ目としては、日本のスポーツチームから財源となるレベルでの収益の確保である。スポーツによる経済効果に加え、スポーツチームからの直接的な財源確保を目指す。また、政府とプロチームの連携に伴い、政府はプロチームを支援し、よりよい関係性を作ることを目的にする。したがって、人口減少や高齢化という問題から税収だけでの財源確保増大は見込めないため、新たな取り組みが必要であると考えられる。そして、スポーツ庁によるとスタジアム・アリーナの建設・改修による収益力の向上、競技団体等のコンテンツホルダーの経営力強化、新ビジネス創出、他産業との融合等によるスポーツ産業の活性化策を通じて、諸外国のスポーツ産業市場のGDP比をメルクマールに、我が国においても、スポーツ市場規模(現状 5.5 兆円を2020年までに10 兆円、2025年までに15兆円に拡大することを目指し、具体的な政策を進める必要があるとされている[5]

 

第2節 仮説と研究方法

 今回の研究に対しての仮説として、財政というものの考え方に対して、根底にあるのが「国民の暮らしを豊かにする」ということであると考える。また、税源に加えて、消費者である国民の財布を豊かにし、物価高を抑制するための政策を積極的に行っていくことが今の日本の財政社会において重要であると考える。その一つの方法として、スポーツ産業の活性化があり、それにより財政への好影響が生まれ、財源確保につながると考える。現在の日本のプロチームの経営体では、スポーツの活性化と財源確保において非効率であるため、スポーツ産業と政府の財政目的の意識を統一させることで、スポーツチームの収益と財政面においての相乗効果が期待できるのではないかと考える。また、その中でも、最新のテクノロジーを用いたスポーツDXの本格化を実現することが可能になれば、十分財源に回すことができると考える。今回の研究方法として、日本の財政状況及びスポーツ産業の現状を明らかにしつつ、今後のスポーツ産業の可能性及び長期的な視点でそれらが財源として当てることができるのかということについて、スポーツ産業の歴史や課題、海外の事例などを用いて文献で調査を行い、比較・分析より研究を行う。

 

第3節    論文の構成

 第1章では、日本の現在の財政状況について税制比較やその他の政策などを含めたそれぞれの可能性について検討し、第2章でスポーツ産業の特徴及び海外のクラブチームとの比較などを行う。そして、第3章ではスポーツ産業の中でも今回のサブタイトルにもあるように、スポーツDXについてどのようなものが現在存在しているのか論述しており、第4章で、スポーツDXの本命であるスポーツ・ベッティングのあり方や日本の財源確保への有力性について提示する。

 

 

第1章    現在の財政状況と政策

 現在の日本では、社会保障給付費の財源確保や基礎的財政収支の黒字化が、長年にわたって財政運営上の大きな課題となりながら克服できずにいたところ、新型コロナ禍を受けて、基礎的財政収支の赤字が急拡大するなど財政事情は一段と悪化しているのが現状である。そうしたなか、2050年までのカーボン・ニュートラルの実現など中長期にわたる新たな課題が浮上してきており、こうした課題への対応には、多くの経費を要するとみられるものの、今のところ財源の議論は低調であり、財源確保に向けた道筋は見えていない。足元のわが国の国民負担率は、46.5%と過去最高水準に達しており、2000年代以降の国民負担率の上昇の大半は個人・家計の負担増によるものである。もっとも、諸外国と比較すると、わが国の国民負担率はさほど高い水準にあるとは言い難い。国民負担率の大きさは、政府支出の大きさに比例しており、現在のわが国の姿は、国際水準でみると「低めの中負担」の「やや小さい政府」であるといえる。しかしながら、将来的に予想される財政需要に見合った財源の確保を怠ると、政府の大きさと国民負担のバランスが崩れかねないのである[6]。税をどの対象により重く課すかという近年のトレンドをみると、経済のグローバル化やデジタル化の結果、世界的にみて、国境を越えた移動が容易な資金への課税が軽減されるのに対し、移動が容易でない労働所得や消費への課税が重くなる傾向にある。わが国においても、1990年代以降実際に、①法人税率の引き下げ、②消費税率の引き上げ、③社会保険料負担の引き上げを受けて、国民負担の内訳が、法人所得税負担から個人・家計負担へとシフトする傾向がみられる。国民負担がこのように個人・家計がより重く負担する形へシフトしていることを踏まえると、個人・家計の間で“公平に”負担することの重要度は増していると考えられる。所得税・住民税、消費税、社会保険料で、年収別の負担率は大きく異なり、各制度の見直しは、国民負担全体の累進構造に影響を与える。国民負担全体の累進度は1990年代から2000年代にかけて、所得税・住民税のフラット化を受けて低下したが、2010年代に一部回復している。以上のような、わが国の財政状況や将来の財政需要、国民負担の現状を踏まえ、以下の改革等への取り組みが求められると考える。

一つ目は、社会保障財源の確保である。社会保障の財源不足が基礎的財政収支の赤字の主因であり、給付費の抑制と財源の確保は、黒字化に向けて避けられない。消費税収はわが国においては政治的な判断により「社会保障目的税化」されているものの、社会保障給付に必要な公費負担額に足りていないのである。基礎的財政収支の赤字額と将来の公費負担の増加分を全額消費税で賄おうとすると、消費税率の引き上げ幅は約7%となり、これに将来の社会保険料負担の増加分も加えると、国民負担率(国民所得比)は合計で6〜7%ポイント程度上昇すると計算される[7]。他方で、消費税や社会保険料負担の副作用として、国民負担全体でみた際に累進度が低下することが懸念される。わが国においても近年、低所得層の拡大や所得・資産格差の世代を超えた固定化を懸念する声が強まりつつあるなか、経済的に余裕のある層により多くの負担を求めることが現実的とみられる。負担率引き上げに伴う累進度低下への対応として、社会保険料負担については「標準報酬月額」の上限の引き上げや撤廃が有効とみられる。また、今後消費税負担を引き上げる場合には、低所得層の消費税負担を所得税から税額控除できる制度の導入も視野に入れる必要があると考えられる。

