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生成AIの社内利用率を上げるには?

はじめに

最近、生成AIの活用について「社内での利用率をどう上げるか」という相談を多く受けるようになった。

特に目立つのが「一部の人たちには受け入れられているが、全社的な浸透が難しい」という悩みだ。

生成AIの可能性を感じてはいるものの、どこから手をつければ良いのかわからない、という声も少なくない。

こうした課題を考える上で参考になるのが、スマートフォンの普及に関する事例である。

スマートフォンが市場に出た当初、多くの人が「ガジェット好きが使うもの」と考えていた。

しかし、時間が経つにつれて「便利だから」という理由で広がり、今では欠かせない存在となった。

ここには明確な変化の段階があり、「好きで使う層」と「便利だから使う層」という2種類のユーザーが存在していたことがわかる。

生成AIの社内普及も、これと同じような流れになるだろう。

今回は、生成AIを社内で推進する際に意識すべき「好きだから使ってる派」と「便利だから使う派」という2つのタイプに着目し、それぞれに響く施策を提案する。

好きだから使う派には、探究心をサポートする時間や環境の提供が鍵となる。一方で便利だから使う派には、業務フローに組み込む形で具体的なユースケースを提示することが重要だ。それぞれの特性を理解し、適切なアプローチを取ることで、社内での生成AI活用率を効率よく向上させることができるだろう。

生成AI活用をめぐる2つのユーザー像

生成AIを社内で浸透させるためには、従業員のタイプを理解し、それに合ったアプローチを取ることが重要である。

特に注目すべきは「好きだから使う派」と「便利だから使う派」という2つのユーザー像だ。

それぞれの特徴を掘り下げることで、どのような施策が効果的かが見えてくる。

好きだから使う派(エバンジェリスト候補)

このタイプのユーザーは、AIや新しい技術そのものに対して強い興味を持っている。

例えば、「新しいツールがリリースされたら真っ先に試してみたい」「最新のテクノロジーに触れるのが楽しい」といった好奇心が原動力だ。

彼らは自主的に生成AIの使い方を探求し、時には周囲の人に使い方を教える立場になることも多い。

この層にアプローチする際の鍵は、彼らの探究心を満たす「時間」と「環境」の提供である。

たとえば、

  • 月に一度、生成AIに関する自由研究の時間を設ける

  • 高度なプロンプト設計やAPI連携を学ぶための勉強会を開催する

  • 社内で最新のAI活用事例や技術トレンドを共有する場を作る

といった施策が効果的だ。

これにより、好き派の知識やスキルが深まるだけでなく、組織全体のAIリテラシー向上にもつながる。

 便利だから使う派(実利重視層)

一方で、便利派のユーザーは新しい技術そのものにはさほど興味を持たない。

しかし、業務の効率化や時間短縮といった実利が明確であれば、生成AIを活用する可能性が高い。

「便利じゃなければ使わない」「最初の導入が面倒」と感じがちなため、この層には具体的で簡単に取り入れられる事例を提示することが重要だ。

たとえば、

  • 営業資料や提案書を自動生成するテンプレートを配布する

  • 日常業務に役立つ活用例を動画やデモを通じて共有する

  • SlackやTeamsなど、普段使っているツールと生成AIを連携させる

といった施策が考えられる。

便利派にとって重要なのは、生成AIを「特別なツール」と感じさせず、「日常業務を補完する存在」として受け入れてもらうことである。

 施策の切り分け:深める vs. 広げる

好きだから使う派(エバンジェリスト候補)と便利だから使う派(実利重視層)の特徴を理解したうえで、それぞれに合った施策を設計することが重要である。

 深める施策(好き派向け)

好き派には、生成AIの可能性をさらに探求し、技術を深掘りする場を提供する施策が求められる。

彼らは社内での生成AI推進の「核」となる存在であり、彼らのスキルや知識が広がることで、他の従業員への波及効果も期待できる。

この層に向けた具体的な施策としては以下のようなものが挙げられる。

  • 時間と環境の提供
    探究心を活かすには時間が必要である。
    たとえば、月に一度の「生成AI研究デー」を設け、自由にツールや技術を試せる時間を確保する。

  • 勉強会やワークショップの開催
    高度なプロンプト設計やAPI連携、カスタマイズといったテーマで勉強会を開く。こうした場では、外部講師を招いたり、社内のエキスパートがリードする形式が効果的だ。

  • 情報共有とコミュニティ形成
    SlackやTeamsなどに専用チャネルを設け、最新の生成AI事例や技術トレンドを共有する場を作る。また、意欲の高い従業員同士が交流できるコミュニティの設立も、探究心を刺激する有効な手段となる。

