南仏プロヴァンスで家に帰れなくなった話
不運があれば幸運もある。
そのひとつひとつを忘れてはいけないと思った。
Bonjour!
ワーキングホリデーで今年の6月からフランスに来ています。
今は南仏プロヴァンスの町「サン=レミ=ド=プロヴァンス」(サンレミ)にある日本食レストランで働いています。
昨日より、フランスを含むヨーロッパ各国はサマータイム(ウール・デテ)が終了し、標準時(ウール・ディヴェール)に戻りました。
フランスと日本の時差は、これにより8時間になりました。
引き続き、日本の昼過ぎに朝を迎え、日本の夜にお昼を迎える生活です。
昨日の朝7:30に目が覚めた時、ふと「明るい!」と感じました。
おとといまでは日の出前で暗かったこの時間も、時間変更によって明るく感じることができます。
サマータイム導入には賛否の意見があるそうですが、その効果を理解できた瞬間でした。
ところで、日本は引き続き円安が続いており、1ユーロはいまだに160円を超えています。
加えて、フランスはとても物価の高い国。
日頃の生活でも、家賃はもとより、食費や交通費などに多額の費用がかさんでしまいます。
そんな生活を過ごし、気づいたら極度な節約思考になっていました。
今回はそんな節約思考を発端として僕の身に起きた、ひとつの事件についてお伝えします。
どんな状況でも旅をしたい
僕は好奇心旺盛な性格です。
フットワークは軽く、移動に対する精神的ハードルはとても低いと思っています。
行ったことのない場所に行きたい。
見たことのない景色を見たい。
これまでもその感情に乗るままいろんな場所を訪れてきました。
フランスへのワーホリもそんな感情の延長で決断できました。
こんな旅行好きの性格は、フランスに来ても健在です。
週末にしばしば南仏プロヴァンスの街を巡っています。
でも、節約思考は常にひっかかる点のため、いろいろと考えながら旅をしている今日この頃です。
プロヴァンスは広大かつ自然豊かな地域で、都市が密集せずにあちこちに分散しています。
パリのような大都市とは異なり、隣町まで行くには車で最低10分は走らせないといけません。
僕が住んでいる「サンレミ」は、公共交通機関が乏しい町です。
電車は走っておらず、都市間の移動はバスのみに限られます。
そのバスも本数は限られ、近郊の都市「アヴィニョン」までは1時間に2本のバスしかありません。
しかも最終便は19時台で終わってしまうというこの潔さ。
加えて、日曜日はもっと本数が少なくなります。
ひとり一台の車社会である地域で車を持たずに生活する難しさを実感します。
その上、フランスはデモや事故、点検などで突然バスや電車が止まることがしばしばあります。
プロヴァンスは気候の心地よさとは裏腹に、生活はなかなか苦戦を強いられます。
そんな状況でも旅をしたい。
考えた結果、僕はヒッチハイクに挑戦することにしました。
紙に行きたい場所を書いて、道路の傍に立ち、見知らぬ人に車に乗せてもらう。
必要なのは度胸だけ。
費用も抑えられるし、人と出会うことができます。
日本ではかつて何度か経験したことがあったけど、海外では初挑戦。
心なしか、なんとなく行ける気がしました。
ヒッチハイクをしてみる
フランスはカーシェアリング(covoiturage、コヴォワチュラージュ)の文化がある国です。
仕事や遊びに行く際、みんなで同じ車に乗って行こう。
環境対策の先進国ならではの考え方です。
だから、ヒッチハイクは違法ではないどころか(明確に言及してないものの)推奨ですらあります。
ヨーロッパには、ドライバーと乗客をマッチングする「BlaBlaCar」というプラットフォームがあります。(こちら)
他の都市へ移動したい人が、実際に車で移動する人の空いている席に「相乗り」し、安価で柔軟な移動を実現できるサービスです。
BlaBlaCarを使えば、たとえば僕が住んでいるサンレミからも近隣の他の都市に移動することができます。
僕は実際、これまで何度かこのサービスを使って旅をしてきました。
しかし、BlaBlaCarは運に左右されるところが大きく、行きたい場所に向かう人がいなかったり、あっても時間的に都合が悪かったりすることがあります。
特にサンレミは小さい町のため、サンレミを通過する人の絶対数がそもそも少数です。
便利なものの、不確実性が大きい。
BlaBlaCarだけで旅をするのは、少々難しいとも感じてしまいます。
それも僕がヒッチハイクに挑戦する要因のひとつです。
いざヒッチハイクを挑戦してみます。
まずはサンレミから比較的近い景勝地「レ・ボー=ド=プロヴァンス」を目指すことにしました。
【LES BAUX】と書いた紙を持って、幹線道路の車の停車しやすい場所で掲げます。
最初は恥ずかしさが勝ってしまい、控えめになってしまいます。
しかし、それでは誰も乗せてくれないため、ドライバーに向かって思い切ってアピールします。
これを繰り返していき15分。
一台の車が停車してくれ、目的地へ向かうことができました。
その後も他の都市に向かう際にヒッチハイクに挑戦し、無事に乗せてもらうことができました。
何度か繰り返していくとヒッチハイク自体にも慣れてきます。
