1日で回れる天下一品の最大店舗数
【1】駄文のはじめに
天下一品というラーメン屋がある。
鶏ガラベースのこってりラーメン界の盟主の座をほしいがままにする、ラーメン激戦地京都発のラーメンチェーンである(「天下一品はラーメンではない。『天下一品』だ。ラーメン呼ばわりするとは何事か」という急進主義的な思想をお持ちの方がおられたら、そうした論争は本稿の目的とするものではないので、よろしければ振り上げた拳をおろしていただきたい)。
他店ではそう味わうことの出来ない、完食をためらうほどに濃厚なスープを、「もうすこし飲もうかな、いやでも最近太ったしな」と逡巡し、同席した友人が食べ終わるのを待つ間にコップの水→スープ→水→スープ→…と無限に繰り返し、丼の底の「明日もお待ちしてます。」を読み上げるに至り、一抹の後悔を胸にまた来ます!と清々しい気持ちで店を出る、そんな経験は、青春を京都で過ごした方に限らず、大勢の方がお持ちだろう。
齢30を超え、そう軽々と天下一品こってりの完飲など出来ない、まして今は緊急事態宣言下、都内の天下一品に深夜ふらっと立ち寄ることは出来ない、というもどかしさに耐えかね、ある日気づいたら天下一品様の店舗一覧ページにアクセスし、写経よろしく店舗一覧のコピー&ペーストを繰り返し手元でリスト化してしまっていた。また徳を積んでしまった。
図らずも地理屋のはしくれ、せっかく「天下一品の店舗リスト」なるこってりした地理情報を手にしたのだから何かしらやってみよう、という気晴らしを駄文に起こしたノートです。お時間ある方だけお付き合いください。
【2】用意するもの
用意するもの:
・天下一品店舗リスト(住所入り)
・ジオコーダー/アドレスマッチングツール
このノートではEsriの提供するジオコーダーを、ArcGIS Platform (ArcGIS Developer Subscription Essentials)経由で使用します。なおArcGIS Developer Subscription Essentialsは、無課金で毎月一定のArcGIS Platform各サービスを使用できる開発者向けのライセンスです。ArcGIS Platform経由で、Esriのクラウドサービス(ArcGIS Online)の各サービス(ジオプロセシングツール、ジオコーダー、レイヤーのホスティングetc)も使えてしまう、趣味:地理の人におすすめしたい逸品です。パケ死(死語)に注意
・ルート解析用ツール&データ
「巡回セールスマン問題」ないし「VRP」などと業界で呼称されているような問題を解くことが出来るツールと道路データを使用します。マッチョな人は自力で作ってください。このノートではEsriの(以下略
用意してもしなくてもよいもの:
・天下一品ではこってりしか頼みません、あっさりとか邪道よ、という洛中ネイティブもびっくりするほど排他的・保守的な精神
【3】住所データ入りリストをGISデータに変換する
業界では「ジオコーディング」と呼ばれます。「アドレスマッチング」と呼ぶ党派の方々もおられるとおもう。手元の住所データを、住所データと座標データ(緯度経度など)を対応させるマスターに突合させることで緯度経度などの座標情報を付与するものです。
ジオコーディングについての詳細な説明と、ArcGIS Onlineでのジオコーディング手順の詳細は割愛。もし、ArcGIS Online の操作習得を目的にこのノートにたどり着いた方がおられたら、ぜひESRIジャパン製の逆引きガイドをご参照ください。
ということでBefore(住所だけのExcelデータ)
こちらがAfter(座標を付与してArcGIS Online のフィーチャサービスにしたもの)
そしてこちらが都道府県別の店舗数&ヒートマップ
すごいぞ関西、頑張れ東北。そういえば仙台の天下一品にだけ(たぶん)ある土鍋チーズとかいう狂った(褒めてる)メニューは一見の価値アリです。寿命が縮んでいくのが実感できます。閑話休題。
【4】では1日で回れる最大の店舗数は?
