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No.23 登場人物③ 渡辺啓太郎 編

啓太郎と出会ったのはとんでもない昔。
高校の軽音楽部の1つ上の先輩だったのである。

彼はスーパースターであった。
尋常じゃなく楽器が上手い。
不思議なことに、ギターもベースも鬼のように上手い。その上ドラムも叩ける。
なんだこの先輩は!バケモンじゃん。

高校に入ってギターを始めた福永にとってはわけのわからない領域だった。
ジュディマリの「そばかす」をギタリストとしてコピバンしていた彼の繰り出すフレーズは摩訶不思議で
曲中ずーっと動いていて、なんということだろうと思って質問をしたら
「あれはDメジャーキー付近でほとんどアドリブで弾いているよ」と言っていた。
この人はなんの呪文を唱えているのだろうと思った。

後に福永はスーパー先輩、渡辺啓太郎を自身のバンド、aireziasのベーシストとしてオファーする。
それから今まで、欠かすことのできないメンバーである。

啓太郎先輩とは少し深みに入っていくような、細々としていて重要な話を深夜まですることが多かった。
話を聞いた一年後に、自分が実際に啓太郎先輩の歳になってみて、彼が言っていたことが急に腑に落ちる。
先輩は、正しく自分の一年先を行く、真の先輩なのだなあと感じていた。
そしてそれは、今も変わらない。

彼が楽器が上手すぎる、というあの謎はすぐに解けた。
著しい努力家なのである。
でも彼は言うだろう「俺は努力家じゃない、全っ然練習が足りない」
行き過ぎるほど謙虚なのである。
でも彼は言うだろう「俺は謙虚じゃあない、面の皮が分厚い」
極めて真面目なのである。
でも彼は言うだろう。「俺は真面目じゃない」
そして、ことさらにとぼけた顔でシュールすぎるギャグなどを言い始める。
時折、気恥ずかしさからかそのままタバスコを一気飲みしたりするので、そういった点は後輩の方から注意しなければならない。

まずだいたい啓太郎が上手くなる。
そうすると、我々はちょっと焦る。
そうして、練習をするようになる。
追いついた頃には、啓太郎はもうワンステップ先へ行っている。
そんなことをいちいち言葉にしたことはないが、無言の応酬をずっと繰り返している。

"No.23”収録の「07.科学の木」で、彼にウッドベースをお願いした。
勝手知ったるというか、あまりにも多くともに音を鳴らしてきたために
あまりにもスムーズなレコーディングとなった。
楽曲によってはMIDIのウッドベースでも差し支えない場合もあり
特に今回ほとんどの楽曲で「ほぼ全トラック福永の生演奏」という形だったために
ゆらぎや味わいは十分に担保されている場合が多かった。
ところがこの楽曲では、骨組みに人間味がないと悪い意味で無機質になると感じたのである。

深夜にサクッとうちにきて、ウッドベースを弾いて、ほとんど福永の方から要望もなく
ほどなくして帰って行く背中には、久々に「先輩」という文字が浮かんでいたように思う。

こんな文章を読んだ啓太郎先輩は憤慨するかもしれない。
俺は努力家じゃない。全然まだまだ足りないんだ。変なことを言うな。
タバスコを飲みそうなそぶりをみせたら、余計なことを書いた後輩として責任を持って止めようと思う。

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2021.06.23リリース
福永健人1st EP「No.23」
「07.科学の木」にウッドベースで参加してくれた、渡辺啓太郎氏の紹介でした。

味わいと正確さの妙、努力に裏打ちされた素晴らしい演奏をありがとう!

No.23特設ページはこちら

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「No.23」セルフライナーノーツ(全曲解説、制作エピソードなど)




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