二つ目として、脱炭素実現のための財源確保である。カーボン・ニュートラルの実現に必要な巨額の投資は、基本的には民間部門が担うことになるものの、政策による後押しも欠かせないとみられる。その財源として、カーボン・プライシングの導入が考えられる。政府はこれによる収入を、環境保全関連の政策に加え所得再分配政策等の財源に充てることができる。

そして三つ目は、国民負担全体でみた所得再分配機能の強化である。例えば、わが国では諸外国と同様に、金融所得は労働所得等から分離課税され一律税率が適用されているため、1億円を超える所得層では所得が増えるほど負担率が低下し、本来累進的であるはずの所得税の負担構造が逆進的になっている点が問題視されている。もっとも、所得再分配機能の強化にあたっては、金融所得課税の見直しだけでは限界がある。所得再分配機能の検討では、目先の「結果の平等」にとらわれて金融所得課税の強化に集中するのではなく、「機会の平等」を高める方策にも目を向ける必要があり、相続・贈与税の強化なども含めた税制全体を見直すことが求められる。

四つ目は、国際協調による資本への適正課税である。これまで長らく法人課税を軽減する傾向下にあったところ、近年、国際協調によって法人所得への課税を適正化しようとする動きがみられる。具体的には、①法人税の最低税率と、②デジタル課税について、2023年からの導入を目指して2022年にも国内での法整備が各国に求められており、わが国でも速やかな対応が求められる。第5は、既存の債務償還財源の確保である。まず、新型コロナ感染症対策で生じた債務については、東日本大震災と同様に「コロナ復興特別税」を時限的に導入して償還財源を確保すべきである。例えば、ワクチン接種や医療体制整備に係る経費相当を所得税に加算する一方、時短協力金をはじめとする事業者向け施策に係る経費相当を法人税に加算するといった方法で、償還財源を確保することが考えられる。一方、国と地方を合わせて名目GDPの2倍に上る長期債務については、地道に償還していくほかはない。歳出の増加抑制など基礎的財政収支の黒字化に向けた取り組みに引き続き努めるとともに、景気拡大期に発生する税収の上振れ分を補正予算での事業の追加に使ってしまわず、償還財源に充てることが重要である。今後、かつてのような高成長は見込み難く、景気拡大期の税収増が小幅にとどまる一方、景気後退期に税収が減少するリスクは高いとみられる。経済が比較的好調な時にこそ、積み上がった債務の償還に努めることが求められるのである。

 

第1節 金融政策の可能性

 日本の財政状況及び、いくつかの政策や可能性について上記で述べたが、そのうえで、財政政策の一部でもある金融政策の可能について論述する。日本は金融政策に依存していると考えられており、その要因としては、財政政策の景気対策の効果が弱まっていることと、政府の債務が大きくなっているため、積極的な財政の刺激政策がとりにくくなっていることが考えられる。過去に財政赤字をファイナンスするため安易に中央銀行が国債を引き受けることにより、ハイパーインフレが生じた例もある。このような経験から、中央銀行は財政政策と独立して金融政策を運営する意義が議論されてきた。しかし、金融政策は経済政策の一環であるため、政府の意向に全く左右されないということではない。したがって、その独立性も相対的なものであり、時代によりその傾向も変化してきた。実際、日銀が政府に強く要請され、金融緩和政策たとえばゼロ金利政策が導入されている。

金融政策と財政政策の現実の動向から、その政策の決定過程について考察した結果、ゼロ金利政策以前は、日銀は政府から独立して自分の目的を最善化する金融政策を実行してきた可能性が高いことがわかった。しかし、ゼロ金利政策以降は、日銀は政府からの要請を受けて、インフレ率の操作の役割を受け入れて金融政策を実行していた可能性が高いことが分かった。このように、金融政策の依存やゼロ金利政策などにより、国債の金利がほぼゼロに近いところまで低下しているため、景気が回復し金利が上昇しない限り、金融政策に大きな効果は期待できないことから、現状を回復するための政策として金融政策はあまりふさわしくないと考えられる。

 

第2節 他国との税制比較

 次に、日本と他国との税制比較を行いながら考察する。今回取り上げる国としてオーストラリアを選択し、その理由として、消費税が日本と同じ10%であるということから税率の面でも共通部分があり比較しやすいと考えたからである。まず、日豪の共通点としては格差問題が挙げられる。オーストラリアにおける新規移住者と古くからの住民の生活基盤に違いによる大きな格差が存在する。また、政府財政については、近年財政黒字が続くオーストラリアと、巨額の財政赤字が国政の硬直化を招いている日本との違いが両国の税制にどのような違いをもたらしているのかという大きな部分に焦点を当てる。

 今回ピックアップするのが、高度成長しているオーストラリアにおける住宅事情である。住宅価格の高騰が続いており、一般のサラリーマンが住宅取得するには困難な状況にある。そのような中、オーストラリア政府は税制面で、FHSA(ファースト・ホーム・オーナー政策)という、初めて住宅を取得する人を支援する政策を打ち出したのである。しかし、その実質的な効果は実態の住宅価格と比して、政府の支援額が非常に僅少であるためオーストラリア国民にとっては疑問視されている。また、消費税の部分では、オーストラリアにも商品サービス税(GTS/the Good and Service Tax)が 2000 年 7 月に導入され、日本の消費税とほぼ同じ仕組みで、オーストラリアで消費されるほとんどの商品・サービスに課税される間接税である。その税率は取引価格の10%であるものの、食料品は非課税である等、GTSの非課税領域を作っていることが特徴である[8]。このような政策を行うことによって、国民の消費量を上げ、物価を少しでも抑制することで、国民の負担を減少させていると考えられるのである。