広げる施策(便利派向け)

便利派には、生成AIが日常業務の中で自然に利用できる形で導入されることが重要である。この層は「面倒だと使わない」傾向が強いため、実利をわかりやすく伝えることが鍵となる。

便利派に向けた具体的な施策としては以下のようなものがある。

  • 日常業務への統合
    生成AIをわざわざ立ち上げるのではなく、普段使っているツールに組み込む形で提供する。たとえば、SlackやTeamsのチャットボット機能と生成AIを連携させ、質問や業務サポートが簡単に行える仕組みを整える。

  • ユースケースの提示
    営業資料や提案書の作成、データ集計、簡易なメール返信といった具体的な活用例を示す。また、実際に生成AIを試した社員の成功事例を共有することで、「自分にもできそう」という共感を生むことができる。

  • ハードルを下げる取り組み
    初期の導入サポートを手厚くし、試験的に利用できる「お試しプロジェクト」を設ける。たとえば、1週間限定で生成AIの活用による業務効率化を実験し、その成果を全社で共有する。

両施策に共通するポイント

好き派と便利派の施策はそれぞれ異なるが、共通する重要なポイントがある。

それは「使うことで成果が実感できる環境」を整えることである。

好き派には自由な探究を支援し、便利派には実利を実感させることで、双方にとって価値のある取り組みを設計することができる。

既存ワークフローへの統合が鍵

好き派と便利派の双方に対して有効な施策を実行したとしても、最終的に生成AIが組織に根付くかどうかは「既存ワークフローへの統合」にかかっている。

社内での活用が日常業務の一部として自然に行われるようになることで、生成AIの利用率はさらに向上し、持続的な活用が可能となる。

なぜワークフローへの統合が重要なのか

生成AIの価値は、単発の業務効率化ではなく、継続的な活用によって最大化される。

そのためには、ツールを「特別なもの」としてではなく、日常の業務プロセスの一部として組み込むことが欠かせない。たとえば、以下のような現象が起きると、普及が進みにくい。

  • 毎回ツールを立ち上げる手間が発生し、利用のハードルが高くなる

  • ワークフローと生成AIの活用方法が明確に紐づいておらず、効果が見えにくい

  • ツールの導入後、フォローアップが不足し、利用が停滞する

こうした課題を克服するには、生成AIを既存の業務プロセスやツールと統合し、従業員が意識せずとも利用できる環境を整えることが重要である。

 統合の具体例

ワークフローへの統合を進めるための具体策として、以下の方法が考えられる。

  • コミュニケーションツールとの連携
    Slackなど、従業員が日常的に使用するツールと生成AIを連携させる。たとえば、チャットボットを通じて生成AIに簡単な質問をしたり、テンプレート生成を依頼したりすることで、利用がスムーズになる。

  • 既存業務システムとの組み込み
    経費精算や勤怠管理、顧客管理といった既存の業務システムに生成AIを組み込み、必要な情報を即座に生成できるようにする。これにより、従業員が生成AIの利用を意識せずとも、業務が効率化される。

  • テンプレートやワークフローの事前設計
    よくある業務シナリオをもとに、生成AIを活用するテンプレートやフローを事前に設計し、従業員に提供する。たとえば、「問い合わせメールの作成」「週報の下書き」といった具体的な業務で利用できるフォーマットを準備することで、初期の導入がスムーズになる。

フィードバックループの構築

生成AIが日常業務に組み込まれた後も、継続的に利用を促進する仕組みが必要である。そのためには、定期的なフィードバックループを構築することが効果的だ。

  • 利用状況のモニタリング
    ツールの利用頻度や活用方法をモニタリングし、必要に応じて改善案を提示する。

  • 従業員からの意見収集
    利用者からのフィードバックを定期的に収集し、ツールの使いやすさや業務への適合性を向上させる。

  • 成果の見える化
    生成AIの活用による業務効率化や時間短縮の成果をデータで示し、従業員にとっての利用価値を実感させる。

まとめ

生成AIを社内で効果的に活用するためには、「好きだから使う派」と「便利だから使う派」という2種類のユーザー像を理解し、それぞれに応じたアプローチを取ることが重要である。

好き派には、探究心をサポートするための時間や環境を提供し、技術を深く学べる機会を用意することが鍵となる。

一方で便利派には、生成AIを日常業務に組み込む形で提供し、具体的なユースケースを示して実利を実感してもらうことが求められる。

さらに、どちらの層に対しても「既存ワークフローへの統合」が成功の鍵を握る。

生成AIを「特別なツール」ではなく、「業務を支える自然な一部」として位置づけることで、利用のハードルを下げ、継続的な活用を促進することが可能となる。

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