移動費を節約できるし、フランス語の勉強にもなるし、良い機会だと思うようになりました。
帰れなくなった旅
先週末、泊まりがけで「トゥーロン」という都市に行ってきました。
地中海に面しているこの街は、海軍の基地があったり、港沿いにはおしゃれなプロムナードがあるなど、観光客が多く訪れます。
トゥーロンへはサンレミから150kmほど離れており、車で直接向かっても2時間はかかります。
BlaBlaCarを検索してみると、50km離れた近隣の町にある高速道路の入り口からトゥーロンに向かう人が一人ヒットしました。
少し考えて、その地点までヒッチハイクで向かうことにしました。
心配だったものの、ヒッチハイクを3台乗り継いで、BlaBlaCarの出発地点まで向かうことができました。
しかも、集合時間まであと20分というギリギリの時間の到着でした。
BlaBlaCarに乗って無事にトゥーロンに向かえました。
なんとかたどり着いたこの街はとても素敵な場所でした。
しかし、この成功体験で僕は調子に乗ってしまうのです。
自分はまたできるだろうと。
結果的にこの過信が翌日の問題につながってしまいます。
トゥーロンでのんびり過ごし、翌日帰路につこうとした時のことです。
ふと思い立ち、BlaBlaCarを使わずに全てヒッチハイクで戻れるか試してみることにしました。
そうすればもっと費用が抑えられる。
ついつい節約思考が頭をよぎってしまいます。
市内にある高速道路の入り口付近で、隣り町の「マルセイユ」に向かおうとヒッチハイクしてみました。
しかし、ここは交通量のとても多い道路。スピードを出す車も多くいます。
これだけ多くの車が通りながら、全てスルー。
残念ながら1時間経っても一台も乗せてくれませんでした。
運の悪い日もあるし、場所もあまり良くなかった。
そう割り切って、次にBlaBlaCarを検索したものの、良い条件が見つかりません。
仕方なく、他の都市からサンレミに向かう条件でいろいろと検索してみました。
結果的に「エクサン=プロヴァンス(エクス)」という街から安価で向かう人が見つかりました。
これに乗って帰ろう。
早速、エクスに向かうことにして、駅に向かいます。
トゥーロンからエクスまでは電車で向かえました。
もう安いのかどうかもわからないけど、ヒッチハイク不発の1時間を過ごして心が折れかかっていました。
だから、せめて帰れればいいや。そんな思いでした。
電車で向かってる途中、ひとつのことを知りました。
それは、BlaBlaCarの乗車直前の申請はドライバーの承認がないと受理されない、というもの。
一定の時間内にドライバーからの承認がないと、その申請は却下されてしまいます。(返金はされる)
既にエクスに向かっていた僕は、ふと気づくと申請不受理の通知を受け取っていました。
ドライバーが承認時間に間に合わなかったか、もしくは拒否をしたのです。
これでは車に乗ることができません。
あれ、どうしよう。。。
嫌な思いが立ち込めます。
すぐに同じ条件の違う人に申請してみるも、出発時間が近く、こちらも不受理となってしまいました。
電車でエクスには着けたものの、ここから移動する手段を失ってしまいました。
既に日は傾き始めています。
夜のヒッチハイクは危険だし、乗せてくれる可能性は下がります。
とりあえず、日が沈む前にここからヒッチハイクをしよう。
高速道路に入りやすい幹線道路まで30分歩き、30分程度ヒッチハイクをしてみました。
しかし、残念ながらここでも一台も停めてくれませんでした。
翌日は朝からレストランの仕事が入っていました。
だからなんとか今日中には帰りたかったのです。
僕はここで大きなミスをしたことに気づきました。
それは、僕が住んでいる町「サンレミ」と今いる「エクス」は、電車やバスの相性が非常に悪いということ。
車で直接向かうなら1時間程度の距離です。
しかし、エクスからサンレミ近郊の都市まで、電車やバスで直接向かうことはできなかったのです。少なくともこの時間は。
もしするなら、一旦マルセイユで乗り換えなければならなかったのです。
僕はその事実にいまさら気づいたのです。
やっちまった…
そんな状況でも節約思考が頭をよぎってしまうのが嫌なところ。
さきほど電車で通過したマルセイユまで再び戻りたくないと思ってしまいました。
結局、そうこうしているうちに日は沈み、暗くなってきました。
電車の本数も少なくなり、移動手段が限られてしまいました。
なんとかエクスから脱出したい。
冷たい風吹く中、電池の切れそうなスマホでいろいろと検索してみます。
すると、高速バスでサンレミ近郊の都市「アヴィニョン」まで向かえることが判明したのです。
一縷の望みを感じ、勢いのままチケットを購入します。
家には帰れないけど、なんとか家に近づくことができることができる。
少しテンションが上がります。
高速バスの停留所まで向かう途中、働いているレストランのオーナーに電話をして、状況を伝えつつこれからのことを相談してみました。
すると、アヴィニョンにひとつ寝床が用意できるとのこと。
アビニョンからはサンレミまでバスが出ているから、そこで泊まれば翌日の朝には帰れ、仕事には間に合うことが判明しました。
なんとかなった…!