 

第3節    財政政策の取り組み方

 ここまでの財政状況を踏まえ、日本の財政政策の取り組み方の概念について考える。まず、税制の意義として納税額の多寡によらず、法定通貨での取引そのものを公認するとあり、多様性を尊重する価値基準に従い、法の下に各経済活動を追認するとされている。場合によっては倫理および道徳を考慮しておらず、納税を認めることによって、その取引そのものを認めることになる。つまり、収入や財産の大きさを理由に徴税するならば、過去のあり方によってもたらされた現代社会に潜む格差を容認してしまうことになるのである。したがって、財源を税源のみに絞るのであれば、国民の命が持たない。また、生活保護では本当に苦しむ個人に資源が届くか不確実性があり、世帯ごとではなく、マイナンバーを活用した即時給付などが今後必要であると考えられる。

また、今回提示した問題意識に関して、先行研究では、過去のデータから分析した結果、消費税率を引き上げることによって、景気対策のために行われる所得税及び法人税の減税政策の影響で、全体の税収の増加にあまり大きな結果はみられないため、消費税率を上げても景気が良くならない限り全体として税収増は見込めないということが理解できた。また、日本は所得税の最高税率が高いため、所得水準が高い人々は日本より税率の低い海外に生活拠点を移し、節税を行っているのが現状である。

 

 

第2章    スポーツ産業の特徴

 上記のように、財政政策という大きな枠組みでの好影響を与えることが出来る可能性として考えられることについて述べてきたが、ここからは財政に関して、スポーツ産業による可能性について述べていく。まず、スポーツ産業の特徴について説明する。スポーツ産業の代表的なプロチームと呼ばれる国内のトップリーグをはじめとするものは、「超強力的コンテンツ」と表現できる。あらゆる競技を商業化して観客を動員し、スポンサー企業を呼び込み、ときにマスコミでハイライトを放映し、多大な経済効果を実現してきており、法人税を納付するよりも広告費をかけて企業イメージを高めたい流行過多な事業を取り込むといったメカニズムである。また、スポーツを見る場合にもする場合にも当てはまる「体験型消費」といった点もスポーツ産業の特徴の1つである。人々がチームの勝利を求めつつも応援を通じてチームの試合に参加するといった仕組みである。同じチームを応援することで地域住民が一体感をあじわい、濃密な地域活動による生活満足の向上を実現するため、公共財の提供が可能になるのである。

 また、スポーツ産業において、2種類のマーケティング概念が存在すると考えられる。まず、「スポーツのマーケティング」としてマーケティングの主体がスポーツ組織であり、観客やファンなどの増大が期待され、入場料収入などが増加することを狙いとした方法である。もう一つが「スポーツを利用したマーケティング」という手法で、マーケティングの主体は一般企業で、企業や商品の認知向上、ブランドイメージや売り上げ向上などの効果があり、スポンサー企業からの契約料の増加、資金確保につながるのである。日本のプロスポーツ経営では、株主が配当を求めず、非営利性が徹底されているが、非営利であっても収支が赤字になれば存続できないため、わずかな収入の減少でも赤字が発生すれば経営危機によってチームの存続ができなくなるということも、日本のスポーツ産業の特徴でもある。しかし、冒頭でも述べたように、世界では黒字であるプロチームも存在している。

 では、なぜ日本のプロチームは財務上に余裕がないのかということになる。プロ野球チームの場合、広島カープ以外は、スポンサーとして親企業を持っており、そこから資金提供を受けており、これら親企業はすべて日本企業の中でも有力な大企業であり、経営技術や「財務管理」技術の難易度に対応することは容易であるはずなのである。したがって、日本のプロスポーツチームでは「財務上の収支均衡の範囲で経営しようとしていない」ということが考えられる。勝利数の最大化をめざすプロスポーツのすべては、資金提供者に対して余剰利益を最大化して配当を還元するには向いていない経営形態であり、株式会社には向かない経営体であることも考えられるのである。

 令和5年度の予算案では、「スポーツの成長産業化・スポーツによる地方創生」に関する予算額が約45億円とされており、最もスポーツ庁が力を入れている事業がある。その中でも、スポーツ産業の成長促進事業を見ると、主に4つの事業に注力されている[9]

 

①    スポーツホスピタリティ促進事業(新規)

→「スポーツホスピタリティ」とは、スタジアムに訪れる観戦者に対して、専用の個室やこだわりの空間での飲食、ギフトなどの上質なサービスを観戦チケットと組み合わせて提供することである。

②    スポーツ×テクノロジー活用促進事業

→最新技術を用いた「する」「みる」スポーツにおける新しい観戦体験の提供支援など

③    スタジアム・アリーナ改革促進事業

→まちづくりや地域活性化の核となるスタジアム・アリーナの整備を推進するため、モデルとなる対象施設の選定や構想・計画段階の支援等

④    スポーツオープンイノベーションプラットフォーム推進事業

→スポーツ界と他業界の共創により、新事業が持続的に創出される社会の実現に向けて、新事業の創出支援、国内の優良事例の表彰、情報発信を行うとともに、地域におけるスポーツを核としたオープンイノベーションプラットフォーム構築を支援

 

 これらの事業の中でも、本研究ではスポーツホスピタリティ促進事業とスポーツ×テクノロジー活用促進事業に関与した内容について調査する。これらの事業が国の方向性として示されており、どのようにして意識統一していくかも重要である。