本題に入るにあたって、まずは本問題にまつわる社会的要請と、その背景にある課題を整理しつつ、問題の前提を整理しましょう。
「天一の日」という記念日をご存知でしょうか。「10」と「1」を「てんいち」になぞらえて、毎年10月1日を天下一品を愛し、その愛を確かめる日と定めているものです。本当の由来は知らない。大切なのは、その日に天下一品でラーメンを食べると「ラーメン無料券」を1枚プレゼントしてもらえる、という事実です。つまり、10月1日に天下一品に行き続ける限り、無限に敬愛するこってりラーメンを実質無料で食べ続けられるということです。
ここで誰しもが行き着く疑問です。「では、1日に回れる天下一品の店舗数はどれくらいが最大なのだろうか」と。
ということでこれからは、以下の前提に基づく地理的な問題を説いていこうと思います。業界的には「巡回セールスマン問題」や「VRP(Vehicle Routing Problem)」などと呼称されていると思います。一定数(大抵の場合、1人ではない)の従業員や作業者で、決められた顧客あるいは作業箇所をもっとも効率的にめぐる目的地の割当・ルートを導く、という、GISが抱えるネットワーク解析の中でもかなり乙な問題です。
前提:
・スタート地点およびゴール地点は京都市左京区北白川「天下一品総本店」
なぜなら「天一の日」に配布される無料券の通し番号が「0000001」番の券は総本店で当日最初に配布されるからです。ド深夜から並んで1番の整理券を入手した友人がこのコロナ禍を健やかに過ごしていることを願います。
一日を天下一品に捧げたのであれば、最後は聖地たる総本店に一礼を捧げたくもなるだろう、という思いのもと、ゴール地点も総本店とします。
・各店舗を回る人間は1名とする
・総本店の開店時間11時~翌3時までの16時間かけて回れるだけの店舗を回る
・店舗間の移動は自動車、駐車場を探す&駐車場と店の行き来にかかる時間は無視する
・各店舗に到着してから出発までは一律30分かかるものとする。
実際には京都盆地の学生であれば自転車、観光客であればみんな大好き京都市バスなどを駆使することが想定されますが、まあこれは趣味作業なので妥協。京都盆地に自家用車で突入することは、ぶぶ漬け云々なんかよりも遥かに非常識的な行為であることを付言します。
なおArcGIS Online では、数項目の条件入力(下図)だけでこの処理を回すことが出来ます。楽ですね。こうして理論は軽んじられていくんだろうなあ。勉強しよう。
ということで処理を回した結果がこちら
店舗数と回る順序は以下の通り。
23店舗。
悲しいかな、京都府から出ることは出来ませんでした。(ちなみに店舗滞在時間を15分で計算したときは、滋賀県の一部店舗まで回れるようでした)意外ながら、新京極(京都市中心街付近)店も回れていません。京都でお過ごしの方ならおわかりかもしれませんが、あの辺りは車両が入れないので、その関係かもしれませんね(原因追求放置)
なおご参考まで、天下一品さんによると、こってり並の1杯あたりカロリーは「949kcal」だそうです。23店舗すべてでこってり並を完食したとすると、1日の摂取カロリー量は21,827kcal。
実行はやめておきましょう。
【5】おわりに・お断り
以上、1日で回れる天下一品の最大店舗数でした。天下一品への変わらぬ愛を改めて確認する一方で、GISってどんどん気軽に触れるようになって来たなあ、と改めて感じるところでした。あかんお腹へってきた。
はやく、酔っ払った頭で赤丸に白線のあの看板に吸い寄せられて終電間際にこってりを完食するような日常が戻ってくることを強く祈念して、駄文を終えようと思います。お読みいただいた奇特な方ありがとうございました。僕からは以上です。
本記事で使用している天下一品店舗情報は、天下一品様Webサイトで掲示されているものを2021年6月1日に入手したものです。店舗のプロットには細心の注意を払っていますが、すべての店舗を正確な位置にプロットしていることを保証するものではありません。
なお、本記事は天下一品こってりに対する執着じみた愛着を執筆動機として作成していますが、天下一品様をはじめどなたかに怒られたら削除いたします。申し訳ございません。
本記事で使用しているGISツール、Esri社のArcGISは、開発・検証用途向けライセンス「ArcGIS Developer Subscription Essentials」に付属するものを使用しています。本記事は何らかの営利を目的としたものではなく、個人の技術検証・操作演習を目的としているものであることを改めてお断りします。