
Religion of Tomorrow要約:パート1
昨年、成人発達学者の加藤洋平先生の事を知り、毎週楽しみに成人発達コラボラジオを聞いていました。加藤先生が帰国した時のイベントで初めてお会いして、これまでの自分の宗教的経歴を書いたnoteを共有したところ、ぜひコラボラジオをしようと誘っていただき、既に数回の収録を行いました。
Ken WilberのReligion of Tomorrowなどの書籍を一緒に読み進めながら、お互いの気付きを共有していくというアイデアから、Individual Study Projectという大学のシステムを利用して正式な授業として、大学の教授も含め、素晴らしい先生たちと語り合いながら、心から楽しみながら一学期学びを進めていく、最高のプロジェクトとして始動しました。
このような素晴らしい機会をいただいたことに感謝しながら、せっかく視聴者の皆さんのお時間を頂くからには、価値あるコンテンツを提供したいと思い、改めてなぜ自分はこのプロジェクトを進めていきたいのか、じっくり考えました。
まず、これは自分の過去を振り返り、その過去を作り出したより大きな流れに対しての理解を深める旅路です。特に、自分の宗教的背景に関して、まだ自分は満足できる理解ができておらず、独特な経験を持つ一人のサバイバーとして、宗教によっていまだ苦しむ人たちのために何ができるかもわかりません。RTSについて学ぶことである程度理解は深まりましたが、より多くの視点からの解析が必要だと感じています。
同時に、過去を整理して学び進めるほど、当時の感情の生々しさは薄れていき、当事者としての声を届けられなくなっていくのも感じています。自分の癒しが進むことでまた異なった役割を果たすことになるのでしょうし、数年後には宗教とは全く違う分野に従事することになるかもしれません。であるが故に、今この過渡期のあるがままの感じ方や捉え方を、文章や音声で記録に残して伝えたいと思うのです。
そして、まずはインテグラル理論が宗教をどのように捉えるか徹底的に理解し、その上で改めてなぜ宗教が苦しみを生むのか考え直してみたいと思っています。色々と調べてみましたが、宗教トラウマについて説明する時にインテグラル理論やスパイラルダイナミクスを言及する人はちらほらいても、この二つを掛け合わせた本格的な分析を行なっている人はほぼいないようなので、インテグラル理論の応用として、また宗教トラウマの新しい視点からの研究として、一つ価値があるものになるのではないかと思っています。
Religion of Tomorrowは現在翻訳が進められているそうですが、まだ日本語で内容を読むことはできませんし、仮に出版されたとしても800ページにもわたる大作です。しかし、この本に書かれていることは、一つの興味深い視点という以上に、変化しようとしている時代の声の代弁であるように感じるため、要点だけでも良いので皆さんに届けたいと思っています。とはいえ、ラジオで本の内容の解説だけしていたらそれで終わってしまうため、事前に各チャプターの要約をnoteで公開し、収録中は対話だからこそ生まれる新たな気付きを共有できたらと思っています。そしてある程度自分なりの考えがまとまったら、インテグラル理論の観点から宗教トラウマについて包括的に分析したエッセイを、日本語と英語で書いて公開するのがひとまずのゴールです。
ということで、以下個人的なバイアスもかかった読みにくい要約ではありますが、パート1の内容をまとめてみました。より正確な内容は訳書にお任せします。この内容を読んでくださった前提でラジオをお聞きいただければと思います。
Introduction
導入
古来より、世界中に聖者や賢者が存在し、宗教は彼らの智慧を伝えてきました。 一般的に宗教というと「何を信じるか」が重視されがちですが、多くの宗教の核心にあるのは、「私たちは皆一つであり、宇宙のすべてそのものである」といった内容の絶対的真理、そしてそれに気づくための「目覚めの道(WAKING UP)」に関する教えと実践です。
一方、発達心理学の発展により、私たちが世界を理解する枠組みは、「成長の道(GROWING UP)」を辿ることで、個人と社会の成長とともにより包括的に発達していくことが明らかになりました。
目覚めによってもたらされる絶対的真理そのものは時代を超えて不変ですが、その体験をどのように伝えるかは、私たちの世界観の変化に応じて変わっていきます。 現代において、絶対的真理についてほとんど知らない人々に「目覚めの道」を伝えるためには、宗教が心理的な「成長の道」への理解を深め、時代に合わせた形へと変容していく必要があるのです。
Part One: A Fourth Turning of the Dharma
第一部:四転法輪
1. What Is a Fourth Turning?
四転法輪とは?
仏教は、歴史の中で大きく三つの発展段階を辿ってきました。これらは三転法輪とも呼ばれています。
原始仏教・上座部仏教
ブッダは四諦・八正道を説き、苦しみ(苦)の原因とその克服方法を示しました。 個人の解脱を重視し、出家修行が中心でした。大乗仏教と空の思想
紀元前後から、「すべての存在は本質的な実体を持たない(空)」という思想が生まれ、大乗仏教が発展しました。ナーガールジュナ(龍樹)による「中観派」の理論がその中心にあり、利他行を重視し、すべての衆生が悟りへ向かうことを目指すという新たな方向性が示されました。唯識思想と密教の登場
5~6世紀頃になると、アサンガ(無著)とヴァスバンドゥ(世親)によって「唯識」思想が確立され、すべての現象は心の働きであると説かれました。また、密教が発展し、「煩悩すらも悟りの道具とする」実践体系が生まれました。 密教は中国・チベット・日本に伝わり、それぞれの地域で独自の展開を遂げました。
仏教は、「すべてを手放す」ことから始まり、「すべてを受け入れる」方向へと発展してきました。科学や心理学が発展した今、あらゆる分野と対話しながら、仏教がもう一段階進化を遂げる時が来ているのではないでしょうか。