 

 

第1節    スポーツによる地域活性化の具体的事例

 このような日本のスポーツ産業の現状を踏まえ、実際のスポーツによる地域活性化についての具体的事例を用いて考えることにした。今回取り上げる日本のプロチームが、広島東洋カープである。広島県と広島県内の5市、そしてそれを応援する「広島市民」の出資によって成り立っている。地域活性化という面で、カープは個人オーナーということもあり、カープファンがカープを応援する以前に費用を負担、もしくは観戦することでカープ球団の経営と野球の試合の規律付けをしているのである。広島の地域活性化は、カープの地元に対するコミットメントと、カープファンというステークホルダーによるカープに対するガバナンスの成功により生じたものであるとされている。オーナー企業のいない市民・県民球団であり、カープ球団のコーポレートガバナンスとマーケティング、そして広島市民によるカープ球団の応援、それぞれの個が相乗効果となっている[10]。広島では、ファンとカープ球団との関係性が、最適な地域活性化につながり、経済の活性化をもたらしているのが特徴である。しかし、広島東洋カープと地域活性化においての懸念点も存在すると考える。地域とかなりの密着性を持ったチームではあるが、逆に考えるとチームの強さやファンの熱意によって活性化されるかどうか左右されるため、経済的面や財政面がかなり不安定でもあると考えられるのである。スポーツと地域間の密着性のバランスというものは大変難しいものでもある。

 

第2節    英国プレミアリーグとの比較

 次に、日本のスポーツ産業と比較対象にしている、世界のプロチームの具体例として、実際にスポーツ産業として成功しており、高い収益を出している英国プレミアリーグを取り上げる。英国プレミアリーグはスポーツチームとしての売上高がトップクラスであり、日本のプロチームとの差は何が要因になっているのかという点では、ビジネス的戦略が明確に行われており、経済的有益を得ていると考えられる。英国プレミアリーグの現状として、少子高齢化でこれから国の財政が厳しく公的補助が難しくなり、英国のトップリーグのプレミアリーグでも、クラブ財政は厳しいクラブが多い。しかし、リーグ全体としては、税金の形で毎年1500億円、地元のサッカーや地域コミュニティへの多額の貢献を行っているのである。成功している要因として、スポーツ産業においてのビジネスプランの確立であると考えられる。プレミアリーグは地域とマスメディアをうまくバランスさせて、TV放映権、入場料、グッズ等商業の収入を得ている。スタジアム投資が選手の補強と並び重要な役割を果たしており、流れとしては、いい選手を集めることが出来れば、良い成績につながる。それが観客動員拡大を通じて収入アップにつながり、そこから選手補強費が出てくるという循環となる。「選手への投資」「スタジアム」への投資が合わさって「ファンのカスタマー化」が進み、それが収益アップへつながると考えられる。事業の具体的な数値としては、入場料収入=客数×客単価×入場頻度として考えることができ、プレミアリーグでは設備稼働率(収容率)は93%、上位12 チームでは96%である[11]。つまり、客数増加はスタジアム増設しかなくなっており、客単価についても入場料がプレミア創設時と比較した場合、5倍以上にまで上がりこれ以上の値上げは難しいとされている。したがって、有料ライブTVの導入を用いた戦略を新たに行っている。客単価の限界に加え、スタジアムに続くチャネル戦略として、有料ライブTVへ放映権を売ることで売上アップを図っており、リーグが放映権を販売し、順位、放映に応じてクラブにその収入を配分する形式となっている。プレミアリーグのキックオフは英国の土曜午後3時、それがアジアでは同日夜10時か11 時とゴールデンタイムとなるので、この点でもプレミアリーグは他のヨーロッパリーグと比べ、優位性があると考えられるのである。

 現在、日本のNPBやJリーグではここまでの取り組みは行われていない。ましてや国内規模に留まっているといっても過言ではない。世界をマーケットにしていくことがこのようなスポーツ産業において、大きな収益につながるといえる。

 

第3章 スポーツDXとは

 今回サブタイトルでも挙げたように、スポーツDXの観点から考える上で、スポーツDXとはどのようなものなのかということについて、整理する。まず、一般的に「スポーツDX」と聞いて頭に思いつくのはDAZNなどのリアル中継型の有料TVなどである。他には、データビジネスというファンタジースポーツや海外スポーツ・ベッティングなどがある。そして、デジタル資産などのスポーツトークンなどである。1つずつ整理していくと、放送・配信などのビジネス状況は、リアルタイム視聴に価値をもつ映像コンテンツとして評価額が高騰している。しかし、放映権の販売や映像制作をどのようにするのかによってビジネス展開の幅が決まってくるのではないかと考えられる。

 次に、スポーツにおけるデータ活用については、ビックデータやAIの活用が進む中で、「スタッツデータ」と呼ばれる試合に関するデータや機器を使って取得する詳細なプレーに関するデータなど様々なデータの活用が進んでいる。「スタッツデータ」は、リーグやチームが選手強化や戦術に利用するのみならず、メディアやゲーム会社など、様々な主体がそれぞれの方法で活用している。また、ファンタジースポーツの運営会社は、コンテンツホルダーであるリーグやクラブと、画像や映像の使用権・試合に関するデータ等に係るライセンス契約を結んだうえで、データ分析・加工を行うデータプロバイダーを通じるなどしてデータ等を入手し、アプリ等を介してサービスを展開しているのである。最近では、NFTトレーディングカードを用いて行うファンタジースポーツも登場している。