これですべて解決です。本当に良かった。
歩きながら涙が止まりませんでした。
バスの出発時間まで1時間少々あったものの、バスの停留所までは歩いて1時間の距離でした。
最後は小走りになりながらも、なんとか間に合い、無事にバスに乗れました。
停留所に向かってる途中、偶然ずっと行きたいと思っていた美術館の横を通りました。
まさかこんな状況でここに来るとは。
バスは時間通りに出発しました。
ホッと安心して、すぐに深い眠りに着きます。
目が覚めたら、アヴィニョンに着いていました。
しかし途中で遅れが発生したため、1時間遅れでアヴィニョンに到着。時刻は夜の11時でした。
ちなみに、アヴィニョンの停留所は街の中心から離れており、歩くと1時間はかかってしまいます。
しかし、オーナーからアヴィニョンで使えるレンタサイクルを教えてもらっていました。
バスを降りて早々にアプリをインストールして、近くのステーションに向かいます。
幸運にも自転車は1台だけ残っており、すぐに乗車します。
全力で漕いで、30分程度でアヴィニョンの中心まで向かえました。
その日はなんとかベッドで休むことができました。
シャワーを浴びて眠りについた頃には深夜1時になっていました。
一時はどうなるかと思ったし、結局家には帰れなかったけど、とりあえず寝床にはありつけました。
本当に本当に良かった。
翌日は早朝にアヴィニョンを出発し、無事に家に帰ることができました。
長い旅がやっと終わったのです。
ホッとしたのも束の間、すぐに出発してレストランの仕事に時間通り出勤しました。
まとめ
そんな波乱の旅でした。
今回のミスから学べることはたくさんあります。
まず、節約思考になりすぎないこと。
もう少し自分のためにお金を使ったほうがいいと思いました。
次に、ヒッチハイクは悪くはないが、それに頼りすぎないこと。
自分を過信しすぎない。それも大事だと思いました。
特にトゥーロンは電車が通っているため、最初からそれに乗ってアヴィニョンまで向かっていたら、難なく帰ることができました。
そして、常に選択肢をいくつか持っておくこと。
エクスでBlaBlaCarをキャンセルされたなら、潔く他のバスや電車のルートを探すべきでした。
今回は調べたのが遅かったため、その選択肢をそもそも気付けないまま時間が経ってしまいました。
最後に、夜遅くならないように気をつけること。
ここはフランス。日本のように夜まで電車やバスがたくさん走っている国ではありません。
夏が終わると日が短くなっていき、ヒッチハイク自体も難しくなってくるということを認識するべきでした。
また今回は影響がなかったものの、夜になると治安の問題も発生します。
振り返れば、行きだって危ない橋を渡りかけていました。
それが偶然うまく行ったから計画どおりいっただけのことです。
ただ、不運があれば幸運もあるものです。
夜遅くにアヴィニョンへ向かう高速バスが見つかったり、オーナー経由でアヴィニョンで寝床を用意してもらえたこと。
そのひとつひとつを忘れてはいけないと思いました。
加えて、自分自身に対する問題が起きても、全て自分だけで解決しようとしない方がいいと思いました。
多少の迷惑をかけても早く人に頼れば、解決できる方法が見つかるかもしれないし、他の選択肢が見つかるかもしれない。
そうやって自分を助けることも大事なことでしょう。
もちろん、迷惑をかけた人には後々感謝は伝えるという前提ですが。
今回は僕の驕り、そして節約思考がきっかけでこのようなことが起きてしまいました。
もっと謙虚になるべきだし、もっと自分のことにはお金を使うべきだし。
反省の思いが募ります。
フランスに来てから最大の事件だったけど、無事に終わって本当に良かった。
そんな一部始終でした。
でも、そんな自分を労ってあげるのも大事なことです。おつかれさま。
これからもこの田舎町での生活は続きます。
↓ワーホリのきっかけなどはこちらに書いてます。