2. What Does a Fourth Turning Involve?
四転法輪の内容
An “Integral” View
統合的視点
クレア・グレイブスらの研究によると、人間が世界を理解する枠組みは、本能的(ベージュ)、呪術的(パープル)、呪術神話的(レッド)、神話的(ブルー)、合理的(オレンジ)、多元的(グリーン)、統合的(イエロー)、超統合的(ターコイズ)(括弧内はそれぞれの段階を呼称する時に使われる色)という段階的な発達を辿ることが明らかになっています。
特に注目すべきは、これまでの発達段階に部分的な真理を見出し、それぞれに適した形で成長と発達を促すことができる「統合的(インテグラル)」な段階が、近年あらゆる分野で出現していることです。この統合的観点を持つ人々が人口の10%を超えたとき、地球上のどの文明も成しえなかった革新的な変化が起こると予測されています。
宗教もまた、この変革のプロジェクトに関与することで、大きな役割を果たせるのではないでしょうか。
Freedom and Fullness: WAKING UP and GROWING UP
自由と豊かさ:「目覚めの道」と「成長の道」
私たちは、自身の精神構造を通してしか世界を見ることができません。そのため、この意識構造という隠れた地図や「心の文法」の存在に、自ら気づくことはできないのです。
多様な視点を獲得していく「成長の道」は、私たちが生きる中で誰もが自然と歩むものですが、その構造が心理学によって明らかにされたのはごく最近のことです。
一方で、精神伝統が伝えてきた、本来の自己に気づくための「目覚めの道」は、瞑想などの自主的な実践を通じて初めて開かれるもので、自然にはほとんど起こりません。
そのため、現代の心理学や社会は「成長の道」については理解しているものの、「目覚めの道」についてはほとんど知られていません。反対に、長い歴史を持つ精神伝統は「目覚めの道」を深く理解しているものの、「成長の道」の心理学的な構造にはほとんど気づいていないのです。
この二つの道を同時に意識的に歩むことを促す仕組みが、今求められています。
Spiritual Intelligence versus Spiritual Experience
霊的知性と霊的体験
スピリチュアリティ、すなわち霊性には、「霊的体験」と「霊的知性」という二つの側面があります。それぞれ、意識の状態を開いていく「目覚めの道」と、意識の構造を発展させていく「成長の道」に対応しています。
ある人が霊的体験をしたとき、その体験の解釈はその人の霊的知性の段階に応じて変わります。たとえば、西洋の宗教を代表するキリスト教は、本来「キリスト意識」の直接体験に基づいていました。しかし、当時の教会にとって、神秘的な体験や神秘思想は支配や管理が難しく、都合の悪いものでした。 そのため、こうした神秘的要素は弾圧され、聖書の文字通りの解釈が強調されるようになりました。結果として、多くの人々の霊的知性は神話的段階にとどめられることとなったのです。
近年、「Spiritual but not religious(宗教には属さないがスピリチュアル)」と自認する人が増えているのは、神話的段階の霊的知性を受け入れることができない一方で、霊性の体験的側面を求めているからだと考えられます。
宗教がより統合的なあり方へと進化していくためには、霊的体験を正当に評価し、それをより発達した霊的知性をもって解釈し、伝えていくことが不可欠なのです。
Understanding the “Culture Wars”
「文化的対立」を理解する
神話的段階は神の言葉を原理主義的に重んじ、合理的段階は科学的手法や発展を重視し、多元的段階は多様性や持続可能性を尊重します。これらの異なる価値観は、世界各地で文化的対立を引き起こしてきました。
しかし、統合的段階に至ると、それぞれの観点に部分的な正しさを認め、どの立場も世界を構成する重要な要素として理解できるようになります。この視点は、霊性に関するアプローチにも同様に適用されるのです。
Shadow Work
シャドウワーク
自己の一部を抑圧することで「シャドウ」が形成され、それがさまざまな問題を引き起こすという心理学的発見は、比較的最近のものです。
瞑想を実践すると、シャドウを認識しやすくなることがあります。しかし、それだけでは根本的な解決には至らず、場合によっては問題を悪化させることさえあります。 そのため、瞑想的実践と心理療法を組み合わせることが重要なのです。
Concluding Remarks
章の終わりに
「目覚めの道」には、グロス(粗大)、サトル(微細)、コーザル(因果)、ウィットネス(目撃者)、ノンデュアル(非二元)の五つの意識状態の段階があると言われており、これらは意識構造の段階に応じた理解や解釈がなされます。
現在、多くの宗教が抱える問題の一つは、仏教をはじめとする東洋の宗教に多く見られるように、意識状態の段階については深く理解されているものの、意識構造の発達が初期段階で止まってしまっているケースです。
もう一つの問題は、キリスト教などの一神教や一部の東洋宗教に多く見られるように、意識状態の段階についてもほとんど知られず、意識構造の発達も初期段階で停滞しているケースです。
これからの世界で宗教が本来の役割を果たしていくためには、「目覚めの道」、「成長の道」、そしてシャドウワークを行う「癒しの道」のすべてを包含することが不可欠となるでしょう。