 そして、デジタル資産に関してはNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)とは、「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ」のことであり、ブロックチェーンの技術を用いて発展したものである。従来、容易にコピー・改ざんができるため、資産価値を持ち難かったデジタルデータに、資産価値を持たせることが可能になり、アートやゲーム、スポーツなどの幅広いカテゴリーにおいて活用されている。スポーツでは、スポーツの持つコンテンツ価値の商品化手段が広がるという利点のみならず、ブロックチェーン技術で可能になるスマートコントラクトを活用することで、コンテンツホルダーであるリーグやクラブ、選手等への収益還元が容易になるという点も利点といえる。

 

 

第1節 スポーツNFTに対する認知・関心度や購入実態の資料

 上記で説明したものが主にスポーツDXといわれているが、多種多様なものが多く存在し、全て認識している人は多くはないだろう。PwCコンサルティング合同会社が4月に実施した調査によると、スポーツNFTに関心がある人は全体の5.8%、スポーツNFTを購入したことがある人は全体の2.0%であることが分かった[12]。その人の特徴として、戦略的にお金を増やし、投機に興味がある人や流行や新テクノロジー大好きで新技術に興味がある人、集めて楽しみたいNFTの収集に興味がある人、娯楽が大好きでスポーツ・アート・ゲームに興味がある人などが挙げられていた。

 

①    「戦略的にお金を増やしたい」投機に興味がある人

投機に興味がある人が抱える課題として、NFTの購入場所や手順が分からないことが挙げられていたことから、このセグメントにとってNFTに関する主な情報源であるスポーツ団体・組織のウェブサイト等において、NFTの購入場所や手順について発信することがさらにスポーツNFTを購入するきっかけにつながると考えられる。

②    「流行や新テクノロジー大好き」新技術に興味がある人

新技術に興味がある人は、正規ルートだけではなく二次流通・転売等を含めて購入したいと考える人が多いという特徴があることから、法律・税制面のグレーゾーンを解消し、スポーツNFTの二次流通や転売等のプラットフォームを整備していくことが重要と考えられる。

③    「集めて楽しみたい」NFTの収集に興味がある人

NFTの収集に興味がある人は、特定のNFTを購入したい割合が高く、他のセグメントに比べてランダムパックで購入したい割合が低いという特徴がある。自分が好きなスポーツ団体・組織や選手のNFTを収集したいと考えることから、このセグメントに対しては、特定のNFTを販売していくことが、NFTをさらに購入するきっかけになると考えられる。

④    「娯楽大好き」スポーツ・アート・ゲームに興味がある人

スポーツ・アート・ゲームに興味がある人は、スポーツNFTの年間購入金額が他のセグメントに比べて低いという特徴がある。1回でも購入した経験があれば、今後の購入意向が高くなることから、このセグメントには、初回の購入を促すような施策が重要である。例えば、投機に興味がある人と同じようにNFTの購入場所や手順について発信すること、金額が低いNFTパックを販売したりすることが考えられる。また、このセグメントでは、購入したいスポーツNFTとして、試合中のハイライト映像の他、SNSでの二次利用・チケット機能等の付帯機能を持つものを回答する割合が高かったことから、スポーツNFTに付帯機能を持たせていくことも有効と考えられる。

 

この結果を踏まえて市場規模を算出したところ、スポーツNFTの市場規模は1,100億円程度と見込まれ、スポーツNFTに似たジャンルとして挙げられるトレーディングカード市場は1,222億円と言われていることから、おおむね同水準と考えられる。

しかし、この調査結果は米国のモノであり、日本国内で同じ水準結果を得ることは不可能であると考える。

 

第2節 スポーツDXを行う上での問題点

 まず、1つ目は市場規模が国内に留まっているということである。日本と世界のスポーツビジネスの売上高が10倍以上も違うのは、グローバル展開ができているかどうかによるものであり、日本国内では人気の高いスポーツであっても、地球規模でファンを獲得する段階には至っていなければ、その分、市場は小規模になってしまう。実際に試合を見に行けなくても、テレビで試合を観戦することや、グッズを買いたいと思ってくれるファンを作ることが今後の課題である。2つ目が優秀な人材が業界に不足しているということである。FC バルセロナなどの世界的なビッグクラブは、世界のトップ企業出身のビジネスマンなどがヘッドハンティングされて集結している。優秀な人材が集まる秘訣は、責任感と面白みのある仕事ができて、多くの収入が保証されているためである。それに比べ、日本のスポーツビジネスは、まだまだ魅力的な職場だとは認識されていない。グローバルな展開を目指すなら、国際的に活躍してきた社員や外国人社員を採用する方法も有効であるが」、日本のプロ野球界では、社員の多くがオーナー企業からの出向であるなど、人材採用に消極的である。そして、3つ目がイノベーション不足とスピード不足である。スポーツビジネスには、状況に応じてスピーディに対応する力が必要であり、Jリーグにおいては、時代に合わせてテレビ中継から動画配信サービスへ移行したことで、その経営が大きく改善した。その点、プロ野球などは旧態依然とした状況からまだ抜け出せていないように見え、放映権においても、地上波から有料テレビ、テレコム、インターネットへと移行してきた。そして、ヨーロッパのサッカービジネスや、MLB、NBA、NFLなどのプロスポーツビジネスが、瞬時にそれに対応し、結果的に急成長を遂げたのである。この中で、私が考える主な要因は、一つ目と二つ目であると考える。日本国内においてのスポーツの規模は世界的に見て小さいと言える。今後の新たな可能性として、カレッジスポーツも一つであると考える。アメリカのスポーツビジネスを支えているのは、カレッジスポーツといっても過言ではない。全米大学体育協会(NCAA [National Collegiate Athletic Association])は、大学スポーツを統括し、各種競技大会の運営管理や大学・学生アスリートの管理・指導・支援などを行っている。NCAAの市場規模は、アメリカ国内だけであるにもかかわらず、約8000億円。年間約1000億円の収益を生むなど、脅威的な規模を誇る。日本国内で注目を集めるスポーツ大会の1つである正月の箱根駅伝もカレッジスポーツであるが、今後の日本スポーツビジネスのテーマとして、グローバルに目を向け、時代の流れに素早く対応するとともに、国内のカレッジスポーツの開発に力を注ぐことが挙げられる。

 

 

第4章 スポーツ・ベッティングのあり方

 スポーツDXの中でも、今注目を浴びているのがスポーツ・ベッティングである。このスポーツ・ベッティングが今後のスポーツ産業において大きな影響を与えるものであると考える。日本ではスポーツくじやtoto以外のものは違法とされているが、本研究では合法化されたと仮定し、日本の経済及び財源にどの程度の影響を及ぼすことが可能になるのかというところに焦点を当て、研究を行う。そのうえで、スポーツ・ベッティングのあり方の重要性や日本での行われ方など様々な視点に着目する。

 

 

第1節 スポーツ・ベッティングについて

 スポーツ・ベッティングとはその名の通り、スポーツの試合を対象にした賭け事であり、野球やサッカー、バスケットボール、テニス、アメフトなど、あらゆるスポーツが対象である。賭けの方法も豊富で、サッカーの試合であれば、試合中のイエローカードの数、最初のゴールは誰かなど、試合中に起こり得るほぼすべてのアクションが賭けの対象になっている。近年は、通信環境の高度化や高速化に伴い、試合をみながらスマホでポチッとするだけで賭けることができるライブ・ベッティングが急速に浸透している。たとえば、野球であれば試合中に、ブックメーカー(胴元)のアプリから、大谷翔平の次の打席はどうなるのか(①本塁打xx倍、②四死球xx倍、③三振xx倍、④その他xx倍)というように、倍率がそれぞれ設けられる。このスポーツ・ベッティングは、翌日の天気も賭けの対象とする根っからのギャンブル大国であるイギリスを筆頭に、欧州先進国では早くから合法化されていたものの、実はアメリカで解禁されたのはごく最近の2018年である。なぜそれまで禁止だったかというと、米国が禁欲的な清教徒が中心となって建国されたという起源にまでさかのぼる話になるのだが、八百長の温床になるからとプロスポーツ団体やNCAAが強硬に反対し続け、ついには1992年に、根絶をしようと連邦法(PASPA)まで制定されたという経緯がある[13]。では、なぜ解禁になったかというと、税収増をもくろむニュージャージー州などの州政府が、PASPAは違憲であると連邦政府(つまりアメリカ国家)を訴え、勝訴したからというのが直接的な理由であるが、結局のところは、解禁賛成派に転じたNBAの声明文より「禁止してもむだ。合法化して、管理・課税するのが現実的」だからであるという。裁判の過程で、アメリカ人が海外あるいは違法のブックメーカーを通じてスポーツ・ベッティングに興じている金額は40兆円以上との下院の報告もあった。この40兆円という数字は、日本の消費税収(国税分)の倍の金額と同等のものであるという。この数字を見ると、日本でもパチンコ・パチスロ市場は20兆円、公営競技は8兆円であり、さほど驚きの数字ではないがこれだけの金額がスポーツ・ベッティングによって動いていると考えると見逃していては勿体ない。こうして、各州の判断ではあるが合法化となったスポーツ・ベッティングは、アメリカ全土に拡散し、2021年時点で合法州は33、賭け金総額8兆円の市場に成長している[14]。州によって税率は異なるが、税収総額が600億円弱と報告されており、7.4%ほどが税金ということになる。スポーツ・ベッティングからこれだけの税収を確保できれば、財源に回すことは十分可能である。

 

第2節 スポーツ・ベッティングの可能性

 現在、日本のスポーツくじなどで行われているベッティング方式では、試合前に賭ける方法が主流であるが、海外のスポーツ・ベッティングでは試合中にいくつもの事象にベットすることができ、何回も賭けられることが人気の要因のひとつにもなっている。このスポーツ・ベッティング、スポーツ産業においても大変好循環であるとされており、アリーナにベットラウンジを設置し、集客増加やアリーナの観戦体験の向上にも提携することが可能になった。また、アメリカではスポーツ・ベッティングが合法化され、IT技術を用いた資金トレーサビリティの向上によって、違法市場を淘汰している。その他にも、賭け事などでよく問題視されているのが、依存症対策である。この課題に対しては、スポーツ・ベッティング事業者側が、姓名や住所、生年月日、社会保障番号、ユーザーの位置情報などを身分確認の際に把握し、ユーザーが自分でデポジット、限度額を設定するセーフガードを提供している。このように、オンラインでのスポーツ・ベッティングでは依存症対策や不正対策などの顧客保護もしっかりと行うことができれば、安心・安全にスポーツ・ベッティングを行うことができる。

日本で、合法化され、スポーツ・ベッティングが実際に行われるとして、参考にされるのはもちろん米国などの事例であるだろう。そのアメリカのNFLの公式戦を対象にした調査によれば①ベッティング参加者の試合視聴時間は、そうでないヒトの2倍、②ライブ・ベッティングの参加者の賭ける回数は、1試合につき45回、③ブックメーカーのテレビCMは、公序良俗の観点から1試合につき合計3分(30秒×6本)までに制限していてなお、既に全試合ソールドアウトで1,000億円以上のCM売上となっているのである。コンテンツ価値の向上に寄与していることは間違いないといえる。スポーツ・ベッティングは、イノベーションの宝庫でもある。なぜなら、その主戦場は、サイバー空間であり、映像配信、データ解析、セキュリティ、トレーサビリティなど、高度な技術が求められる。市場規模も桁違いであるため、リスクマネーが潤沢に供給されており、アメリカのブックメーカー大手のドラフトキングス、データ解析最大手のスポートレーダーと相次いで上場し、どちらも時価総額は1兆円を上回っている。隣国アメリカの活況を踏まえ、従来は、日本のtotoのように複数試合の勝敗のみであったカナダでもスポーツ・ベッティングがフル解禁となった。仮に売上5兆円、控除額を20%とすると、1兆円が生み出される。JRAの納付率に倣いその半分が国庫に入るとすると、金額ベースだとJRAの倍、5,000億円にもなると考えられる。残る5,000億円から、たとえば半分2,500億円をスポーツ振興基金とすれば、この額はtotoのスポーツ振興助成金(2021年度実績で160億円弱)の15倍以上で、既存のスポーツくじなどとは金額が大きく異なってくる。残る2,500億円の使途は、スポーツ・ベッティングに不可欠な監督組織(IRに倣えば監視委員会)の運営、ギャンブル依存症対策、スポーツ関連の研究開発助成など、有効に活用することも可能である。日本から、海外のブックメーカーを通じてスポーツ・ベッティングに興じる行為は、仮想通貨の浸透に伴い、激増しており、その市場規模は1兆円をゆうに超えるとの報告もある。賭け金のトップは、圧倒的にNPBで、Jリーグ、英プレミアリーグ、NBAがそれに続いている。また、サイバーエージェントの推計によると、日本でスポーツ・ベッティングが解禁された場合、市場規模は年間最大7兆円であるといわれている。それらの一部をスポーツ振興に振り向けられたとして。数%でも何千億円にもなり、現在のtotoなどのスポーツ振興くじの助成金が累計で2000億円規模である現状と比較しても十分に財源になる[15]

独自の社会構造、常識を築き上げてきた日本だが、サイバー空間というボーダーレスな世界が日常に根をおろしているなか、この世界の潮流に対して、乗るか反るかの判断を迫られることになるだろう。また、このスポーツ・ベッティングが間違いなく今後のスポーツ産業やスポーツDXを支えていくといえる。

 

 

第5章 おわりに

 このように、日本の財政状況及びスポーツ産業の現状と可能性について述べてきたが、財源確保のための方法として、スポーツDX及びスポーツ・ベッティングの確立は可能である。日本のスポーツ産業の可能性を考えた時に、チーム経営を行うにあたって、余分な収益はチーム資産として使用され、それぞれのチームが自身の成長材料としての資金に充てられることが多い。したがって、各チームから得た収益を直接国の財源へと回すのは不可能と考えられる。日本の場合、それぞれのチームがスポーツ産業として何か意識しているのかというところに関して、明確なものがないのが現状である。それは、果たして国の意識と同等のものであると言えるのか。本研究で目標として掲げていた国とスポーツチームの意識の統一は今後も課題である。

 日本の財政状況を踏まえ、財源確保に向けた対策は必須であり、その方法としてスポーツDX及びスポーツ・ベッティングが有力視されることは間違いないといえる。スポーツ・ベッティングが日本で合法化され、法律や設備が実際に整備されれば、莫大の収益を得ることが予想できる。スポーツ・ベッティング市場の拡大により、新たな経済活動や雇用の創出が期待され、オンラインベッティングプラットフォームの運営や管理、関連するサービス業の成長なども同時に影響を与えることができる。そして、それらから得た収益を財源へと回すことで、日本の財政状況を少しでも良い方向に導く手立てにはなるといえる。スポーツ・ベッティングがもたらす影響は、課題として挙がっていたマーケットの幅も解消され、国内に留まらず世界中の人々に日本のスポーツ産業に介入してもらうことができる。そのため、本研究では触れることができなかったが、スポーツDXというものの存在や影響をより多くの人々に認知してもらい、どのようにして広めていくかということが今後の課題としてあげられるであろう。しかし、スポーツ・ベッティングによって、スポーツへの関心を高める可能性があり、賭けを通じて興味を持つ人々が増えることで、視聴率やスポーツに関するイベントなどの人気が上昇することが期待される。したがって、本研究では、スポーツDXがもたらす経済効果及び収益は財源として確立することができ、日本の財政赤字を回復させ、国債を減らすためのものとして十分であると結論付ける。

 

 

 

<参考文献>(↓あいうえお順)

・安藤信雄「プロスポーツ団体の経営における最大化について」~日本のプロ野球球団経営の歴史的形成過程と費用収益モデル分析を中心に~

・井堀利宏「財政赤字の正しい考え方、政府の借金はなぜ問題なのか」東洋経済新報社、2000年

・川口和英「ワールドカップ開催による地域への波及効果分析事例に関する研究 : 国際型スポーツイベント開催による波及効果の測定分析」鎌倉女子大学紀要 2004年

・栗屋仁美「広島東洋カープファンの株主機能と「広島」地域の活性化 ― 個の最適が全体最適になる時 ―」敬愛大学 経営哲学 17 (2), 60-74, 2020-10-31経営哲学学会

・株式会社サイバーエージェント「サイバーエージェント、日本のスポーツベッティング市場規模を7兆円と推計」

https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=25267

(最終アクセス:2023年12月20日)

・株式会社ミクシィ「新たな財源としてのスポーツベットについて」

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/chiiki_sports_club/pdf/006_05_00.pdf

(最終アクセス:2023年12月20日)

・財務省「財務に関する資料」

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a02.htm 

(最終アクセス:2023年12月20日)

・桜井光行「スポーツはマーケティングに何ができるか」尚美学園大学スポーツマネジメント研究紀要 第3号

・笹川スポーツ財団「スポーツ・ベッティングが、世界のスポーツ産業の中核になっている件」

https://www.ssf.or.jp/knowledge/spi/07.html

(最終アクセス:2023年12月20日)

・杉本篤信「金融政策と財政政策の合意について」『摂南大学経営学部論集』2021年、28巻1・2号

・スポーツ庁経済産業省「スポーツ産業の活性化に向けて」平成28年4月13日

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jjkaigou/dai44/siryou7.pdf 

(最終アクセス:2023年12月20日)

・スポーツ庁「スポーツビジネス拡大について」

https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/001_index/bunkabukai/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/10/25/1378466_004_1.pdf 

(最終アクセス:2023年12月20日)

・スポーツ庁「令和5年度予算(案)主要事項」

https://www.mext.go.jp/sports/content/20230120-spt_sseisaku01-000027027_1.pdf 

(最終アクセス:2023年12月20日)

・スポーツ庁「第3期スポーツ基本計画」

https://www.mext.go.jp/sports/content/000021299_20220316_2.pdf 

(最終アクセス:2023年12月20日)

「スポーツビジネス」日本の現状と課題と、新たな可能性を紹介│HALF TIMEマガジン (halftime-media.com)

(最終アクセス:2023年12月20日)

・ゼロからのスポーツビジネス入門「スポーツの経済効果がすごい理由 ワールドカップからマラソン大会まで」

https://zerosportsbiz.com/2020/12/20/sport-economic-effect/ 

(最終アクセス:2023年12月20日)

・田淵正信「2008年度オーストラリア研究所共同研究の概要 : 日豪自由貿易協定に関する研究,並びに,日豪税制比較と税制の違いが経済に及ぼす影響の研究」『オーストラリア研究紀要』2008年、34巻

・中村宙正(2020年)「東京プロスポーツ財政論 : 人材育成と財源確保の必要性に関する地方公共経済学」尚美学園大学スポーツマネジメント研究紀要

・中村宇正「税制による財源確保の限界に関する財政学」『尚美学園大学総合政策論集』2021年、32巻

・永田靖「スポーツ・マネジメントにおける会計情報の視座プロスポーツの収益拡大への成功要因」広島経済大学経済研究論集 第30巻第1・2号 2007年10月

・西崎信男「プロチームスポーツとガバナンス~英国プロサッカーリーグを例に~」

 長崎大学大学院博士論文 平成23年

・新田亜梨香「日本の税制について~消費税増税に代わる税収増加方法はないか~」甲南大学経済学学生論集、2013年

・日本総研「わが国の国民負担の現状と取り組み課題」

https://www.jri.co.jp/

(最終アクセス:2023年12月20日)

・ニュースイッチ「DXでスポーツの「稼ぐ力」を強化!エンタメ、公益とつなぐ企業の取り組み」

https://newswitch.jp/p/29170

(最終アクセス:2023年12月20日)

・平野正樹「わが国の財政赤字 何が問題か」『岡山大学経済学会雑誌』43(4)、2012年、pp65〜86

・マクニカ株式会社「すでに始まっている「スポーツDX」 テクノロジーと科学で進化するスポーツの現在地と未来」

https://www.macnica.co.jp/business/dx/columns/141001/

(最終アクセス:2023年12月20日)

・松橋崇史「プロスポーツクラブの経営を支える地方自治体の制度設計とその波及効果―広島東洋カープと楽天野球団のケーススタディ―」経営経理研究 第117号 2020年3月pp.75-88

・pwc「スポーツNFT市場の現状と国内における活用拡大に向けた展望」

https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/sports-nft.html 

(最終アクセス:2024年1月14日)



[1] 財務省「財務に関する資料」

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a02.htm 

[2] 同上

[3] 同上

[4] スポーツ庁経済産業省「スポーツ産業の活性化に向けて」平成28年4月13日

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jjkaigou/dai44/siryou7.pdf 

[5] スポーツ庁「スポーツビジネス拡大について」

https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/001_index/bunkabukai/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/10/25/1378466_004_1.pdf 

[6] 日本総研「わが国の国民負担の現状と取り組み」

https://www.jri.co.jp 

[7] 同上

[8] 田淵正信「2008年度オーストラリア研究所共同研究の概要 : 日豪自由貿易協定に関する研究,並びに,日豪税制比較と税制の違いが経済に及ぼす影響の研究」『オーストラリア研究紀要』2008年、34巻

[9] スポーツ庁「令和5年度予算(案)主要事項」

https://www.mext.go.jp/sports/content/20230120-spt_sseisaku01-000027027_1.pdf 

[10] 栗屋仁美「広島東洋カープファンの株主機能と「広島」地域の活性化 ― 個の最適が全体最適になる時 ―」敬愛大学 経営哲学 17 (2), 60-74, 2020-10-31経営哲学学会

[11] 西崎信男「プロチームスポーツとガバナンス~英国プロサッカーリーグを例に~」

 長崎大学大学院博士論文 平成23年

[12] pwc「スポーツNFT市場の現状と国内における活用拡大に向けた展望」

https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/sports-nft.html

[13] 笹川スポーツ財団「スポーツ・ベッティングが、世界のスポーツ産業の中核になっている件」

https://www.ssf.or.jp/knowledge/spi/07.html

[14] 笹川スポーツ財団「スポーツ・ベッティングが、世界のスポーツ産業の中核になっている件」

https://www.ssf.or.jp/knowledge/spi/07.html

[15] 株式会社サイバーエージェント「サイバーエージェント、日本のスポーツベッティング市場規模を7兆円と推計」

https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=25267

いいなと思ったら応援しよう!